兄はアニメーター、弟はプロレスラー - ちょっと不思議な丸藤兄弟の話

 

<週刊プロレス No.1623 (ベースボールマガジン社刊) P.48>
 
昔、某ゲーム雑誌にこんな噂が載っていたことがありました。
 
その"噂"とは、
 
「プロレスラー丸藤正道のお兄さんは、セガサターンのギャルゲー『ROOMMATE〜井上涼子〜』を作っていたらしい」
 
というもの。
 
アニメや漫画、ゲームといったカルチャーを愛するファンであり、また、大のプロレスファンでもあった自分にとって、この噂はかなりのインパクトがあるものでした。
確か、「パソコンパラダイス」か「BUG BUG」か…とにかく、美少女ゲーム雑誌の編集後記だか読者コーナーだかで目にした記憶があります。…アレ? 「TECH GIAN」だったかな?
  
最早、記憶も曖昧ですが、その"噂"を目にしたのは、もう10年くらい前の話だったと思います。それにしたって、脳裏に焼き付く「有名プロレスラーの実兄がギャルゲーを作っていた」という噂話のインパクト。強烈に記憶に刻まれ、後に色々と調べてみると件のゲームのスタッフの一人に丸藤広貴氏という名前を発見。
 
確かに、苗字は丸藤。しかし、この方が本当に、あの丸藤正道のお兄さんなのか? プロレスラーの実兄がゲーム製作(しかも、ギャルゲー)のスタッフとして働いているといわれても実感がイマイチ湧かない。そして、その噂の真相を確かめる術もない。いつしか時は過ぎ、丸藤広貴氏はマクロスF等の仕事を通じて有名アニメーターに。そして、丸藤正道はプロレスリングNoahの副社長へ。"アニメーター"と"プロレス団体の副社長兼エース選手"。自分の中で、ますます開いていく両者の距離感。この二人、本当に兄弟なのか…?
 
と、そんな中、遂にこのお二方が実の兄弟であるという公式なソースが、週刊プロレスに! "有名プロレスラーの兄は、有名アニメーター"というアニメ、プロレス界の都市伝説が遂に公式で明らかにされた形です。いや、コレ以前にもアニメ関係の資料でオフィシャルになっていたことはあるかもしれないんですが、プロレス側から丸藤広貴氏の名前が出てきたのは恐らく初。
 
というわけで、今回のエントリでは不思議な不思議な丸藤兄弟について、ちょっとアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■兄はアニメーター、弟はプロレスラー

週刊プロレス」の隔週連載「プロレスラーの家族たち」。タイトル通り、プロレスラーの家族を紹介し、そこからプロレスラーのパーソナリティーを掘り起こしていくモノクロ2ページの企画モノなんですが、その第6回で登場をしたのが丸藤正道の実兄、丸藤広貴さん。
 
誌面では、「有名アニメーターの"丸藤兄"が登場!」と謳っており、編集側も広貴さんがアニメ製作の仕事を行っているということを十分意識しての人選になっているんでしょうね。本文では、「『アクエリオン』や『マクロス』シリーズなどの作画監督やキャラクターデザイン」などの仕事で知られる「売れっ子アニメーター」として広貴さんを紹介。まさか、プロレス専門誌の「週プロ」で、「アクエリオン」や「作画監督」なんてキーワードが出てくるとは思いませんでしたよ。そして、そんな兄弟のツーショットが、これまたいい"絵"になっている。
 

 
丸藤広貴さんといえば、前述のように「マクロスF」での仕事や劇場版の総作監として知られるクリエイター。現在放送中のアニメだとアクエリオンEVOLのキャラクターデザインも務めていらっしゃいます。
その弟の丸藤正道は、その抜群の運動神経とプロレスセンスで、ファンの誰しもが"天才"と認めるNoah所属のプロレスラー。現在では、Noahの副社長に就任し、選手としても経営者としても同団体を引っ張る存在。
 
兄はアニメの世界でキャラクターやメカをグリグリ動かし、弟はリングの上を縦横無尽に動き回る。
 
<丸藤正道入場曲 / HYSTERIC>

 
<「劇場版マクロスFサヨナラノツバサ〜」予告編>

 
こうやって見てみると、この二つの"作品"を作っているのが血のつながった兄弟というのは信じられない気もしますが、この運動量の多さは両者に共通するクリエイティビティ。その圧倒的なアクションの数々に加えて、目と頭をフル回転させるのも共通項でしょうか? 血縁でリンクするアニメとプロレス。アニメからプロレスへ、或いはプロレスからアニメへのフロム・コーナー・トゥ・コーナー。この兄弟、やっぱり只者ではない。
 
 

■この二人を生んだ丸藤家とは? そして、兄から弟へ

そんな丸藤兄弟、誌面で紹介されるエピソードの数々もアニメファン、プロレスファンである自分にとっては非常に興味深いものがあります。四人兄弟の末っ子として生まれた丸藤正道。長男とは7歳差で、次男の広貴さんとは6つ違い。ちなみに、広貴さんは双子。四人兄弟で、しかもその内の二人は双子って、もう、生まれてきた時点でキャラが抜群に立っている。家族構成の時点でアニメっぽいし、プロレスっぽいですよ!
 
