睦「プラネタリウム」に見る、マニアックなセンスの表現の場としてのエロ漫画
G-WALKから出版されているエロ漫画誌「コミックプラム」に載っていた、睦先生の「プラネタリウム」が個人的にモロにツボで、あんまりにも素晴らしかったので感想を書きます!
■「買う」男と「売る」少女、「売らせる」人間と、それを見る僕ら
いや、もうね、どうしょうもない話なんですよ。ロリコンの青年が、アングラな風俗店に女の子を買いにいくって話なんですけど、主人公のロリコン青年のルックスがコレでもかっ! っていうくらいダメな感じで描かれているのと、「買われる」立場の女の子の可愛らしさと天然爛漫さっぷりが、劇中で絶望的な程のコントラストを醸し出してるんです。
「買う」側のダメ男と、
その欲望を受け入れる「買われる」側の少女。
それは、もう本当に読んでいて軽くヘコむくらい。
描いている人間の悪意を感じる程、可憐で優しくて可愛くて健気で明るく描かれている少女。
絶望的な状況でドス黒い欲望の対象にされているのに、健気さと明るさを失わない少女と、彼女を欲望の対象にしたダメ男すら許容する優しさが、この漫画の中ではかえって現実の残酷さを浮き彫りにします。
少女とロリコン青年と、それを見ている僕たち…。
あんまり書くとネタバレになるんであれですが、圧倒的な虚無感を持つラストシーンが、より救われない感を高めます。
この心身の喪失感たるや、軽く「ダンサー・イン・ザ・ダーク」10回分です。
何ていうか、男って最低ですね。うわぁ、死にてぇ!
■少女とロリコンとサイコビリー
睦先生の「プラネタリウム」は、ストーリーも素晴らしいのですが、物語とは無関係なオマケ要素もマニアックでなかなかに興味深いです。というのが、劇中に登場するアングラな風俗店の店員が、何故かみんなサイコビリーバンドのTシャツを着ているんですよ。
Tシャツ、METEORS
サイコビリーっていうのはアレですね。ロカビリーから派生した、パンクやハードコアみたいなアンダーグラウンドな音楽の一形態です。なかなか説明しづらい音楽ですので、実際に見てもらった方が早いかな?
僕が一番好きなサイコビリーバンド、Demented Are Go!のPVです。
どうですか、このインパクト!
ん? 不気味で怖い? メイクがグロい? ベースがデカい? 髪型が変?
確かにそうですね。
そう、サイコビリーは、パンクのサブ・ジャンルの中でも、不気味で怪しくてマニアックで狂った音楽なのです。
「サイコ」の通り名は伊達じゃないぜっ!
サイコビリーは世界各地に多種多様な形態のバンドがいて、一概に「こういう音!」っていうのが説明しづらいジャンルなのですが、最大公約数的な特徴といえば、
1.音楽的には、ロカビリーやパンクからの影響が強い。
2.ウッドベースを使用し、スラップと呼ばれる弦を指で弾く演奏法を用いる形態がスタンダード。
3.メンバーは、「サイコ刈り」と呼ばれる極端にトップだけを残した奇抜な髪形をする。
といった辺りでしょうか?
また、ホラー映画やSF、シリアルキラーのイメージを曲のテーマに盛り込んだり、ギミック的に使用するバンドが多いのも特徴で、バンドによっては流血や白塗りなどの派手なメイク、ペイントを顔面に施す場合もあります。
世界各地にバンドが散在しており、熱狂的なファンが存在しているものの、ハッキリ言って、相当にマニアックなジャンルです。
そして、何故か睦先生、このサイコビリーのモチーフを漫画に用いています。
店員、サイコ刈り
これが、自分にはすごくおもしろく思えたんですよ。
エロ漫画っていうのは、漫画の中でもマニアックでマイノリティなジャンルです。いや、扱っているテーマがテーマなんで、アンダーグラウンドな表現にならざるをえない、って言った方が正しいのかな?
