「たまこまーけっと」と夏のお餅屋さん事情と少女の恋心

 

 
元和菓子屋の従業員だった自分にとって、思わず言及をせずにはいられないたまこまーけっとのお餅の描写。今回は、「たまこまーけっと」と夏のお餅事情についてアレやコレやと!
 
 

■和菓子屋にとっての夏という季節

たまこまーけっと」の劇中では、各エピソードの中でゆるやかに時間が流れており、季節が変遷をしていく。第一話で、たまこはモチマッヅィと冬に出会い、共に年越しを迎える。以降は冬の終わりと共に暖かな春が来て、そして、春の陽射しが強まって夏となる。
 
登場人物たちによる季節ごとの衣装の変遷…も、本作の大きな魅力(特に、たまこ達が通う高校の夏服のキュートさは、近年のアニメ作品の中でも1、2を争うナイスデザインだと思います。個人的には)ですが、それと同時に作品の中で季節性を感じさせてくれるのが、劇中に登場をするお餅の数々。
 
新年を迎える為の真っ白な鏡餅に、春の到来を告げる桜餅、そして、5月は男の子の健やかな成長を願う柏餅…と、日本には季節毎の餅菓子が色々。多彩なお菓子の数々は、日本の四季を彩る粋と意匠が集結をした結晶でもある。
 
そんな中で「たまこまーけっと」が迎えた夏という季節。お菓子屋でシーズン毎のお菓子を製造、販売していた人間としては、ここで何を出してくるかアニメ放映の当初から気になっていた。
 

みどり: 「夏にお餅は重たいけどね〜」

 
夏は、和菓子屋にとって鬼門の季節だ。
 
第5話「一夜を共に過ごしたぜ」で、みどりが話したように、確かに夏という季節に餅やあんこといった和菓子の存在感はチト胃に重い。故に、多くの和菓子屋では、この時期は所謂"閑散期"となる。「お盆」というこれまた日本特有のイベントの前には、帰省時のお土産用にお菓子が多数売れるので、一瞬だけ繁忙さを取り戻すものの…それが終われば、涼しくなるまでは再び閑散期。夏の暑さは和菓子屋にとって、余りにも強大な敵と言える。
 
 

■夏のお餅にナニを出す?

さて、そんな夏を前に、お餅大好きなたまこは一体何を持ち出すのだろうか? 「たまこまーけっと」を視聴するにあたって、何気に興味深く思っていたポイントだった。夏の暑さは、餅屋にとって天敵。これまで、様々な餅菓子を使って季節感を各エピソード毎に出してきた「たまこまーけっと」ではあるけれど、夏にピッタリのお餅を出すのは流石に難しいだろう。人気野球漫画「グラゼニ」風に表現をするならば、まさに「投げる球がない!」。このマウンドをどうやって切り抜けるのか気になって仕方がなかった。
 
夏ならではの菓子である葛餅やわらび餅は、"餅"と名前に付いているけれど、餅米を使った"餅"ではない。果たして、そこで妥協をするのか? それとも、京都アニメーション繋がりということで、"氷菓"であり、なおかつこの時期の和菓子屋にとっての貴重な戦力であるアイスキャンディーのようなお菓子を出して、新境地を見せてくれるのか? さぁ、どうする、たまこちゃん!?
 
そんな元和菓子屋の経験値を元に彼女の一挙手一投足を見つめる中、彼女はとんでもない"たま"を投げ込んでくる。
 

 
キャンプファイヤーで焼いた餅
 
どストレートな豪速球。何の変哲もない丸餅で、たまこはキチンと季節感とこの時季ならではのイベント性を演出してみせるのだった。流石に、ここまで自分のイマジネーションは追いつかなかった。素晴らしき哉、たまこのお餅愛。全くもって完敗である。
 
鏡餅や桜餅、柏餅のような時期性が明快な和菓子でなくても、キチンとお餅をエピソードに登場させる辺りは、流石のかわいい餅屋の娘。第6話の次回予告にてわらび餅の名前は出てきたけれど、たまこ的にはやはり蒸した餅米を搗いて作った"搗き餅"こそが"お餅"というこだわりがあるのかもしれない。
 
 

■夏に膨らむ、もう一つの"もち"

さて、夏場のシビアなお餅屋事情と、それすらもアッサリと乗り越える、たまこのお餅に対する思いが凝縮されたシークエンスを紹介したところで、ここではもう一つの"もち"についても触れておこう。
 

もち蔵: 「一体、何なんだよ…」
 
みどり: 「別に…ただ、たまこが困っちゃうかもって思って」
 
もち蔵: 「常磐には関係ないだろ」
 
みどり: 「たまこに付きまとうのいい加減やめたら!?」
 
もち蔵: 「別につきまとってなんか…」
 
みどり: 「まとってるよ! あのさ…たまこ、王子のことなんか全然見てないよ! だから、告白したって無理だと思うよ!!」

 
それは、常磐みどりの大路もち蔵に対する気"もち"であり、もち蔵のたまこへの想いに気付いているが故のヤキ"もち"。焚き火の火に焼かれ、プックラと膨らむ"焼き餅"の姿は、そのまま、常磐みどりという少女の思い人に対する"ヤキモチ"へと繋がっているのだろう。そう考えると、「夏にお餅は重い」と語ったみどりの序盤のダイアローグにも、また別のニュアンスが生まれてくる。想いは重い。少女の複雑な恋は、ズッシリと切なく彼女の青春時代にのしかかる。
 
常磐みどりという少女の前途多難な恋心には、"頑張って!"というシンプル極まりないストレートな言葉しか現時点では投げかけようがないのだけれど、恐るべきはお餅一つで四季はおろか、少女の複雑な恋心まで物語ってしまう、たまこのお餅への一途な想いだ。
 
そんな、たまこが友人たちと宇治金時について語らうシーンで、いみじくも彼女はこんな言葉を残している。
 

たまこ: 「ほら、宇治金時の上にも乗ってるでしょ?」
 
みどり: 「アレは白玉でしょ?」
 
たまこ: 「お餅でもいいでしょ?」
 
かんな: 「お餅だと固くならない?」
 
たまこ: 「じゃあ、温めて…」
 
みどり: 「氷、溶けちゃうけど」
 
史織: 「でも、それはそれで美味しそう」
 
たまこ: 「うん、深いな! お餅!!」

 
あぁ、本当にお餅は深い。そして、同じく恋も…深い。