テレビアニメに出てくるヘヴィメタルバンドは何故、白塗りなのか?






エントリの見出しが売れない新書のタイトルみたいになってしまいました…センスが無くてスイマセン…。


最近、ビックリしたのが現在放送中のラブライブ!二期で登場人物達にKISSを思わせるコスプレをさせたところ、本家本元のKISSのベーシスト、ジーン・シモンズのオフィシャルtwitterアカウント(?)が件のシーンについて言及をしたツイートを行った…というニュースです。





自分は「ラブライブ!」は観ていないんですが、そんな自分でもこのトピックには驚きました。また凄いのが、この時代になって、これだけハードロック、ヘヴィメタルの音楽シーンが様々なサブジャンルの登場により細分化をされても、未だにHR/HM=KISSなのだなという事実。KISSのあの特徴的なメイクや衣装って、ハードロックやヘヴィメタルの一般的なイメージとして分かりやすい、言わば"アイコン"的な存在ですからね。やっぱり、KISSは偉大。


ところで、「ラブライブ!」でサンプリングをされたKISSに限らず、テレビアニメなんかでヘヴィメタルのバンドが描かれる時のお約束と言いますか、最大公約数といいますか、定番のビジュアルイメージってあると思います。例えば、こんな感じで。

・顔面白塗り
・ド派手な衣装
・カラフルで逆立てた長髪



こうしたヘヴィメタルのイメージは、一体どこから来ているのでしょうか? アニメファンで、ここ最近、ヘヴィメタルにハマって勉強中である自分がちょっとアレやコレやと考えてみたいと思います。




■"ベタ"なヘヴィメタル表現とKISS、そして白塗り




先ずは、顔面を真っ白に塗りたくる"白塗り"について。前述の「ラブライブ!」の様に、漫画やアニメ…といった表現媒体でヘヴィメタルがパロディー的に描かれる際に、やたらと多いのが顔面を白塗りにするという描写。これは、何はなくともKISSのビジュアルの影響が大きい。





宇宙人や悪魔といった奇抜なコンセプトをメンバー各々のキャラクターに用い、エンターテインメント感溢れるステージを繰り広げながらも、肝心のサウンドの方は無駄な装飾なし。シンプルで男らしい王道のハードロックをガツンとブチかましてくれるKISS。その世界観を構築するのに、重要なアイテムの一つが白塗りを下地にした独特のメイク。


<KISS / Love Gun>



また、白塗りといえば、KISSに先駆けて白塗りメイクでパフォーマンスを行っていたというアリス・クーパーの様な先達もいます。この辺りのアーティスト達のビジュアルが"へヴィメタル"という音楽ジャンルのアーキタイプ的なイメージに与えている影響は非常に大きいのではないかなと思うんですね。


ところで、アニメや漫画における白塗りのヘヴィメタルバンド…といえば、この作品の存在を忘れてはいけないでしょう。





若杉公徳先生のデトロイト・メタル・シティ。タイトルもKISSの大名曲"Detroit Rock City"から引用を行っている本作ですが、この漫画に登場をする白塗りメイクは、エンターテインメント性溢れるKISS流のそれ…というよりは、もっとアンダーグラウンドでハードコアな音楽性を持ったヘヴィメタルバンドが使用をする"コープス・ペイント"と呼ばれるメイクのそれではないかな、と。




■"コープス・ペイント"とブラックメタル

コープス・ペイントは、死体や悪魔を連想させる不気味でイーヴルなメイクで、主に"ブラックメタル"と呼称される音楽ジャンルに属しているバンドが好んで使用をしています。荒涼としたメロディーに殺伐としたビート、金切声やうめき声の様なヴォーカル、そして、アンチキリストや悪魔崇拝…といった邪悪なアティチュードを音楽的な根幹に持つヘヴィメタル…それがブラックメタル、そして、その狂気性と攻撃性の象徴として機能をしているのがコープス・ペイントです。