兄弟の仲は非常に良く、一人だけ年が離れていた正道にとって「"兄たちはマネする対象"だった」そうです。その上の三兄弟は皆プロレスファンで、よくプロレス雑誌や漫画を買っていた。そこで、兄が買ってきた週プロの表紙になっていたザ・ロード・ウォリアーズを見て、幼き日の丸藤正道は一目惚れ。丸藤正道のプロレスラーとしてのルーツには、確かに兄弟の存在がある
 
ちなみに、「スキーとかもスティックなしでガンガンやったり」、プールに遊びにいけば「子どもを背負ったままバタフライをやる」というアウトドア派の父親に育てられた四兄弟は皆運動神経が良く、広貴氏も「どこに行くのにも自転車で出掛け」、時には自宅から20km先の相模湖に遊びに行くのに、一山越えていったこともあるらしい。
こういったアスリートとしての血統、エピソードってプロレスラーを語る際には頻繁に登場するものですが、そこに後に有名アニメーターになる人物も加わっているんだからおもしろい。
 
そんなやんちゃでプロレスが好きな兄弟にとって、プロレスごっこは当然の如く日常茶飯事だった。当時の丸藤家で行われていたプロレスごっこの光景を、広貴氏は「けっこう激しくやって、楽しんでましたよ。正道は泣いても向かってきましたね。アザとかも軽くできていましたからね」と振り返る。
一人だけ年が離れている末っ子は、当然兄たちにやられまくる。それでも、プロレスが好きだから立ち上がって、再び強大な相手に立ち向かう。コレって、プロレスのドラマ性そのものです。激しくアクロバティックなアクションと、自分よりも身体の大きな相手との我が身を省みぬファイトから、近年は大きな怪我に悩まされ続けている丸藤正道。しかし、その都度障害を克服してリングにあがる丸藤の根幹にあるのは兄弟たちとのプロレスごっこなのかもしれない…と週プロも記事の中で結ぶ。
 


 
プロレスラーになりたかった弟と、絵で食べていきたかった兄。そして、その夢を叶えた両者。アニメーターになった兄は、プロレスラーになった弟の試合をどう見ているのだろうか? 当然、そこには肉親にしか分かり得ない感情がある。兄は語る。
 

「いまだに試合見てて緊張しますね。ものすごく肩が凝ります。ほかの選手が試合をしている時はプロレスをいち観客として楽しめるんですけど、弟が試合してるとそういう感覚ではないですよ。兄弟だから大げさにやられたフリしている時もわかりますし、復帰戦とかで自分に余裕がない時もわかりますし。痛いのによく続けるなぁって。万が一の事故ってあるじゃないですか。いくら受け身がうまいって言っても、大技を食らうと…肉親として見ていられない時もありますよ」

 
これって、プロレスラーを家族に持つ人たちにとっての包み隠さぬ素直な気持ちでしょうね。でも、弟がやると決めた以上は応援するだけと決めている広貴氏。最後は、同じ"表現者"として、そして総作監や副社長といった"責任者"として立場を同じくする弟に対して、こんなエールを送っています。
 

「副社長、がんばってください(笑)。たいへんですよね、もうリングで動いていればいいってだけじゃないんですから。アニメの世界もそうですけど、絵だけ描いてれば楽なんです。でも、お互い今は、プロデュースの仕方、売れるようにするためにはどうすればいいかを考えなきゃいけませんし。下は下の考えもあるし、上は上の考えもありますからね」

 
アニメとプロレス。意外性すら感じられる異ジャンルの世界で活躍する、ちょっと不思議な丸藤兄弟。でも、本当に…いい兄弟です。
 
 

■まとめ

今回の週プロでの連載を読んで、その昔雑誌でみた、そして以降も主にアニメファンのコミュニティーで度々見聞きをした「丸藤正道の兄はアニメーターらしい」という都市伝説の真相がようやっと自分の中で明らかになると同時に、丸藤兄弟の兄弟愛にもホロリとさせられた今回の「プロレスラーの家族たち」。
アニメの作り手さんのルーツも同時に知ることができ、本当におもしろい企画でした!
 
プロレスラーの丸藤正道のファンで、「マクロスF」や「アクエリオン」を知らない方には、それらのアニメを…。

そして、「マクロスF」や「アクエリオン」のファンの方には、その作り手さんの実弟である丸藤正道選手の試合を、是非とも見て、この兄弟の才能の凄さを両方楽しんでもらいたいですね!