アニメ版「みつどもえ」 イベントを利用したキャラクター描写の巧さについて

 

 
アニメ版みつどもえ週刊少年チャンピオン読者として、また原作漫画のイチファンとして、アニメ化がアナウンスされた時点で感無量だったのですが、いざアニメ本編を観てみたら、コレがまたコチラの期待値を上回るオモシロさで、思わず嬉しい悲鳴を上げさせていただきました。
 
かなり原作準拠な内容になっていましたが、アニメで見返してみると、改めてキャラクターを活かすシチュエーションを計算し尽した脚本の上手さに吃驚した次第。そんなわけで、今回のエントリでは、その辺りについてアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

■キャラクターを活かす「イベント」をシナリオに組み込む上手さ

アニメ版の第一話。冒頭のシーンでコメディのシチュエーションとして用いられていたのが、クラスメイト全員での矢部っちの歓迎会。
更にそこで、イベントして用意されていたのが「なんでもバスケット」でした。
 

 
「なんでもバスケット」のゲーム性に絡めて、歓迎会をメチャクチャにしてしまう丸井三姉妹の傍若無人っぷりがスラップスティックなコメディ感覚と共に姦しく描写されていましたが、それにしたって光るのは、こうしたイベントを作劇に活かす上手さと巧さ。
 
原作でもそうですが、これって、物凄く上手い作劇の仕方だと思うんですよね。
みつどもえ」は、登場するキャラクターが非常に多い漫画作品なわけですが、「なんでもバスケット」という全員参加型のゲームを用いることによって、丸井三姉妹のキャラクター性と共に、他のクラスメイトのビジュアルとキャラクターも無理なく、しかも過不足なく描写することができる。
 

 
三姉妹が巻き起こす大混乱の中でも、ドサクサに紛れて女子のスカートを観察する千葉氏や数珠を手に念仏を唱える松岡などなど、個性豊かな登場人物たちの魅力がバッチリと描かれていたのは、ファンには嬉しいところ。
 

 
更に、登場人物たちのレイアウトも完璧で、チーム杉崎や佐藤が好きでしょうがない隊のメンバーが、最初からシッカリとグルーピングされていたのも素晴らしかったですね。
 
こんな感じで、原作漫画の時点では未だ個性が薄かったキャラクターたちの魅力や関係性が、アニメ版では現在進行形のそれにチューンナップされて作られていたような印象。原作漫画を知っている人は、そのこだわりにニヤリとさせられ、初見の方には各キャラクターの魅力と物語でのポジションが明快に伝わる見事な第一話でした。
 
 

黒澤明「悪い奴ほどよく眠る」と「ゴッドファーザー

みつどもえ」を観ていて改めて思ったのが、物語の導入部で多数のキャラクターを見せるのに、こういった複数参加型の「イベント」をシナリオに持ち込むのは、やはり有効だな〜ということ。アニメや漫画だけではなく、映画なんかでも定番の作劇法ですが、一度に複数の登場人物の個性や他の登場人物との関係性を明示するのに、その利便性と説得力は絶大です。
 
映画だと、やはり有名なのは黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」でしょうか?
 


 
「悪い奴ほどよく眠る」は、大規模な汚職事件をテーマにした重厚な社会派ドラマですが、容疑者、新聞記者、警察、様々な登場人物たちを一時にスクリーンに登場させ、その相関図を明らかにするのに使われていたのが「結婚披露宴」というイベント。
 

 
事件の渦中にいる結婚式の参加者の顔が次々に映し出され、それを追うマスコミの台詞で、劇中での立ち位置を整理させるという、観る者に理路整然とした物語の導入と強烈なインパクトを与えてくれる凄まじいシナリオ力。
 
この映画に影響を受けて、シナリオの構造をそのまま流用したのが、コッポラゴッドファーザーですよね。
 

 
これまた結婚式というイベントを用いて、物語の主要人物たちを一度に登場させ、その関係性を交錯させる、見事なストーリーのスタートライン。結婚式の明るい雰囲気と、その後に始まるハードな抗争劇とのコントラストも効いていて、何度観てもゾクゾクするような期待感と高揚感を感じさせてくれます。特に、マーロン・ブランドアル・パチーノ! アンタら、カッコ良過ぎるよ!
 
 

■アニメならではの魅力が出ていた「学級会」のシーン

こんな感じで、イベントを物語の冒頭に持ってくることで、キャラクターを魅せる手法は定番と言えば定番なわけですが、「みつどもえ」の場合はそこに「なんでもバスケット」という小学校ならではのゲームを持ってくることで、コメディのロケーションとシチュエーションを強調していたのも良かったですよね。
 
そして、この第一話で、終盤にもう一つ用意されていたイベントが「学級会」。クラスで飼っているハムスターの「チクビ」を巡って、これまた一騒動が起こるわけですが、ここでも多数のキャラクターを一度に見せるのに「学級会」というイベントが一役買っている。
 

 
で、アニメ化に際してそこに加わったマジックが、「声」があるってことですよね。「なんでもバスケット」の時点では、ビジュアルとアクションを見せるだけに止まっていた各キャラクターたちが、「学級会」というそこにいる全員に発言権が与えられたイベントの中で、一斉に声を上げだす。
 
あぁ、佐藤の声は三瓶由布子さんだったんだ、へぇ〜千葉氏はアニメになるとこんな声なんだ、宮…宮前さん? のキャストは大原桃子さんなんだ可愛いなぁ〜。事前に雑誌やHPの情報なんかでキャストの情報は頭に入っていたとはいえ、実際に声を聞くことで生まれる絵とのマッチングとおもしろさ。そして、それをスムーズに行うために「学級会」を持ってくる巧さ。
 
「なんでもバスケット」と「学級会」。実に小学生らしいイベントを持ってくることで、キャラクターの魅力とストーリーのロケーションを強調しつつも、それぞれ「ビジュアルとアクション」「声」とキャラクターの魅力をそれぞれ分けてアピールしてくる辺りが本当に凄いなと思った次第。スタッフの「みつどもえ」愛を感じました。
 
 

■まとめ

みつどもえ」のシナリオの巧さについて、実写映画なんかの情報もチョッピリ挿みつつ、自分なりに書いてみました。
いや〜「みつどもえ」は、アニメ版もおもしろい! です。
アニメ版の監督はみなみけ太田雅彦さんということで、流石のコメディ・クオリティー。更に音楽には同じく「みなみけ」を手掛けられていた三澤康広さんを起用! ということで、音楽面での興味深い「遊び」も色々とあったので、その辺についてもまた語ってみたいです。
 
 
 
<関連URL>
■ついに動いた!「みつどもえ」第一話の華麗なるスタート!(たまごまごごはん)