2012年の恋のアメリカン・フットボール - 声優アイドルユニットDROPSを再考してみる

 

 
"音楽"というのは不思議なもので、楽曲に詰め込まれた様々なチャレンジや趣向に対して時を経てから大きな意味を見出す…なんてことがままあります。リアルタイムで聴いていた時は、正直何だかよく分からなかったものが、後から聴いてみるとそれが実は時代を先取りしていた音だったり、音楽の方法論として先見性のあることをやっていたり。そういったことに気付いてハッとさせられるのも音楽の大きな楽しみの一つだと私は思っています。
 
そんな感じで、最近自分にとって"ハッとさせられた"音楽の一つがDROPSです。
 
若いアニメファンの方だと、もしかしたらご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、DROPSは2004年に國府田マリ子さん、金田朋子さん、神田朱未さん、野中藍さん、白石涼子さんの5人の女性声優さんが集まって結成されたアイドル・グループ。2枚のシングルと1枚のフルアルバム、それからライヴDVDをリリースした後、公式での"解散"という発表はないものの"限りなく解散に近い活動停止"のような状態のまま現在に至っています。
 
そんなDROPS、コレが今聴いてみると非常に面白いというか、色々な発見と驚きに満ち溢れているアイドル・ユニットだと思うんです。そんな訳で、今回のエントリではちょっと懐かしい声優アイドルユニット、DROPSについて個人的な思い入れなんかも絡めながらアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■当時、衝撃的だったDROPSのシングル曲

DROPSが残した楽曲の一番の特徴…そして、チャームポイントは、リリースした2枚のシングルがどちらもカヴァー曲だったことだと思います。しかも、他のアニメソングのカヴァーとかではなく、昭和の歌謡曲のカヴァー。デビューシングルの恋のアメリカン・フットボールフィンガー5のカヴァーで、続くセカンドシングルの「ふられ気分でRock'n' Roll」TOM★CATのカヴァー。
 
当時は、この選曲のチョイスやこのユニットのコンセプトについて、かなり混乱をした記憶があります。「何で、女性声優アイドルグループが昭和の歌謡曲をカヴァーしてるの?」って。「恋のアメリカン・フットボール」は、ジャケットでメンバーがチアリーダーのコスチュームを着ていて、この衣装がプロモーションやライブ時のキービジュアルになっていたんですが、「声優さんがチアのコスプレをして昭和歌謡を歌う」っていうシチュエーションが何とも不思議で…今、思い返してみてもなかなかに斬新なコンセプトですよね。
 
しかし、今、考えてみるとこの「昭和の歌謡曲をカヴァーする」というDROPSの音楽スタイル、非常に現代的な感覚を先取りしていたと思うんです。というのが、今ではアニメソングや声優ソングで歌謡曲のカヴァーを行うというのは方法論として完全に確立をされていますからね。例えば、昭和歌謡を出演声優さんがカヴァーする「空のおとしもの」や同じく声優さんによる90年代のJ-POPカヴァーが使われた「世紀末オカルト学院」のようなアニメ。あるいは、OPやEDで歌謡曲のカヴァーを使ったアニメ作品(例えば、ZONEの楽曲を使用した「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のような)。単なる楽曲のタイアップではなく、"歌謡曲"や"J-POP"を作品内に取り入れ、その楽曲によって作品性に独自のニュアンスを作り出すアニメ。そんな作品が、2000年代の終わりくらいから増えてきたような気がするんですが、そういった現代のアニメにまつわる時代性であるとか音楽性であるとかを、DROPSというユニットは先取りしていたのかな、と…ファンの大いなる贔屓目も込みで、そんなことを思ったりもします。
 
 

■アニソン、声優ソングにおけるカヴァー曲

勿論、歌謡曲をカヴァーしたアニメ作品や声優ソングというのは、DROPS登場以前から沢山ありますし(宮村優子さんの「聖母たちのララバイ」とか、自分も大好きでした)、幾らなんでもDROPSがその元祖と呼ぶのはかなり乱暴な意見だと思うんですが、それでも、やっぱりDROPSのこのセンスというのは今、聴き返してみるとやっぱりおもしろいし驚きもある。
 
セカンドシングルの「ふられ気分でRock'n' Roll」は、岩崎良明監督のせんせいのお時間のED曲としてタイアップをされていたんですが、「スターチャイルド」「白石涼子」「テクノポップ」「昭和歌謡のカヴァー」と、楽曲を構成する要素を見てみると、完全に夏のあらし!のEDになっていてもおかしくない曲ですからね。こういうことを言うと熱心なファンの方には怒られてしまうかもしれませんが、新房昭之監督的なフィーリングに溢れているというか…。新房監督の新作でOPとかEDに使われていても全く違和感がないんじゃないでしょうか? まぁ、新房監督は新房監督で、DROPSと同時期に「月詠 〜MOON PHASE〜」でDimitori From Parisをフィーチャーしたりとか、既に音楽的に尖ったことをやられていたんですが。
 
