長くファンを続けるならば、時には最低につまらないモノを観るのも悪くはない

 

 
今日は、以前から思っていたことを"独り言"としてアレやコレやと!
 
漫画、アニメ、ゲーム、音楽、映画、プロレス…自分の好きなモノに対して、不意に冷めてしまった瞬間、ファンであることを辞めようかと迷った瞬間
 
そんな時に、どうするか? というお話です。
 
 

■私が、プロレス"ファン"を辞めようと思った瞬間

私は、プロレスが好きです! もう、大好きです!!
 
専門の週刊誌を毎週欠かさず読み、真夜中に放送される試合の中継も欠かさずチェックし、スポーツ新聞やインターネットの速報で試合結果とリング上でのストーリー展開を追い、そして、会場に試合を観に行く…という生活を、かれこれ15年以上続けています。
 
もう、心の底からプロレスが大好きなので、この熱は今までただの一度も冷めたことはありません! …と言いたいところですが、そんな自分でも"プロレス"というジャンルに対して、それまで抱いていた熱意と興味が急激に冷め、ファンであることを止めようかなと思った瞬間が2、3回あります
 
まぁ、15年ファンとして試合や選手を追掛け続けていて、その間に熱が冷めたのが2、3回なら少ない方なのかもしれませんが、とことんハマり込んで。思い入れとか託しているものが非常に大きい分だけ、その反動が凄かったんですね。その2、3回の"ファンであり続けることを迷った瞬間"っていうのは。もう、大袈裟に言ったら、ファンとしてのアイデンティティーが崩壊寸前にまで陥った"危機"であったわけです。
 
中でも、一番ひどかった…プロレスファン人生、最大の"危機"の話をします。
 
 

■人生で一番ひどかったエンターテインメント

私が、プロレスファンであることを辞めようか、どうしようか真剣に迷った瞬間、そのチョイスを迫られた瞬間…というのは2004年の3月28日に両国国技館で行われた新日本プロレスの興業で、プロレス観戦史上"最低の試合"を観てしまった時です。
 
その"最低の試合"というのは、本興業の第6試合にレイアウトをされた棚橋弘至vs.村上一成の金網デスマッチ戦
プロレスを詳しくない方に当時の新日本プロレスの状況や、この試合のディティールやシチュエーションを簡単に説明をさせていただくと、この時代の新日本プロレス総合格闘技イベント、PRIDEの人気に圧され、本当に酷い状態に陥っていたのです。
 
総合格闘技イベントの盛り上がりによって、プロレスの強さが疑問視され、失墜したプロレスの権威を取り返すべく、総合格闘技のマットに所属選手を送り込むも連戦連敗…それも無残な、目を覆いたくなる程の屈辱的な敗北を喫し、ならば今度はエンターテインメント路線だとばかりに、ショー的な要素の強いプロレスのスタイルを押し出すも、余りにも酷い試合内容、ストーリー展開に従来のファン層から顰蹙を買い…と、何をするにもとにかく悪い方、悪い方へと進んでしまう負のスパイラル
 
そんな迷走の極地の新日マットで行われた棚橋vs.村上戦。この時期の新日の悪い部分だけを抽出してリングの上にぶちまけたような…本当に酷い試合だったんです…。
 
<U-30無差別級選手権試合 金網デスマッチ 棚橋弘至vs.村上一成

 
プロレスを観たことがない方でも、この動画とそこに添えられた嘲笑的なコメントの数々を観れば、その当時の寒々しい空気感が伝わるかと思います。
 
この試合は、会場の両国国技館ではなく、観客のいないスタジオに金網とリングを設置し、そしてそれを会場に生中継する…という変則的な試合形態をとっていたのですが、この"観客がいない"というのがポイントで、観ている側のリアクションがないので闘っている選手も、どういう風に試合を組み立てていけば分からないんですね。
しかも、棚橋も村上も金網やデスマッチというシチュエーション、試合形態に馴れていない為、最初から明らかに戸惑いを感じつつ試合を進めている。そんな混沌とした試合を更にかき乱す、試合に関係のない選手の乱入に、不完全燃焼なラスト…。
 
試合に勝利した棚橋の顔に全く笑顔がないのを観ても、この試合が如何に最低な試合だったかが分かるというものです。闘った本人も試合後に自信を喪失し、同業の先輩レスラーに慰めの言葉を掛けられたというこの試合、この一戦が両国の会場で流れた直後に起こった失笑を、この酷い試合の一部始終を当日、会場で生で観てしまった自分は、その瞬間、物凄く落ち込んでしまいました。
 
「俺、何でこんなものに金を払ってるんだろう?」
 
「俺、何でこんな最悪なものを観てるんだろう?」
 
っていう自問自答で、本来だったら観て勇気と元気をもらって、そして最高にハッピーになれるハズのプロレスを観ている最中に気分が沈みこんでしまった。
 
 

