「さんかれあ」と「これゾン」二期も始まることだし、ゾンビ映画について簡単にまとめておきたいオブ・ザ・デッド

 

 
さんかれあ」「これはゾンビですか? オブ・ザ・デッドと二本もゾンビものの作品が始まる春アニメ。私みたいな、ゾンビ映画ファンとしては全くもって嬉しい限りです。コレをきっかけにして、新規のゾンビファンが増えてくれることを心の底から願って止みません。「さんかれあ」や「これゾン」を見た後は、これらの作品の元ネタになっているゾンビ映画も是非是非ご一緒に観ていただきたいと思います!
 
…とはいえ気になるのが、初めてゾンビ映画に触れる人たちが戸惑うであろう、ゾンビ映画の異常な分かりづらさ。
 
いや、「分かりづらい」って言っても、決してストーリーが難解とかそういうわけじゃないんですよ。何が分かりづらいって、タイトルがとにかく分かりづらいんです! 本数そのものも多い上に、独特のセンスによる邦題が付けられていたりするので、製作された時系列であるとか、作った監督が誰なのかとか、どこで作られたのかっていう情報が極めて混乱し易い。で、何から観ればいいのかが大変に分かりづらい!
 
コレでは、「さんかれあ」や「これゾン」でゾンビ映画に興味を持った方が、ゾンビ映画を手に取りにくいのでは、もしくは、間違って凄くつまらない駄作を掴まされてしまい興味を失ってしまうのでは…と余計な老婆心が働いたので、今回のエントリでは「さんかれあ」や「これゾン」の話題を絡めながら、自分なりにゾンビ映画について簡単にまとめてみたいと思います!
 
自分もゾンビ映画に関しては、かなり混乱をしていたり、間違って認識をしていたりする部分も多々あると思うので、ちょっと事実誤認をしているところもあるかもなのですが…その辺は、詳しい方に訂正をいただけると幸いです! インターネットは集合知! というわけで、ゾンビ映画についてアレやコレやと〜!!
 
 

■全てはここから始まった「オブ・ザ・デッド」三部作

今では、あらゆる国々で製作をされているゾンビ映画。その源流に存在をしているのが、アメリカの映画監督、ジョージ・A・ロメロによる「Night of the Livingdead」「Dawn of the Deadそして「Day of the Dead」という三本の映画です。
 

ジョージ・A・ロメロゾンビ映画三部作
 
「オブ・ザ・デッド」というタイトルでまとめられた、この三本の映画。いずれも、死者が"ゾンビ"として蘇り、そのゾンビ達に追い詰められる人間たちの極限状態でのサバイバルを描いた作品です。
この三部作はゾンビ映画の名作であると同時に、その後に続くゾンビ映画のルーツ的な作品。映画、アニメ、ゲーム、漫画、小説などなどのゾンビを扱った諸作品に登場する「ゾンビは生きた人間の血肉を求め、食らう」「ゾンビに噛まれた人間は、やがてゾンビになってしまう」「ゾンビは脳を破壊されない限り死ぬことはない」といった、現在に至るまでのゾンビもののルール…というか"お約束"の数々も、この「オブ・ザ・デッド」シリーズの中で登場し、やがて一般的になっていったものです。
 
全てのゾンビものは、そのルーツをたどればロメロによるこれらの映画に行きつくと言っても決して大袈裟ではありません。今でも、ゾンビものの新作映画には「○○○・オブ・ザ・デッド」というタイトルの付いたものがリリースされ続けていますが、そこにはロメロの三部作に対するオマージュ的な意図と、ゾンビ映画としての定番のフレーズの両方が込められているんでしょう。勿論、「これはゾンビですか?」の二期タイトルに付けられている「オブ・ザ・デッド」の元ネタも、やっぱりロメロ。
 
