町野変丸とジョン・K・ペー太の変態師弟対談

 
今回のエントリは、ネタがややハードコアな内容なので、以下収納で〜す。
 
 
ジョン・K・ペー太先生の単行本「ジョン・K・ペー太の世界」を遂に手に入れました!
 

 
いや〜、ずっと探していた一冊だったので、これは嬉しい。現在はコアマガジンから漫画を発表しているペー太先生ですが、これはその前段階である桃園書房時代に発売されたジョン・K・ペー太の、ジョン・K・ペー太による、ジョン・K・ペー太ファンの為のファンブックです。エロ漫画家のファンブックって何気に珍しいですよね。桃園書房が倒産してしまった為、残念ながら絶版となっているのですが、収録されている内容は、
 

・単行本未収録のエロ漫画
・エロ漫画家転向前に描いていたホラー漫画
・更に、そのホラー漫画家転向前に、別冊ヤングジャンプに掲載された(!)短編漫画
伊藤剛氏による解説コラム
・質疑応答
ジョン・K・ペー太年表

 
と、とにかく無駄に充実した豪華な一冊となっており、ペー太ファンは必読の一冊だと思います。
 
私はコアマガ以降の新しいファンなので、読んでいると知らなかったことが沢山書かれていてビックリでした。
特に驚いたのが、今はあんな漫画を描いているのに、漫画家デビューは実はヤンマガだったという事実! しかも、デビュー後は、ハロルド作石先生のアシスタントをされていたそうで、この「ジョン・K・ペー太の世界」では、ハロルド先生から直筆メッセージも寄稿されています。
 

 
エロ漫画転向後(本人曰く「ダークサイドに落ちた」)は、マニアックでマイノリティなエクストリーム表現を突っ走っていますが、最初はバリバリのメジャー志向だったんですね。ちなみに、ヤンマガ掲載時の絵柄はこんな感じ。
 
<ジョン・K・ペー太「カオス同棲」>

 
現在のタッチとは多少異なりますが、タイトルをUKハードコアのChaos UKからとるパンクなアティチュードや、
 
■Youtube - Chaos UK / No Security(Live)
 
ブラックなコメディーセンスは現在のエロ漫画にも通じるモノがあります。
 

 
この頃の漫画は、音楽に非常に親和性が高いところや毒の効いた作風が、井上三太先生なんかを彷彿とさせる内容となっています。他の漫画の出来もよく、見所一杯の一冊なのですが、特にオモシロかったのがペー太先生が心の師と仰ぐ、町野変丸先生の対談。
 

 
ペー太先生がエロ漫画を描くきっかけになったのが、変丸先生の漫画との出会いで、初めて自分でお金を出して買ったエロ漫画も、変丸先生の「イエローミサイル」だったそうです。そんな心の師匠との対談で、なおかつ成年漫画界隈でも、かなりアクの強い漫画を描かれているお二方なので、短いながらも、なかなか読み応えのある内容になっております。このまま埋もれてしまうのは勿体無いので、印象に残った部分を、いくつか引用させていただきます。
 

キャラの名前について
ジョン・K・ペー太(以下「ペ」):前から思ってたんですけど、ゆみこちゃん(町野変丸スターシステム的に使用する)の元ネタっていうのはあるんですか?
 
町野変丸(以下「変」):元ネタっていうと?
 
ペ:なんで「ゆみこちゃん」なんですか?
 
変:ああ、意味無いですよ。
 
ペ:特に思い入れがあるとかじゃないんですか?
 
変:あの、思い入れとかじゃなくて、例えば(ペー太は漫画のキャラに)名前つけないじゃないですか。あれと似た感じですよ。
 
ペ:記号としてですか?
 