また、2004年の時点でTOM★CATを持ってくるセンスも素晴らしいです。当時だと、まだPerfumeもメジャーデビュー前で、"テクノポップ"っていう響き自体がちょっと恥ずかしいイメージがあった時代ですからね。そういう部分も、テクノポップ好きな自分がDROPSというアイドルユニットがハマった大きな理由の一つだったりします。…しかし、フィンガー5TOM★CATって凄い組み合わせですよね…。このちょっと後に、佐藤順一監督の「ふしぎの星のふたご姫」でも「学園天国」のカヴァーが使われていて妙なシンクロを感じたものでしたが、当時のアニメ関係者の琴線に触れるものがあったのかな、フィンガー5…。
 
 

■"今"に繋がるDROPSの活動

こういった感じで楽曲面でのモダンな感覚を挙げさせていただいたDROPSですが、こうやって再考してみると今のアニソンや声優アイドルでスタンダードになっていることを当時の時点で色々とやっていたアイドルユニットだったなぁ〜と思うんです。
例えば、メンバー全員がコスプレをしていたりだとか、イメージカラーがそれぞれにあったりだとか、歌唱力よりは声質とキャラクターを重視したユニット編成であったりだとか…。DROPSって改めて見返してみると、何て言うか"今"のアニメや声優のフィーリングに溢れている。
 
それから、当時、ローソンとのタイアップをしていて、コンビニ限定の限定盤のリリースやツアーの際にポスターやフライヤーが店内に貼られたり…といったプロモーション活動が行われていたのも強く印象に残っています。コンビニとのタイアップでアニメや声優さんのポスター、グッズがコンビニに並ぶようになったのは果たして何時頃なのか…? この辺りのヒストリーに関しては、自分は全く詳しくない(申し訳ありません…)ので完全な個人の主観による印象論になってしまうのですが、当時、DROPSのポスターやCDが…マリ姉やカネトモさんの写真がコンビニにあるという光景は、当時の私にとってかなり新鮮でした。
 
アニメ、声優さんとのタイアップで、店内にアニメのポスターやグッズが並べられているというプロモーション、商品展開は、今では極々日常的なものになっていますが、当時、声優さんのCDをコンビニの店舗で買える…というのが自分の中で凄く新しくて、かなり印象に残っているんですよね。
 
 

■何だかんだ言っても「あなたが…すき」

…といった具合に、ウダウダと2012年に聴き返すDROPSの感想を述べてまいりましたが、自分にとってDROPSっていうユニットの何が一番大好きで大きいかって、このユニットをきっかけにして白石涼子さんの大ファンになったことなんです。
 
ここから、完全に個人的な話になってしまうんですが、DROPSってメンバーのキャラクターが尋常じゃないくらいに濃かったっていうか…何といっても金田朋子さんがメンバーにいるユニットですからね。そんな濃いメンバーに囲まれて頑張る一番後輩の白石さんを見て、その姿に自分はメチャクチャに惹かれてファンになったんです。当時、DROPSのメンバーが文化放送でやっていたミニ番組があったんですが、それとかメチャクチャ好きでMD(当時)に録音してず〜っと聴いてたりしてました。で、ますます白石さんのことが好きになって、今も声優さんの中で一番好きな声優さんです。
 
ユニット自体も大ベテランと新人さんオンリーの構成で、独特の編成になっていましたからね。上と下で世代が離れていて、中間がないという。で、そんなユニットの中で新人さんを見守るマリ姉とラジオでの喋りとかも全然拙いんだけど前向きに頑張る白石さんや神田さんっていうのも良かった。凄く応援したくなるアイドルユニットだったと思うんです。
 
何だかんだ言っても、やっぱり、こういう個人的な思い入れも込みで語れるところが"アイドル"の素敵なところなんじゃないでしょうか?
 
活動期間そのものが短かったこと、國府田さんがアクシデントで怪我をされてしまったこと…様々な要因が重なって、こうした声優アイドルユニット史の中でも、ちょっと地味な印象のあるDROPSですが、音楽的にも個人の思い入れとしてもそこにはやっぱり"今"に繋がるサムシングがあると思うんです。
 
 

■まとめ

こんな感じで、DROPSに関するアレやコレやを個人的な思い入れタップリに書かせていただきました。でも、ファンの贔屓目を抜きにしても、凄く洗練されたアイドルユニットだったと思うんですよね、DROPSって。昭和歌謡のカヴァーとか、コンビニとのタイアップとか、その前にも先達、元祖的な声優さんやユニットは存在していた(この辺り、お詳しい方にコメント欄等でご指摘をいただけるとありがたいです)と思うんですが、そういった"今"に繋がる声優アイドル像と自分が初めて出会ったのがDROPSだったんですよね。
 
できれば、DROPS、また観たいですよ。活動再開は…流石にないかなぁ〜。