そんなゾンビの出発点である三部作。簡単にあらすじや作風を書かせていただきます。
「Night of the Livingdead」では民家が、「Dawn of the Dead」では大型ショッピングモールが、「Day of the Dead」では軍人と民間人が共に潜む地下基地が舞台になっており、そこに立てこもる"生存者"と彼らを襲う"死者"という構図が一貫した作品のテーマとなっています。
そして、そこで描かれるのは正に地獄絵図。腹部を切り裂かれ内臓を引きずり出される暴走族、ゾンビの四肢や頭部の切断といった視覚的にショッキングな残虐描写の数々に加え、仲間がゾンビに噛まれゾンビになってしまったり、閉塞的な状況の中での人間同士の諍いが起きたり…といった心理的なプレッシャーも同時に描かれ、観る者の心身に強烈なインパクトを残します。
 
また、ジョージ・A・ロメロの凄まじいところは、そうした"ホラー映画"としての構成要素の数々に、社会風刺やペシミスティックな人間観…といった作家性の強いテーマを絡めて映画を作ってしまうところです。故に、このロメロによる「オブ・ザ・デッド」三部作は、他のゾンビ映画とは一線を画す評価と地位を得ることに成功をしています。
 
 

■「ゾンビ」? それとも、「ドーン・オブ・ザ・デッド」?

と、ここまでロメロのゾンビ映画が如何なるものか? について書かせていただいたのですが、実はこの三部作こそが、その後のゾンビ映画の混乱、ややこしさの元凶になっている部分もあるのです。
 
どういうことかと言いますと、この三部作。それぞれ日本で付けられた邦題がてんでバラバラなんですね。先ほど、私はそれぞれの作品を「Night of the Livingdead」「Dawn of the Dead」「Day of the Dead」と、それぞれ原題の英語表記でテキストにしましたが、これが日本だと「Night of the Livingdead」はカタカナ表記でナイト・オブ・ザ・リビングデッド、「Dawn of the Dead」は「ゾンビ」、「Day of the Dead」は死霊のえじきとなります。
 
こうして改めて見ると、邦題のセンスが向いている方向が完全にメチャクチャですね…。初めて見た人は、この三本の映画を同じ監督が作っていて、繋がりがあるなんて絶対思わないですよ! 作られた時期も、日本で公開された時期も、それぞれに開きがあるので仕方がないことなのかもしれないんですけど…。
 
そして、これらの映画はタイトルどころか…各ヴァージョンによる編集の違いやリメイク作品が多数あるのも更にややこしいところ!
 
例えば、ゾンビ三部作の中でも特に有名なのが二本目の「Dawn of the Dead」…「ゾンビ」ですが、この「ゾンビ」ってタイトルも一番最初にイタリアで上映された際に、本作のプロデューサー的な役割を行ったダリオ・アルジェントという映画監督が勝手に付けたものなんです。「Dawn of the Dead」という本来のタイトルの前に、「Zombie」っていうキャッチーな単語を追加してしまった。で、おもしろい話なんですけど、そこから「ゾンビ」っていう言葉が一人歩きをしてホラー映画の中でメジャーな単語になっていく。
 
更に、このイタリア公開版では、ダリオ・アルジェントによる映像の編集とBGMの差し替えが行われ、プログレッシヴロック・バンドのGOBLINによるサウンドトラックが追加されることになります。
 


 
結果、ダリオ・アルジェント版の「ゾンビ」は映像のスピード感が増し、アクション性の強い作品となっています。ロメロのゾンビ映画を"作家性の強い"と書きましたが、そうした映画としての論理的な要素を抜きにしても、秀逸な特殊メイクを使用した強烈な残虐シーンや過激な暴力シーンといった直情的なシークエンスの数々も本作の大きな魅力。で、このダリオ・アルジェント版では、作品のそういったポイントが全面に出た編集となっています。
これに比べて、米国公開版の…つまり、ロメロのオリジナルである「Dawn of the Dead」は、ロック・ミュージックは使用されず、もっと暗く重苦しい雰囲気の作品となっています。この二つのバージョンを見比べてみると凄くおもしろいですよ。編集や音の使い方一つで、ここまで作品の印象って変わるものなのか! って驚かされますから。
 