変:例えば「麗子」だと金持ちっぽいとか、名前のイメージってあるでしょ? そういうのがない名前が「ゆみこちゃん」。
 
ペ:ああ、なるほど。
 
変:あえて理由を言うならそういう事。
 
ペ:ちゃんと計算してつけてたんですね。
 
変:計算ってほどのものじゃないけど、一応は考えてますよ。でね、俺も(ペー太が漫画キャラの)名前を出さないっていうのは解るんですよ。ただ、名前ってあったほうがキャラクターに愛着持てたりするし、あと何より便利。名前出さないネームをずっと切ってると、たまに、「あー、ここで名前があればいいのに」って思う事がありますよ。
 
(中略)
 
変:あと、ネームの幅が広がりますよ。自分はよく「お兄ちゃんと妹」を描くけど、「お姉ちゃんと弟」っていうとお姉さんは弟を名前で呼ぶから。妹は「お兄ちゃーん!」って叫ぶけど姉は「弟ー!」とは言わないよね、だから名前つけないと出来ないんだけど、(ペー太が)一本、弟の名前を出さずに姉弟モノを描いてたでしょ、あれはスゴイと思った。
 
ペ:あんまり、その辺は考えた事がなかったっていうか、自分は一人っ子なんでよく解らないんですよね。
 
変:俺はね、編集に「お姉さんモノ」頼まれて断ったことあるよ(笑)。
 
ペ:かたくなですね、そこは(笑)。
 
変:だから、名前付けないのはネタが制限される茨の道ですね。
 
ペ:かといって、流行のアニメに出てくるような可愛い名前を付けるのは嫌なんですよね。

 
町野変丸先生の漫画に登場する「ゆみこちゃん」の名前の秘密と、お二方のキャラクター造形に対する考え方が分かるやり取り。これを読んだ後で、ペー太先生の漫画を見返してみて「あー!」ってなりました。確かに、ペー太先生の描くキャラクターってお互いを名前で呼ばないんですよね。
 

例)「オールナイトロング」(単行本「プルプル悶絶ライセンス)」収録)に登場する姉と弟。
 
そして、「この二人だからこそ!」なエクストリームな性描写について、
 

過激表現の原点は誰?
ペ:巨大なバイブを使ってお腹がボコッってなるのは、どこから思いついたんですか?
 
変:あー、自分は元々、ボコッってならない派だったんですよ。
 
ペ:えー、そうなんですか?
 
変:あれって、誰が始めたんだろうねえ、自分じゃないよ。
 
ペ:じゃ、誰か他にあれを始めた人がいるんですか?
 
変:いると思う。
 
ペ:自分の中では町野さんが初めてだったんで。
 
変:あれは誰だろうなあTRUMPさんかなぁ。
 
ペ:へー、初めて聞きました。
 
変:あれ? TRUMPとか無差別爆撃って知らない?
 
ペ:何ですか? その魅力的な名前は…。
 
変:その人が俺よりももっと前からそういう表現をしていたと思うよ。バイブ何本も入れる様なのは、たぶんそう。
 
ペ:自分は「イエローミサイル」で女医さんが射精されてお腹がパンパンになった後に口と目から精液が出るっていう描写をみて、「ああ、人間の体をこんなに簡単に描いてもいいんだ」と思ったんですよ。凄いショックでした。
 
変:まぁ、OKだったんでしょうねえ(笑)

 
恐らく、「人間の体をこんなに簡単に描いてもいいんだ」の「簡単に」っていうのは、文字通り「人間の身体を簡潔に描く」という意味ではなく、「リアリティを排除し、人間の身体を過剰でオーヴァーに描く」という意味で使っているのでしょう。
この「人間の体をこんなに簡単に〜」というペー太先生の町野変丸評は、非常に的確に変丸作品を言い表していると同時に、その影響下にあるご本人の漫画の作風や漫画に対する意識を考える上でも、非常に興味深い発言だと思います。
 
