『放課後のプレアデス』第8話<ななこ13>の寡黙さとサルミアッキ
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特にお気に入りの作品の一つが『放課後のプレアデス』です。GAINAXとスバルのコラボプロジェクトとしてスタートした本作。元々は、2011年にYouTubeで配信されたWEBアニメだったそうですが、今年に入ってテレビアニメ版が放送を開始。私は、YouTube ver.は未見だった為、このテレビ版が初めて触れる『プレアデス』となります。
惑星や宇宙を題材とした変身魔法少女もので、いうなればSFライクなファンタジー、或いは、ファンタジックなSFといった趣の本作。非常に丁寧なキャラクター描写が印象的なアニメで、どのエピソードも素晴らしい出来となっております。
そんな中でも、最新話である第8話<ななこ13>の中で気になる描写がありましたので、今回のエントリではテレビアニメ版『放課後のプレアデス』という作品に対する感想も絡めつつ、アレやコレやと<ななこ13>について書いてみたいと思います。
■『放課後のプレアデス』ファンタジーで観るか? SFで観るか?
『放課後のプレアデス』は、複層的な物語だ。基本となるストーリーは、平行世界を絡めたサイエンス・フィクションで、そこに、主人公の少女たちによる変身魔法少女的なモチーフがクロスオーヴァーされている。
しかし、SFとファンタジーという2つの異なるレイヤーで構成されているからといって複雑さや難解さは皆無で、寧ろ、ファンタジーの要素が加わることで物語における自由度が増し、非常にバランスの良い活き活きとした作劇が行われているように感じる。
サイエンスではあるのだけれどファンタジー、スペースオペラなれど魔法少女もの。"魔法"という一種のエクスキューズがあることで、宇宙を舞台にしたダイナミックなストーリーが紡がれていく。そして、その規模が少女たちの成長に併せて、どんどんスケールアップしていく様は、ただただ痛快の一言だ。
そういう意味では、本作は宇宙と惑星に関するキーワードや知識をシナリオに織り交ぜながらも、SFとしては細部の設定についての言及が極めて少ない寡黙な作品だと言えるだろう。複雑で理論的なSF的要素に関しては、ファンタジーの要素で包むことで、観る側の想像力にその大部分が委ねられているように感じられる。
■『放課後のプレアデス』の寡黙な少女たち
"寡黙さ"というキーワードで本作を読み解くならば、それは、主人公たちの描写にも当てはまる。
本作の主人公である少女たちは、いずれも中学生らしい感性を持ち合わせていて、とてもセンシティヴな存在である。それぞれが、過去の出来事から生じた一種のトラウマ的な記憶や、コンプレックスに囚われているセンチメンタルな少女像として描かれている。
そして、そんな彼女たちにとってストーリー上で重要な要素となるのが、他者とのコミュニケーションだ。
ひかるがメインとなる第4話<ソの夢>、いつきが主人公の第5話<帽子と氷とお姫様>、そして、すばるとあおいの友情を描いた第7話<タカラモノフタツ 或いは イチゴノカオリ>といった各登場人物たちそれぞれにフォーカスがあたるエピソードでは、自身の悩みやコンプレックスを他者と共有することで、そこから開放され成長を遂げる姿や、すれ違いを続けてきた人間関係の再生が描かれた。
寡黙さの中に押し込んでいた自身のネガティブな内面を他者とコミュニケーションを取ることによってポジティブな方向へと転換する、そうした前向きなヒューマニズムがそこには込められている。
■ななこの成長譚としての<ななこ13>
と、ここまで"寡黙さ"に注目して作品の概要を改めて振り返ったわけだが、ここでようやく<ななこ13>の話だ。
ここまで書いてきたような各キャラクターの主役回に、遂にななこの出番が回ってきたわけだけれど、ハッキリいってどんな話になるのか自分は全く予想ができなかった。
というのが、ななこは主役となる5人の女の娘の中でも、一番寡黙な少女。プレアデス星人の"通訳"を務める時には明るい口調で雄弁になるけれども、あくまでもそれはプレアデス星人の言葉であり、キャラクター。それ以外の時は、無口で常時コスプレをしている謎の多い少女だ。