その後、「Dawn of the Dead」は「ゾンビ」のタイトルで日本で公開されることに。もはや、「Dawn of the Dead」という原題は涼宮ハルヒばりに消失しちゃいました…。
 
ちなみに、「Dawn of the Dead」は21世紀に入ってアメリカのオタク監督ザック・スナイダーのメガホンと、同じくオタク監督のジェームズ・ガンの脚本によってリメイクされることになるんですが、コッチのリメイク版の「Dawn of the Dead」の邦題はカタカナ表記で「ドーン・オブ・ザ・デッド」となっています。や…ややこしい…。
コチラは、オリジナル版のシチュエーションやエッセンスを踏襲しつつも、ブラック・ユーモアの多用や装甲車が登場するクライマックスシーンなどなど、より娯楽性の強い一本です。
 
他にも、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、特殊メイクを担当したトム・サヴィーニが監督として後にリメイク作を作ったり、何故か3D映画としてこれまたリメイクされたり…とそれこそゾンビの如く、ドンドンとリンクする作品を増やしていくことになります。
 
 

■お前は一体何なんだ!? なゾンビ映画サンゲリア

もう、ロメロのゾンビ映画についてアレやコレやと書いた時点で大分、頭が混乱してきたと思いますが、ゾンビ映画の難解さはこの程度では決して終わりません。
 
ヒットしたロメロの「ゾンビ」。そして、ヒット作品が生まれると、それに続けとばかりに数多くの模造品、エピゴーネンが生まれるのが世の常、人の常…。そして、「ゾンビ」も然りで、イタリアでトンデモない映画が製作されることになります。その名も「ZOMBIE2」
 

フルチ版の"ゾンビ"こと「サンゲリア」。グロテスクなゾンビの造型は必見!
 
「ZOMBIE2」なんてタイトルだとロメロの「ゾンビ」の続編だと思うじゃないですか! ですが、コレが本家のゾンビとは全く異なる、全然別の代物。酷い言葉で言ってしまえば、完全なるバッタものです(とはいえ、ショッキングな"ホラー映画"としては、本当に優れた出来なのですが)。
 
本作を作ったのはイタリアのルシオ・フルチという映画監督。汚らしく、また、凄まじい残酷描写に満ち満ちたホラー映画を数多く作っている映画監督です。そんな監督が作った「ZOMBIE2」。"蘇った死体"といえども、割かしフレッシュな状態で人間としての形状を保っていたロメロ版のゾンビに比べると、コチラのゾンビのビジュアルは完全に腐乱死体のそれ。そして、整合性よりはインパンクトを重視した脚本や、グロテスクなシーンの連発、唐突に挿入される謎のエロシーン…等などによって、良い意味でも悪い意味でも個性的なゾンビ映画となっています。
特に残酷シーンの衝撃たるや、観たらビックリし過ぎて目ん玉飛び出るどころか、目ん玉に木片が突き刺さりますよ。
 
そんな勝手に「ゾンビ」の続編(っぽいタイトル)を題名に冠した「ZOMBIE2」も日本で公開されることになるのですが…その際に付けられた邦題がサンゲリア
 
そう! 「さんかれあ」ってタイトルは、恐らくここから頂戴をしているんですね。キャラクターの名前に、ゾンビ映画ネタが数多く使われている「さんかれあ」ですが、そのタイトルになっているのが、ロメロの本流のゾンビ映画ではなく、この亜流のゾンビ映画のオマージュ…というのは何ともユニーク。そういえば、「さんかれあ」の主人公、降谷千紘(ふるやちひろ)も、苗字と名前を繋げてみればフルチ。メインになっているのは、やっぱり「ゾンビ」じゃなくて「サンゲリア」。
 
こうして、更にややこしさを増していくゾンビ事情ではありますが、結果、アニメ化されるような人気ラブコメ漫画にまで影響を与えるようになるのだから、良かったといえば良かったのかもしれません。…ホントに良かったのか…な…?
 