それから、お二方共、漫画の「コマ割り」に対して苦手意識を持っているかのようなやり取りがあるのも、個人的には面白い。
 

面倒くさいから面白い
変:漫画家って、お話作ってコマ割って絵を描いてっていうのを全部自分でやるわけで、その中でもコマを割るのが一番面白いっていうか、漫画家だけの仕事なわけで、でも自分はそれが身に付かなかったんだよね。その辺は上手いし、ちゃんとしてて偉いと思うわ。
 
ペ:でも、コマ割りって、本当に面倒くさいですけどねー。
 
変:長く描いていると、絵とかは上手くなるんだけど、コマ割りだけは身に付かなかったなあ(笑)。でも、対談なのに「コマ割りめんどくせえ」とか言ってちゃダメだよねえ。

変:俺は短い漫画が多かったせいで、いかに早く服を脱がせるかを常に考えていたんだよね。「暑い!」なんて言いながら脱がせたりして(笑)。1ページ目で話の前段階は終わらせておかないといけないから忙しいよね。
 
ペ:俺も大体2ページ目には裸になってます。そうしないとエロ場面が稼げないし。
 
(中略)
 
ペ:俺、多分今までやってた8ページの大ゴマってコマ割り全部同じですよ。

 
成年漫画ファンの間で、海野螢先生が描くコマ割りの見事さが話題になりましたが、こういったやり取りを見ると、変丸、ペー太的な過剰表現が、ああいった緻密な計算と作画の上に成り立った漫画と見事な対比になっていて面白いですね。
やっぱり、変丸先生みたいな漫画を描こうと思ったら衝動性っていうか、細やかなテクニックみたいなものとは相容れない勢いみたいなものが必要なんでしょうか? この辺り、ペー太先生が好きなパンクロックとの比較をしてみるのも面白いかもです。
 
で、それを念頭に置いてみると、以下のやり取りに非常に重みが出てきます。
 

有り弾は全部打ち込む
変:漫画って状況がラクだよね、状況を説明しなくていいし。俺、デビューしてすぐ連載やったけど、その後はずーっと読み切りだったから何か消耗したよね。
 
(中略)
 
ペ:でも、だんだんネタが切れてくるんじゃないですか?
 
変:そう、自分はもう思いつくこと何でもやりすぎて、手の内をさらしすぎたっていうか、何をやっても読者が驚いてくれなくなっちゃったんだよね。だからネタは小出しにしたほうがいいのかっていうと、若いウチからそんな事考えちゃダメなんですよ!
 
ペ:そうですよね。有り弾は全部打ち込むって勢いですよね。

 
……うっわぁ、何だろう? 何だか、凄くカッコ良いことを言っている気がする。初期衝動のままに、限界までそのまま突っ走るって、まんまパンクの精神性そのものですよね。
 
変丸先生の「何をやっても読者が驚いてくれなくなっちゃった」とか、ネタ切れや過激な作風を繰り返す内に読者が「慣れ」てしまうというジレンマについて語っているのも、この手の漫画家さんの本音がそのまま出てて、凄く好感が持てます。
 
でも、そういう恐怖や不安があっても、出し惜しみするな、と。有り弾は全部打ち込め、と。う〜ん、やっぱり、お二方ともパンクですね。カッコいい…。
 
 
成年漫画家さんの対談やインタビューって、なかなか目にする機会がないので、作者さんの漫画に対する考えを知る上で、こういう企画本は本当に重宝します。
今だと、Blogを筆頭に、webで情報を発信されている漫画家さんも大勢いらっしゃいますが、やはり対談やインタビューとなると、聞き手がいる分、その話の内容も濃くなっていくものだと思いますので、こういう企画がもっと沢山読めるようになると嬉しいんですけどね。某ロッキンオンじゃありませんが、「○○先生、二万字インタビュー!!」とか(笑)。
 
個人的には、LO作家さんの対談企画とか見てみたいんですが…。どうでしょう?
 
 
<関連エントリ>
■パンク、映画好きにオススメしたいエロ漫画−「ジョン・K・ペー太」大百科
■エロ漫画で、極端な性の世界を覗いてみよう