「輪廻のラグランジェ」を見て、バックドロップについて学んでみよう!
「輪廻のラグランジェ」の第一話を見ての感想で、エントリを更新。そのタイトル通り、視聴者にとっての物語の入り口、プロローグとなる第一話「ようこそ、鴨川へ!」を見ただけでも、本作で主人公に抜擢をされた石原夏織さんの予想以上の好演っぷりに、日産のデザイン協力によるスタイリッシュなロボット、ニューウェーヴの匂いを感じさせるセンス抜群のBGM…と、語りどころが色々と。
ストレートにそれらのアニメ的な要素についての感想エントリを書いてみるのも良いんですが、やはり、拙BLOGとしては、劇中のプロレス描写にこそ注目をして、アレやコレやと語ってみたい。そんなこんなで、第一話のラストで描かれた、バックドロップについて。
■「輪廻のラグランジェ」のバックドロップ
「ようこそ、鴨川へ!」の最後の最後、ハイライトのシーンにレイアウトをされていたのが、主人公である京野まどかの搭乗機、ウォクス・アウラによるド派手な必殺のバックドロップ。しかも、投げた相手をそのまま固めるバックドロップ・ホールド!
ドーン 登場 リング 上がる はーい ラリアット マット 沈める カウント 1 2 3 まるっ! すかさずレフリーのふり ゴンゴンゴンなるゴングの音…と、思わず、私の好きなエレクトロ・ヒップホップ・ユニット、group_inouの「THERAPY」歌い出しのパンチラインに、まどかの決め台詞「まるっ!」をクロスオーヴァーさせて表記したくなるグル―ヴと"プロレス"のダイナミックさに溢れたシークエンス。
バックドロップとは、相手の背後に回り、脇下から顔を出した状態から両手で胴をクラッチし、背筋力を活かして後方に仰け反りつつ、相手をリングに叩きつける投げ技であり、プロレスの華とも言える必殺技。そんなストロング・スタイルのイズムに満ちた大技を細身の「ラグランジェ」のロボットが、しかも可愛い女の娘が乗った状態から繰り出すというだけでも意外性があって十分におもしろいんですが、ビジュアルとしての美しさ、プロレス技としての完成度もここでは評価をしたい。
相手の胴体を掴み、十分な"タメ"を作ってから一気に相手を抱え上げ、マットに沈めた後は美しいブリッジの形をキープし、そのままフォール。カウント、1、2、3、まるっ! で、文句なしの3カウント、フォール勝ち。コレ、後楽園ホールだったら、満員の観客席は大歓声ですよ。
もう、このフォームの美しさですよね。投げた時に、相手が横に逸れることなく真っ直ぐに弧を描き、そして、ブリッジの体勢を美しく保たれている。もしも、これが崩れてしまったら一撃必殺の技としての威力も説得力も半減。
日本では、全日本プロレスの"怪物"ジャンボ鶴田に始まり、新日本プロレスの永田裕志、馬場亡き後の武藤敬司による新体制となったムトー全日本を牽引する若きエース諏訪魔、Noahが誇る超重量級ファイター"箱舟の怪物"森嶋猛といったバックドロップの使い手がいますが、それらに勝るとも劣らない見事な「輪廻のラグランジェ」のバックドロップ。この美しさには、惚れ惚れとします。
■バックドロップについて
ところで、こうした「ラグランジェ」にまつわるプロレス関連の感想をtwitterで投稿していたところ、「ジャーマン・スープレックスとバックドロップの区別がつかない」というリプライをもらいました。なので、ちょっとバックドロップについてのレクチャーを。プロレスを知らない方にはデティールが伝わりづらい部分ではあるんですが、プロレスを代表するジャーマン・スープレックスとバックドロップは違う技。具体的には、投げる際に相手の脇下に頭を入れて背後から胴をクラッチし、後方に投げるのがバックドロップ、そして、相手の真後ろから投げるのがジャーマン・スープレックスです。バックドロップを考案したのは、プロレスの"鉄人"ルー・テーズで、ジャーマン・スープレックスを開発したのは、プロレスの"神様"カール・ゴッチ。