あと、更に混乱させることを書いてしまうのですが、この「サンゲリア」も結果的にホラー映画ファンの間でヒットをしちゃうんです。すると、今度は「サンゲリア」っぽいタイトルの邦題を外国のホラー映画に付けるのが流行ってきます
例えば、ゾンゲリアというサスペンス色の強い(でも、硫酸で顔を溶かしたり、人間を生きたまま火だるまにしたり、眼球に注射針を刺したり、解剖シーンがあったり…と残酷シーンはかなりバイオレンス…)ゾンビ映画があるんですが、コレなんて「サンゲリア」とは全然関係ないアメリカ映画です。原題は「Dead & Buried」。…「〜リア」とか全然付いてない…。
 
 

■どんどんややこしくなるゾンビ映画

今でも、映画でヒット作が生まれると日本未公開作品…所謂「DVDスルー」なんかの映画に対して、ヒット作っぽいタイトルを付けるマーケティングは行われていますが(例えば、TSUTAYAに「トランスフォーマー」っぽいタイトル、ジャケットデザインのB級SF映画が何本あるか…)、昔のホラー映画もそんな感じでどんどん邦題を勝手に付けちゃってたんでしょうね、きっと。
 
「Day of the Dead」の邦題である「死霊のえじき」なんてのもそういった作品の最たる例なんだと思います。ホラー映画の時系列を紐解いてみれば、「死霊のえじき」の日本公開前にスプラッターホラーの金字塔的な作品であるサム・ライミ死霊のはらわたがヒットをしている。サム・ライミといえば、後に「スパイダーマン」を大ヒットさせることになるハリウッドの売れっ子映画監督ですが、インディーズに極めて近い製作体制で作られた本作は笑っちゃうくらいの血飛沫が上がる大袈裟でエンタメ精神に満ち満ちたホラームービー。この映画のヒットが、スプラッター・ブームを生み出すことになるんですが、コレにあやかって「死霊の○○○」というタイトルを付けるのが一種の時代性、トレンドだったんでしょう。
 

スプラッター・ホラーの金字塔的作品「死霊のはらわた」(原題は「Evil Dead」)。
 
当時は、「Day of the Dead」の他にも、コメディー色の強いホラー映画の秀作「ZOBIO 死霊のしたたり」なんてタイトルの映画も公開をされている。もう、「ゾンビ」なんだか「死霊のはらわた」の続編なんだか…という感じですが、この映画の原題も「Re-Animator」で、ロメロともサム・ライミとも全然関係ない映画なんですよね…。
 
流石に、映画の配給会社さんなんかも反省をしたのか、ロメロが21世紀に入って再び撮り始めた「Land of the Dead」「Diary of the Dead」「Survival of the Dead」というゾンビ映画は、それぞれ「ランド・オブ・ザ・デッド」「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」「サバイバル・オブ・ザ・デッド」というカタカナ表記のタイトルになっています。
 
こんな感じで、結果として「なんちゃらオブ・ザ・デッド」だったり「死霊のなんちゃら」だったり「サンゲリア」っぽい音の響きのタイトルが乱立していて、もうレンタルビデオ屋のホラー映画の棚ってトンデモないことになっちゃてる。また、そこから続編だとか、リメイク作なんかもあるわけで…ホラー映画ファン、ゾンビ映画ファンとしては、やや悲しい事実ではありますが、こりゃ最初に何を観ればいいか分からないし、混乱もするよな、と。
 
しかしながら、そこにはやっぱり名作、傑作と呼ばれる作品が存在をしているし、ある程度整理をすれば映画の文脈もキチンと存在をしているです。とにかく、コレからゾンビ映画に触れる方には、一番最初は「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と「ゾンビ」、そして「死霊のえじき」というロメロの三部作を観ていただきたいなぁ〜と私なんかは強く思います。
 
 

■まとめ

ゾンビ映画について、簡単にまとめるつもりが、より混乱を招くようなエントリになってしまったかもしれません…。
 
こんな感じで、ちょっぴりとっ散らかっていて、ちょっとややこしいゾンビ映画の数々ではありますが、でも、おもしろいんですよ! 
アニメの「さんかれあ」や「これゾン」を観てハマった方は…映画の方も是非!
 
 
 
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