有り体に分かりやすい言葉で説明すれば"不思議ちゃん"。とはいえ、そういう属性的なキャラクター造型には収まりきれない、読めないスケール感がある。そして、ほとんど人間味が感じられないキャラクターでもある。
なので、この娘のメイン回がどんな話になるのか、ドキドキしながら<ななこ13>を観たわけだが、本当に素晴らしいエピソードだった。
ななこの過去を掘り下げるシナリオを軸に、彼女自身が殻を打ち破って成長する姿を描き、更に、プレアデス星人誕生の秘密やその言葉を彼女だけが理解できる理由も打ち明けられる。
このエピソードでも、ななこの成長のきっかけとなるのは、やはり他者とのコミュニケーションだ。それがどのように劇中で描かれていたかについては、本編を観ていただくとして、無口な彼女だからこそ、そこに至るまでの描写というのが非常に心に響いてくる。この"ななこ回"をシリーズの後半に持ってきたことにも重さが生まれるのだ。
■<ななこ13>で気になった描写について
さて、そんな<ななこ13>だけれども、彼女がそもそも寡黙な少女になってしまったきっかけは、幼少期のある体験であることが描かれる。簡潔にいえば、それは家族との別離。彼女が幼い時に、母親が弟と一緒に世界放浪の旅に出てしまったのだ。結果、父親と二人暮らしになった彼女は、孤独というものを強く意識し、内向的な少女になってしまう。
しかし、そんな彼女の本心というか、幼少期のショッキングな体験によって普段は蓋をされているであろう芯の部分が垣間見えるように感じられるシークエンスがある。それが、以下の場面。
もはや地球上にいる人間では概念でしか認識をできない程、遙か宇宙の果てにあるエンジンを探す為に、一人旅に出るななこ。そんな彼女が用意した食料がコレだ。このシーンの前の父親との食事シーンもそうだが、簡素な食べ物の数々を見るにつけ、彼女の食事に対する執着の無さが見て取れる(ので、その後のななこに化けたプレアデス星人がご飯をドカ食いするコメディシーンがより活きてくる構成の妙にも注目)。
この後に出てくる他の女の娘たちのカラフルなお弁当の数々に比べても、余りにも貧弱で無機質な食料が並ぶ。
ただ、気になるのが画面の上部にある個性的なデザインのパッケージに包まれたお菓子……サルミアッキの存在だ。
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サルミアッキは、北欧のお菓子。WEB上でも"世界一不味いお菓子"なんて不名誉な呼称で紹介されるリコリス菓子の一種で、塩化アンモニウムによる味付けにより、塩味とアンモニア臭を感じられるお菓子なのだという。
サルミアッキがななこのお気に入りのお菓子なのかどうか、これが自分で買ったものなのか、母親からの送り物なのかどうか……はこのワンシークエンスだけでは判断できないけれども、北欧のマニアックな食味を持つお菓子を選ぶ辺りに、普段は見えない、ななこの内面が見えてくる気がする。
無口で寡黙だけれど、本当は好奇心旺盛で海外への憧憬も強い、ちょっとエキセントリックな女の娘。世界中を旅して回る母親譲りの行動力と無鉄砲さを持っている女の娘。そんな彼女が本来有していたであろう基質が、このサルミアッキというお菓子のチョイスから滲んでくるのだ。
机の上にポツンと乗せられたサルミアッキの存在。それは、やはり寡黙さを持った存在だったけれど、何より雄弁にななこという少女のキャラクター性を観る者に語りかけてくる。だからこそ、その本来の性格に反して生きざるをえなかった悲劇と、そこから前に進む姿がより一層のダイナミズムを持って胸に迫ってくるように私には感じられるのだ。
■最後に
『放課後のプレアデス』は、寡黙なアニメだけれど、こういった観る者の想像力を刺激するさり気ない演出が本当に上手い作品だと思う。<ななこ13>ラストの余韻も非常に印象的で、本当に素晴らしいエピソードでした。
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