"見えていた"と"見えなくなった" - 『仮面ライダーゴースト』の演出術に唸らされる






毎週放送を楽しみにしている"ニチアサ"作品『仮面ライダーゴースト』。


ゴースト、スペクターに続く第三の仮面ライダー、ネクロムも登場し個人的にも盛り上がっている(また、ネクロムのデザインが大変にカッコ良い!)のですが、先日放送された最新回で「おっ!」とエモーションに触れてきた描写があったので、ちょっと覚え書きとしてアレやコレやと感想を残しておきたいと思います。


以下、第20話「炸裂! 炎の友情!」のネタバレを含む感想なので、ご注意ください!




仮面ライダースペクター、深海マコトの告白

仮面ライダーゴースト』第20話「炸裂! 炎の友情!」、前回から登場した画材眼魔とタケルの交流を描くストーリーに、敵幹部であるイゴールの暗躍、更に、アランに操られていたマコト兄ちゃん(仮面ライダースペクター)の奪還と、幾つものシナリオが同時に進行したエピソードでしたが、やっぱり、最大のポイントはラストシーンでのマコトによる衝撃の告白だったと思います。


実は、自分の身体は未だ眼魔の世界にあること、その為、敵側がその気になれば(恐らくは)自身を消滅させることも容易なこと。


次回以降は、マコト兄ちゃんの肉体を奪還する為にタケルが眼魔界へと潜入する……というシナリオになるかと思うのですが、この怒涛の展開にはビックリでした。肉体が向こうの世界にあるということは、恐らく、こちらの世界にいるマコトは、きっとタケルと同じく霊体のような存在なのでしょう。


自分は、マコトは既に生き返っていて、妹さんを助ける為に現世に来ているものだとばかり思っていたので、まさか、あの姿が肉体を持たない仮初めの身体だとは思ってもみませんでした。


タケルやアランと同じく変身アイテムを使い、仮面ライダーへの変身が可能なマコトは、彼らと同じく"生者"ではない……"あちら側の存在"だったということなのでしょうか? 考えようによっては、『ゴースト』の世界では、幽体でなければ仮面ライダーになることはできないという解釈、推測もできそうな気がします。


冷静に振り返ってみれば、モノリスから眼魔界に吸い込まれたにも関わらず、現世に戻ってきたマコトの存在って不思議といえば不思議だったのですが、タケルやカノンちゃんのように、特別に"死"の描写や"幽霊"としての描き方がなされていなかったので、こちらは今まで特別に意識しなかったというか……。これは、結構に驚かされました。


最初に聞いた時は、唐突にも思えたマコトの告白ですが、よくよく考えてみると、成る程、確かに色々と筋が通っているんですよね。




■眼魔が"見えていた"兄と"見えなくなった"妹の対比

そんなマコトの告白に絡めて、唸らされた描写が妹のカノンちゃんにまつわるシークエンス。エピソードの途中で、イゴールが変身した青竜刀眼魔と仮面ライダーゴーストが交戦する中、その姿を見つめながらアランがカノンちゃんと言葉を交わす……というシーンがあるのですが、この時、カノンちゃんには眼魔の姿もゴーストの姿も見えていないんですよね。





これは、アレです。『ゴースト』の序盤で頻繁に使用されていた「仮面ライダーゴーストと眼魔は、人ならざるものなので、人間はその姿を見ることができない」という演出術です。


仮面ライダー龍騎』のミラーワールドとか、『仮面ライダーカブト』でのクロックアップによる超高速バトルであるとか、『仮面ライダードライブ』の重加速下での戦いとか、平成ライダーシリーズで度々描かれてきた"人間が認識や目視をできない世界で繰り広げられるヒーローと怪人の戦い"。


『ゴースト』も、その楽しさとおもしろさが詰まった演出が用いられていたのですが、不知火やクモランタンといったガジェットが登場してからは、眼魔の姿が可視化されたことで、そういった演出は控え目になり、ストーリーテーリングの方により力が入れられ始めた印象があります。


そうした中で、アランとカノンちゃんという"見える"力に差がある2人の目を通して描くゴーストと眼魔の姿。そして、そこでは"見えない"カノンちゃんを描写することで、彼女が身体を取り戻し、生き返ることができたという事実が、このシーンでは強調されています。


仮面ライダーや眼魔の姿が見えない"人間"のカノンちゃん。では、眼魔の姿を見ることができ、戦う能力を持つマコトは?


初登場時から眼魔を目視でき、更に、物理的に触れることもできるマコトは、ゴーストドライバーの力に加えて、何かしらの超常的な能力を有した存在であったと考えることができます。実は、肉体を持たない、この世に生きる者とは異なる存在であった……という、ここに来ての衝撃の告白も、これまでの眼魔との戦いを振り返ってみれば成る程、納得がいきます。


肉体を再び得て、蘇生したことで眼魔が見えなくなったカノンちゃんと、一見、生きているように見えているけれども、実は身体がない……それ故に、眼魔を見ることができていたマコト兄ちゃん。この世で身体を取り戻した妹と、実は肉体を持たない存在だった兄。


一連の描写は、超常的な存在である眼魔を見ることができない妹の目を通して、兄の存在感が際立つ見事な脚本と演出だったと思います。『仮面ライダーゴースト』の重要なモチーフにもなっている"目"を上手く使った兄妹の演出術に、唸らされたシークエンスでした。