映画版「けいおん!」のキービジュアルに見る全日本プロレスからの影響
早いもので、劇場版「けいおん!」の封切り日が直前に迫ってまいりました。
テレビ版第二期の最終話、そのラストで発表された「映画化決定!!」の報から、早一年余り。公開日を前に、「けいおん!」を愛するファンのボルテージも最高潮に達しているようで、ファンのBLOGなんかを覗いてみても、そこでは日々「けいおん!」に対する熱い思いや考察が綴られています。
そんな中でも、一際、私の目を引いたのがこのエントリです。
■「映画 けいおん!」のキー・ビジュアルの背景がキングス・ロードである理由についての一考察(忘れられた庭の静かな片隅)
映画版「けいおん!」のキービジュアルになっている、英国のキングス・ロードに注目し、そこから作り手が背景に込めたニュアンスやロック・ミュージックのヒストリーを紐解いていくという素晴らしいエントリ。「けいおん!」愛に溢れたその内容に、私もこの記事を大変楽しく読ませていただいたのですが、そこに加えて、拙BLOGでは自分なりの視点から映画版の「けいおん!」を、そして、そのビジュアルに抜擢をされたキングス・ロードというロケーションが持ち得る意味とスタッフの意図をアレやコレやと考えてみたいと思います。
■放課後ティータイム=四天王プロレス説
かつて、私は以下のようなエントリを書き、「けいおん!」の主要キャラである5人のガールズ…つまり、放課後ティータイムのキャラ造型は、90年代の全日本プロレス黄金期を支えた熱く激しいプロレス…所謂"四天王プロレス"からの多大な影響を受けているという旨のエントリを書かせていただきました。■「けいおん!」とプロレスに見るキャラクター性 - 放課後ティータイム=四天王プロレス説!
つまり、天然愛されキャラの平沢唯は小橋健太(現:建太)に、
メンバーの中でも、その甘いマスクで絶大なファン人気を誇った秋山澪は三沢光晴に、そして、そんな澪(=三沢)と古くからの縁故を持ち、他のメンバーに比べるとその絶対数は少なくとも、特に熱狂的なファン層を獲得した田井中律は川田利明がモデルとなっており、
お金持ちのお嬢様と各界の力士というエリートの出自と同時に、おっとりした性格も似ている琴吹紬は田上明に、
主要人物となる四人に比べると、その登場時期は遅れるものの、高いスキルと人気で一躍ストーリーの中心人物となった"遅れてきたルーキー"中野梓は、秋山準にそれぞれオマージュを捧げたキャラになっているのです。
このキャラ造詣を見てみるだけでも、如何に原作者のかきふらい先生が全日本プロレスが好きだったかが伝わるというものです。そして、「けいおん!」への全日本プロレスからの影響と全日愛は、こうしたキャラクター性だけではなく、劇中の台詞なんかにも如実に表れています。
例えば、ファンの間でも印象に残っている、あずにゃんの「やってやるです!」という台詞なんかもそうですよね。その語感の良さが独り歩きし、結果、「ヤッテヤルデス」という珍妙な二次創作キャラすらも生んだ名台詞ですが、その誕生の陰にもやはり全日本プロレスあり。
皆さんも既にお気づきでしょうが、あの台詞っていうのは、"ド演歌ファイター"越中詩郎の決め台詞「やってやるって!」へのオマージュですよね、完全に。
やってやるって! 風が吹くって! 越中、マジカッコ良いって! あと、引用している動画の中で越中のタッグ・パートナーに付いている小原道由の歩き方が、完全にヤバいって! 小原、この前に友人が運転する車の助手席に乗っていたら、横から突っ込んできた車に追突されて「気がついたらシートの背もたれの方に向かって正座した格好」で座っていた程の衝撃を受けたせいで、全身の神経がグチャグチャになっていた頃だって! でも、プロレスラーはそんなに身体がボロボロでも、リングに上がるんだって! それがプロレスラー魂だって! 本隊のヤツラをビックリさせてやるって! きっと、コレを観て、かきふらい先生もビックリしたに違いないんだって〜!!(ロープに振った相手にヒップアタックをした後に、パワーボムを仕掛けている最中にテンションが上がり過ぎて意味不明な動きをする越中詩郎のモノマネをしながら、平成維震軍の旗を振りかざしつつ)
劇中で一度はジャズ研への入部やライブハウスで活動するミュージシャン達とのバンド結成を決意しつつも、結局は軽音部に入るという梓のストーリーラインも、恐らくは、全日本プロレスでデビューをしながら、後に、あのジャイアント馬場に背を向け、新日本へと移籍した越中のプロレス人生に対するリスペクトを込めたものだったのでしょう。IWGP Jr.の初代王者というタイトル歴や、高田延彦との"新・名勝負数え歌"、平成維震軍(越中が結成した反体制ユニット)時代のイメージが余りにも強烈なせいで、新日本プロレス所属という印象が強い越中詩郎ではありますが、その出自はやはり全日本プロレス。この辺りからも、「けいおん!」が如何に全日から強い影響力が存在をしているのです。
あずにゃんのモデルは、秋山準であると先ほど断言をさせていただきましたが、こうして考えてみると、そのキャラ造詣には越中からの多大な影響もありそうです。よくよく見比べてみると、この二人、見た目も本当に良く似ていますからね。
顔なんか、ほら、本当にソックリ!