ゴッチは、"プロレス"というストーリー、ファンタジーの世界の中で"冷酷なナチス・ドイツの生き残り"という、もう一つの架空のパーソナリティーを生きていて、そこから"ジャーマン"スープレックスという必殺技の名前が生まれた。バックドロップとジャーマンは、これ位異なるもの。
<横から相手を抱え上げるのがバックドロップ、真後ろから抱えるのがジャーマン>
プロレス技には、それぞれにヒストリーがあり、その中でもバックドロップは、長い長い歴史を持つ伝統的な技。そんな技をアニメの中に持ち込み、そして美しく描き切ってみせた「輪廻のラグランジェ」のプロレス描写に、私は独特の美的評価と歴史のおもしろさを見出します。
そして、もう少しだけ、バックドロップについてのガイドを兼ねた「ラグランジェ」評を。
プロレスとは日々進化をしていくスポーツでありエンターテインメントであり、そして戦いの場。昨日までは一撃必殺の技だったものが、今日は打ち破られ、そして、明日には更に強力な新技が生まれてくる。元々は、一発で相手から3カウントを奪えたバックドロップ・ホールドもやがては、平凡な"繋ぎ技"となり、相手からフォールを奪うためにどんどん過激に進化をしていった。
その結果、相手を投げる角度はどんどん急角度となり、90年代の半ば頃には"垂直落下式"と呼ばれる超急角度でのバックドロップが誕生。その結果、"殺人医師"スティーブ・ウィリアムスやミスター・バックドロップ="Mr.BD"の異名を取った後藤達俊らの技を受けたレスラーが極度の脳震盪状態になり、試合後に病院に搬送されるなどのアクシデントが数多く起きています。
中でも、後藤達俊が、馳浩をバックドロップで心肺停止状態にまで追い込んだアクシデントは伝説として語り継がれる、過激化していくプロレス界を象徴する"事件"の一つ。後藤は、この技で「相手を殺しかねないバックドロップを持つ男」として箔を付け、以降、マスコミやファンも、後藤のバックドロップを"殺人バックドロップ"と呼称し、更に必殺技としての説得力を増すなど、アクシデントもエンターテインメントとして受け入れるプロレスの幅を見せつけることになるのですが、それにしたって、こうした過激化するプロレスのスタイルに警鐘を鳴らす動きは現在まで続いています。
そうした中で、「輪廻のラグランジェ」は基本中の基本とも言える、相手の胴をクラッチし、抱え上げ、美しく弧を描いた後に完璧な形で相手を固める、まさに基本に忠実なオールド・スクールの中のオールド・スクールとでも言うべき"バックドロップ・ホールド"を物語の第一話、そのラストに持ってきた。また、相手の受け身が素晴らしいんですよ! 技が映え、なおかつ自身のダメージも最小限に抑えられるようなバンプ(受け身)をとっている。
こうした攻防は、現実のプロレス界とは逆の方向を向いているものなのかもしれないけれど、だからこそ、自分のようなプロレスファンにも新鮮に映ったし、改めて、バックドロップが持つ必殺技としての説得力と、そのビジュアルの美しさを気付かせてくれたんです。
こういうプロレスに対する目線を持った「輪廻のラグランジェ」という作品を、私は今後も応援してきたいと思います!
■まとめ
「輪廻のラグランジェ」のバックドロップが素晴らしかったという話に絡めて、プロレス技のディティールやヒストリーについてアレやコレやと。まぁ、ほとんどプロレスの話なので、「ラグランジェ」で検索を掛けてきたプロレス嫌いな方には申し訳ない感じになっちゃたんですが、こういうシークエンスの一つ一つについて、ミッチリ語ってみるのも良いのではないでしょうか?ちなみに、今回のエントリは、「まごプログレッシブ:Part2〜Scenes From A Memory〜」の管理人であるSIZさんに、BLOGで
というわけで、次回は従姉妹さんが、まどかに掛けていたコブラツイストについて熱く語ってみたいと思います!(もう、いいよ!!)
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