KISSの白塗りとは、また趣を異にするこのコープス・ペイント。オーケストラ楽器や打ち込み等の様々な音楽的要素をヘヴィメタルに持ち込んだスイスのCeltic Frostやオカルト的な世界観が持ち味のデンマークMercyful Fate(のヴォーカリストで、Mercyful Fate解散後に自身と同名のバンドを率いたKing Diamond)…らが、元祖と言われています。そして、その悪魔的なメイクがブラックメタルと融合をして、コープス・ペイントがシーンの中でシンボライズをされた。


<IMMORTAL / ALL SHALL FALL>



そのコープス・ペイントを漫画に登場をするデスメタルバンドに用いていた「デトロイト・メタル・シティ」ですが、メタルファンの間でよく言及をされる様に、ここではヘヴィメタルサブジャンル間におけるイメージの混合、祖語が見られます。前述した様に、コープス・ペイントは、ブラックメタルのシーンで使われるメイクであり、一般的なデスメタルのバンドはほとんど使用をしません(サウンドや思想的にブラックメタル寄りの音を出すデスメタルバンドも存在をしているので、顔面白塗りのデスメタルバンドもいるにはいるのですが、こちらはあくまでも少数派かと思います)。


では、デスメタルバンドはどの様なビジュアル、ファッションをしているかというと、その創世記から活動を行い、シーン代名詞的なバンドとなっているMorbid AngelOBITUARYといったバンドを観てみれば一目瞭然。長髪や髭面…といったこれまたヘヴィメタルのステレオティピカルなスタイルは踏襲をしているものの、顔面を白塗りするどころかTシャツにジーンズ、革ジャン…といったラフなファッションが中心であり、人々がイメージする"ヘヴィメタル"よりもグッともっとシンプルでパンキッシュな服装をしている場合がほとんどです。






<OBITUARY / Insane>



つまり、「デトロイト・メタル・シティ」という漫画の中では、デスメタルブラックメタルという異なるヘヴィメタルサブジャンル同士が意識的にしろ無意識的にして混同をされている。この辺りは、色々とおもしろいポイントなんです。




■テレビアニメに出てくるヘヴィメタルバンドは何故、白塗りなのか?

思えば、"白塗り"という要素も、膨大な数のヘヴィメタルというジャンルの中では、極々限られたシーンでのみ使われている表現でしかありません。例えば、ヘヴィメタルシーンの大御所バンドであるIron Maidenスラッシュメタルシーンから登場し世界的に大成功を収めたMETALLICA、あらゆるエクストリームメタルに多大な影響を与えたNapalm Death、90年代にモダンヘヴィネスやラップメタル…といった新しいメタルミュージックをクリエイトしたPANTERAKorn…いったメジャーアーティスト達のルックスを見てみても、彼らは白塗りなんてしていない。





Napalm Death / When All Is Said And Done>



日本のビジュアル系ともクロスオーヴァーをしていたマリリン・マンソンの様な"メジャー"な白塗り系のヘヴィメタルバンド(この辺は前述したバンド群ともまた異なり"ゴス"の影響が強いと思います)もいるにはいますが、寧ろ、白塗りメイクはヘヴィメタル界ではアンダーグラウンドなバンド、コアなバンドにこそ見られる表現です。更に、ハードコアパンクからの影響が強いスラッシュメタルのバンド群なんかはTシャツ姿であるとか、もっとカジュアルな服装をしていることが多い。ド派手なメイクやケバケバしい衣装とは無縁の存在なわけです。


<ANNIHILATOR / No Way Out>



では、何故、アニメや漫画でヘヴィメタルが描かれる際に、白塗りがこんなにも多用をされるでしょうか? 先ず、第一にHR/HMの世界で大きなポピュラリティーを得ているKISSの存在が、そのイメージの原型として担っているウェイトは相当に大きいのではないかと思います。冒頭に書いた様に、KISSのその特徴的なメイクはそれだけでハードロックやヘヴィメタルのアイコンに成りえた。そこに、ブラックメタルの過激派のバンドが、余りにも凶暴でブルータルな精神性と音楽性を有していたが故にこそシーンの中で目を引き、そうしたイメージがミックスをされてヘヴィメタル=白塗りという"定番"の描写が生まれたのではないかな、と。特異であるからこそ、目を引き定番化をした…そういうことではないかと思うのです。