具体的には、目と鼻と口と耳がある辺りが、瓜二つです! あずにゃんは、サムライ・シローにソックリだって! やってやるって!!
あずにゃん=越中詩郎と考えると、思わず放課後ティータイムの他のメンバーや「けいおん!」のサブキャラ達も、平成維震軍のレスラー達に当てはめてみたくなりますが、ここではちょっと時間の都合で割愛をさせていただきます。…でも、さわ子先生は、グレート・カブキだと思います。一番年齢がいっていて、ド派手なメイクをしている辺りが。あと、澪は後藤達俊で、律は小原道由(マッド・ドッグス)。
■映画版のキービジュアルにキングス・ロードがチョイスされた意味
ここまで書いた時点で、最早「けいおん!」という作品のモチーフに、如何に全日本プロレスへのラブとリスペクトが込められているかが分かっていただけると思うのですが、中には「それはいくら何でもこじつけだろう!」と思われている方もいらっしゃるかと思います。余りの支離滅裂っぷりに、初めてTAKAみちのくのプランチャを観た時の長州力の如く、私に対して「アイツは宇宙人か!」と思っている方や、東京ドームで行われたザ・グレート・サスケ戦後のコメントスペースで、海援隊のメンバーに対していきなりブチ切れだす獣神サンダーライガーの如く怒りの獣神化している方もいることでしょう。「ライガーさん、僕もいかせてください!」「うっせぇ! コラッ!!(激怒)」(なだめるサスケにまでキレるライガー)確かに…確かに、ここまでの話だと、些かムリがあるでしょう。どー見ても川田利明の必殺技「ストレッチプラム」の丸パクリにしか見えない「冬木スペシャル」を自身のオリジナル技だと主張し、プロレス雑誌記者にその違いを尋ねられた際に、「小指一本の角度が違う!」と言い張った冬木弘道の発言くらいムリがあります。まさに、理不尽大王。
しかし、ここで冒頭に書いた映画版のキービジュアルに描かれたロケーション…キングス・ロードについて考えてみれば、この「けいおん!=全日本プロレス説」が、より一層の説得力を持ってファンの胸に迫ってくるのです。
「キングス・ロード」は直訳すれば、その意味は「王道」…。そして、全日本プロレスの創設者であるジャイアント馬場が、団体を象徴する哲学として掲げていたキャッチコピーは…そう「王道プロレス」です!
■王道プロレス - Wikipedia
空手や柔道、ボクシングといった他の格闘技との他流試合…所謂、異種格闘技戦に代表される「強さ」を全面に打ち出したアントニオ猪木の新日本プロレスに対し、「受け身」にこそプロレスの醍醐味と美学を見出した"東洋の巨人"ジャイアント馬場。その馬場が生んだ"王道"という概念、哲学は、時代が代わった今も、全日本プロレスというプロレス団体の代名詞として、プロレス界に生き続けています。
そして、その"王道"という言葉を、映画版のキービジュアルにそっと挟み込んだアニメ版「けいおん!」スタッフ…。かきふらい先生の全日愛を受け継ぎ、オリジナル作品となった映画版でも、全日本プロレスのエッセンスを作品に盛り込んだ、その志の高さとプロレスに対する深い愛情に、私は、武道館の三沢vs.小橋戦を実況席から観た時のジャイアント馬場の如く、そっと涙を流すしかありません。馬場さんが泣いています!