それを求めている人は大勢いるのに、社会の不定形な常識とか良識が邪魔をして、表立った活動が取りにくいのが現状です。
だからこそ、エロ漫画は社会のメインストリームからは離れた位置から独自の進化を遂げてきたわけで(それが近年のエロ漫画批評や書に繋がっているのでしょう)、エロ漫画というジャンルはメインストリームから外れたマイノリティや、オルタナティヴな表現、フリークスに対してとても優しく寛容な世界です。この辺りは、自分の中でパンクなんかのオルタナティヴ・ミュージックのイメージと重なります。
「サイコビリー」というメジャーとは言い難い音楽ジャンルをエロ漫画に持ち込んだことは、こうした寛容さを併せ持つエロ漫画だからこそ出来た表現だと思います。
(自分の好きなカルチャーを盛り込んで漫画表現をする、なんてちょっと井上三太先生あたりを彷彿とさせますね)
あるいは、「エロさえ描けば、あとは自由に自分の好きな表現をしてもかまわない」という作家の反骨精神やパンク・スピリットの表れと見ることもできますね。
いずれにしろ、サイコビリーというジャンルが持つ音楽的、文化的特徴が余りにも象徴的で、こうした音楽を取り上げた睦先生の漫画が余りにも興味深かったので、思わず長々と語ってしまいました。
あんまりにもおもしろかったので、以下に漫画の中に登場したバンドをまとめてました。
Youtubeはあんまり貼り付けると重くなってしまうので、興味がある方はリンクから直接、映像を見てみてください。
その特異な表現が、確実にあなたの中の新しい扉を開く…かもしれません(笑)。
■バンドTシャツまとめ
前述したTHE METEORSは「サイコビリーの始祖」「キング・オブ・サイコビリー」と呼ばれる、イギリスのサイコビリーバンドです。
- アーティスト: メテオス
- 出版社/メーカー: ヴィヴィッド
- 発売日: 2005/06/01
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 6回
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Youtube - The Meteors / Go Buddy Go
ロンドンパンクのオリジネーターであり、後に日本のテレビアニメ「巌窟王」の音楽も手掛けた異能のベーシスト、ジャン・ジャック・バーネル率いるパンクバンド、The Stranglersのカヴァーです。カッコいいっ!
イギリスのベテランサイコビリーバンド。
- アーティスト: Krewmen
- 出版社/メーカー: Crazy Love Germany
- 発売日: 2006/06/27
- メディア: CD
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Youtube - KREWMEN / Legend of The Piper
これまたイギリスのサイコビリーバンド、FRENZY。
- アーティスト: フレンジー
- 出版社/メーカー: Hellbilly Inc
- 発売日: 2003/09/25
- メディア: CD
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Youtube - FRENZY / I See Red
オランダで最も有名なサイコビリーバンド。サイコのバンドは、世界各国に散在しているので、音楽大国であるイギリス以外のヨーロッパ大陸の国々にも有名なバンドがいるのです。
- アーティスト: Batmobile
- 出版社/メーカー: Anagram Psychobilly
- 発売日: 2008/06/24
- メディア: CD
- クリック: 2回
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僕も大好きなバンドなんですが、BATMOBILEはとにかく、カバー曲がどれもカッコ良い!
特に、グラムロックバンドSWEETのカヴァー「Ballroom Blitz」(何故か、サイコビリーバンドがよくカヴァーをする)は最高です!
Youtube - BATMOBILE / Ballroom Blitz(Live)
サイコビリーはメジャーどころをちょっと齧っている程度なので、HILLBILLY HEADHUNTERSは名前すら知りませんでした(恥)。マニアック過ぎ! どうやら、スイスのバンドのようです。
右の人が着ているのはアメリカのサイコス、THE QUAKESのTシャツ。
- アーティスト: Quakes
- 出版社/メーカー: Nervous
- 発売日: 2003/02/17
- メディア: CD
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Youtube - The Quakes / Paint it Black
Youtube - The Quakes / Send Me An Angel
音も見た目も、サイコっていうよりは、ロカビリーに近くてカッコいいです。
スキャニングする際に完全に潰れてしまいましたが、「THE POLECATS」のロゴが入っています。
- アーティスト: ポール・キャッツ
- 出版社/メーカー: ヴィヴィッド
- 発売日: 2005/04/20
- メディア: CD
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ネオ・ロカのオリジネーターで、後のサイコビリーバンドに多大な影響を与えたバンドですね。
THE POLECATS / Rockabilly Guy
彼らの代表曲、「Rockabilly Guy」は、昔よく聴いていたパンク系のラジオでよくかかっていた曲で、個人的にも凄く思い入れのある曲です。…何故か、アルバムに入っていないんですが…。
ちなみに、日本にもサイコのバンドはいまして、特に有名なのがバトル・オブ・ニンジャマンズ!
- アーティスト: BATTLE OF NINJAMANZ
- 出版社/メーカー: BIG RUMBLE PRODUCTIONS
- 発売日: 2006/07/24
- メディア: CD
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睦先生の読みは「むつみ」ではなく「ぼく」なのですが、もしかしたらここからペンネームをとってらっしゃるのかな、と思ったり…。
どうです、エロ漫画同様、個性的で怪しくてアングラなんだけど、なかなかに魅力的なバンドばかりでしょ?
こうしたマニアックなセンス、趣味にも表現の場を与えられる「エロ漫画」というジャンルの懐には、本当に驚かされますね。