LAメタルX JAPAN聖飢魔II




そして、白塗りと共に"ベタ"なヘヴィメタルバンドのイメージとして定着をしているのが派手な化粧や逆立てた髪型…といったケバケバしいファッションでしょう。


こちらは、恐らく、80年台に一斉を風靡した"LAメタル""ヘアメタル"と呼ばれる一連のムーヴメントによる影響力が大きいのではないかと思います。その名の通り、アメリカのロサンゼルスを中心に勃興をした音楽ムーヴメント。その最大の特徴は、兎にも角にもそのド派手な髪型や過激な衣装。一方で、その音楽性はどこまでもポップで、ソングライティングのセンスは実は高い。見た目的にも音的にも良くも悪くも分かり易すぎるくらいに分かりやすいのがLAメタルの魅力で。





LAメタルといえば、やっぱり真っ先に名前が挙がるのが、このMotley Crue! "セックス、ドラッグ、ロックンルール"というロックな生き様を貫き通し、数々のゴシップやトラブルで音楽シーンを賑わせた永遠のお騒がせバンド。こうしたバンドが世に叩きつけたヘヴィメタルのショッキングなイメージは、現在でもSteel Pantherの様なバンドに受け継がれ、2000年代に入っても"ヘヴィメタル"であり続けています。


<Steel Panther / Death To All But Metal>



こうしたグラマラスなイメージもアニメや漫画で描かれる"ヘヴィメタル"に直接的に繋がっているハズです。そして、最後に日本が生み出したこの2つのバンドの名前も挙げておかなければいけないでしょう。





X JAPAN聖飢魔IIですね。


LAメタルと初期のスラッシュメタルからの影響大なX JAPANとKISSのメイクからイマジネーションを受け、そこにコミカルに味付けしたオカルト趣味をミックスさせた聖飢魔IIライヴハウスやインディーズシーンを飛び出してバラエティー番組にも進出をし、お茶の間レベルで認知度のあったこの2つのバンドが、我が国に刷り込ませたヘヴィメタルのイメージ、その影響はとてつもなく大きいものではなかったのかな、と。つまりは、白塗りやド派手なメイク、逆立てた髪の毛、ケバケバしい衣装…といった独特のファッション。


あくまでも、それらは"ヘヴィメタル"という広大で深淵なる音楽ジャンルの中の限られた表現でしかないわけですが、ここまでで書いてきた様に幾つかのバンドの活躍と強い影響力によって、それらは揺るぎない"ヘヴィメタル"となった。そして、そこにはX JAPAN聖飢魔IIという日本独自のヘヴィメタルバンドの活動によってもたらされたという部分も大きかった。それは、やっぱりユニークでエキサイティングなことなんじゃないかなと思うわけです。




■まとめ

というわけで、まだまだ初心者メタラーな筆者による拙い考察ではありましたが、ここらでちょっと自分なりの考えをまとめておきたいと思います。アニメや漫画に登場をするヘヴィメタルバンドのイメージというのは、

・何はなくともKISS。そこに、過激派ブラックメタルのイメージがミックスされた。
LAメタルバンドの影響も大。
・KISSやLAメタルに繋がるメイクやファッションをしていたX JAPAN聖飢魔IIという日本独自のメジャーなヘヴィメタルバンドの活躍。



こうした要素によって構成をされているのではないかと思うのです。


とはいえ、繰り返す様に、これらはヘヴィメタルという音楽ジャンルの中でも極々一部のカルチャーでしかありません。そうしたイメージをここまで一般的なものにしたKISSの様なバンドに敬意を払いつつも、もっと広い視点からヘヴィメタルに目を向けてみるのもおもしろいのではないかと自分は思います。パンクやハードコアと同様に、ここまで多用な音楽性と文化を持った音楽ジャンルもなかなかない。いわば、バンドやミュージシャン、そしてファンの数だけヘヴィメタルは存在していると言っても過言ではなく、そこに決して正解はない。そこが、この複雑怪奇で怪しく…されども、最高にロックな音楽の最大の魅力なのではないかな、と。そんな賛辞でもって、このエントリを締めたいと思います。Stay Heavy Meatl \m/