思えば、映画版の舞台になっているイギリスという国も、かってはプロレスが盛んに行われていた国。ダイナマイト・キッドとデイビー・ボーイ・スミスのタッグチーム、ブリティッシュ・ブルドッグスを即座に連想される方も多いでしょう。
コレは、私の勝手な予想になるのですが、恐らくは映画版の「けいおん!」の主なストーリーは、英国の伝統的なレスリングのスタイルである"キャッチ・アズ・キャッチ・キャン"や"ランカシャーレスリング"を放課後ティータイムのメンバーが習得しに行く…という内容になるのではないかと思います。ビリー・ライレージム(英国最も有名なプロレスー育成道場)辺りに。
思えば、英国の伝統的なサブミッション(関節技)を重視した"キャッチ・アズ・キャッチ・キャン"と呼ばれるレスリングのスタイルも、その語感は非常に"あずにゃん"に似ています。恐らくは、中野梓の"あずにゃん"というニックネームも、ここから取られているんでしょうね。…きゃっちあずきゃっちきゃん、きゃっちあずきゃっちにゃん、…っちあずきゃ…にゃん、…あっずにゃん、あずにゃんといった具合に。そういったキャラクターの名前一つ取っても、「けいおん!」という作品とプロレスの深い関係が…そして、"英国"という地が劇場版の舞台に選ばれた真の理由というのが見えてくるというものです。
「けいおん!」という人気作品を形作る要素の一つ一つをとってみても、そこには長い長いプロレスのヒストリーと、強い影響が存在をしている…。プロレスには、決して"ネヴァー・セイ・ネヴァー"という言葉は存在しないのです(フミ斎藤調)。
■まとめ
このように、「けいおん!」とプロレスの深い関係性を考えてみれば、おのずと映画版の舞台に英国が…そして、キングス・ロードというロケーションが用いられた理由が見えてきます。ちなみに、馬場亡き後の全日本プロレスは、武藤敬司が新社長となり、そのムトー全日本に所属していた宮本和志(と団体スタッフ数名)が退団後に、これまた"キングスロード"という"王道"を、その名に掲げた新団体を設立していたりもしたのですが、コッチは旗揚げから一年足らずで崩壊しました。
…映画版の「けいおん!」には、宮本と同じ轍を踏むことなく、"王道"という概念を、そして、全日本プロレスの歴史を受け継いで欲しいものだと切実に思います。
さて、余談ではありますが、今現在のプロレス界で最も優れた英国人レスラーといえば、新日本プロレスのプリンス・デヴィット! この選手を置いて、他にはいないでしょう!
その高い運動神経に、端正なルックス、何より新日本プロレスジュニアのハイスピード、ハイフライなスタイルに影響を受けつつも、生まれ故郷である英国(デヴィットは、正確にはアイルランド出身のレスラーですが)で修業し、イギリスのオールド・スクールなレスリングも修得しているプリンス・デヴィットの存在は、今のプロレス界を見てみても、非常に個性的かつ魅力的な特異点の一つと言えます。そして、デヴィットは現役進行形のIWGP Jr.のチャンピオン…。まさに、今、生で見ておくべきプロレスラーです。
偶然にも、放課後ティータイムのメンバーが英国へと旅立った翌日…つまり、劇場版「けいおん!」公開日の翌日となる12月4日の日曜日に、デヴィットは、これまたジュニアヘビーの強豪外国人選手である"フルメタル・ブルドッグ"デイビー・リチャーズの挑戦を名古屋で受けて立つことになります。
これは、名古屋の「けいおん!」ファンは、映画館の後に、新日本プロレスの会場に行き、デヴィットを声を枯らして応援すべきです。また、この試合に勝てば、デヴィットは王者のまま年を越し、来年1月4日に行われる新日本プロレス東京ドーム大会で防衛線を行うことになります。コレは、今年の正月は、映画館で「けいおん!」を観た後に、東京ドーム大会に足を運ぶしかないでしょう!
今年の冬は、「けいおん!」とプリンス・デヴィット、二つの"英国"と"レスリング"の匂いがするムーブメントに要注目です!(大興奮!!)