■ファンであることを辞めるか、辞めないか

その沈み込んだ気分というのを自分はこの興業が終わって、家に帰って、そして布団に入るまでずっと引きずっていて、寝る前に凄く迷ったんですね。
 
その迷いというのは、「プロレスファンを辞めるかどうか」。それまで、迷走状態の新日を観て、とにかく悔しくて、もどかしくて、悲しい思いをしてきた。それでも、いつかどこかで上を向くんだろうと信じて、チケットを買って会場に足を運んでいたわけです。
 
でも、それでも目の前に出されたのは、エンターテインメントとして最低レベルの試合だった。
 
そりゃ、自分の好きだったモノへの熱も冷めるし、迷いも生まれます。迷って、迷って、一晩中迷って、迷ってる内に何時の間にか眠ってしまって、朝起きてもやっぱり迷ってて、その日も一日中迷っていた。
 
結局、そこで「ファンであることを続けるか、否か」という答えは出ないまま、しばらくしたら、またプロレス観戦や専門誌の購入を始めてしまいました。まぁ、一言で言えば踏ん切りが付かないまま、惰性と、「それでも、ここからまた良くなるんじゃないか?」という期待がフィフティー・フィフティーくらいの気持ちでプロレスファンを続けることになったんですね。
 
で、今、自分はプロレスを観るのが最高に楽しいし、抜群におもしろいです。もう、世の中にこんなおもしろい物があることを、心の底から嬉しく思います。
 
数年前、自分のファンとしての立ち位置を迷わせた程の酷い試合をやってのけた新日本プロレスは、一時期の暗黒期を脱し、今や日本のプロレス界最大手としての力と誇りを取り戻し、上質な試合とストーリーをリングの上で展開しています。
そして、あの日、村上と金網で一騎打ちを行い、そして、プロレスラーとしての大きな挫折を味わった棚橋弘至は、新日本プロレスのチャンピオンベルトを腰に巻き、団体のエース選手として新日のトップに君臨をしています。
 
そんな新日や棚橋を観ていて、ふと思う時があるんです。「あぁ、俺、あの試合を観ておいて良かったな」って。
 
 

■やっぱり、ファンを辞めなくて良かった、という思い

だって、あんな酷い試合を観た後だから、もう、世の中の大半の物事を楽しめるようになったんですね、自分。
あの棚橋と村上の金網デスマッチっていうのは、先ほども書いたように、エンターテインメントとして最低、最悪の出来だった。それを観ちゃってるから、今では、プロレスだけじゃなく、アニメとか漫画とか映画とか音楽とか…色々なカルチャーを心の底からエンジョイできるようになった。
 
時には、「コレはちょっと…」と思う瞬間もあります。それは、プロレスの試合もそうですし、アニメや映画なんかを観ていても、そういう瞬間と時に出会っちゃうことがあります。でも、そこで、"あの試合"に比べれば…って思うんですよ。
合わないもの、つまらないと思うもの…を観ても、瞬間的に拒絶はせずに、ちょっと落ち着いて、考えて、一個くらいはチャーミングな部分を見つけられるようになった、そんな気がするんです。そこから、そういう試合なり作品なりを作っているクリエイターさんに対して感謝の念も出てきますしね。
 
何でも、"あの試合"に比べたら凄いじゃん! おもしろいじゃん! って。愛していたものに裏切られて、熱が冷める…。そんなファンとしての挫折を経験して、でもやっぱり"好き"であることを諦めなかった人間っていうのは強いですよ。
 
それから、やっぱり、自分はあの最悪の状態から、今に至るまでファンを続けているんだぞ! っていう自信にもなっています。
だから、好きなものがちょっとやそっと揺れ動いたくらいでは自分の愛情っていうのは一切ブレないです。ネットがこれだけ普及して、色々な情報が入ってくるようになると、聞きたくない評判を聞くこともあれば、知りたくない情報が耳に入ってしまうこともあります。
でも、そんな"何か"があったとしても、関係ねぇじゃんって。自分が好きなものをずっとずっと信じて追い掛けたいし、もしも、ホントのホントにダメになったとしても最後まで見届けて、それに関わった人たちに感謝の気持ちをもって、その後も時々思い返して…まぁ、添い遂げるとか、そんな大げさなもんじゃないですけど、それくらいの気持ちを持って、対象を信じられるしファンであることを続けられる、その位の心持ちで構えています。
 
思うんですよね。
 
長くファンを続けるならば、時には最低につまらないモノを観るのも悪くはないんじゃないかって。そういうのを知っておくのも大事なんじゃないかって。
 
だって、あの両国での最低の試合を…試合後の冷え切った、嘲笑的なムードを身をもってリアルタイムで体験して、辛い思いをして、悩んで、でもファンを続けてきたからこそ、自分はより一層プロレスを楽しめるようになりましたし、その気持ちがあるから、こうして自分の好きなものへの愛情を感謝を何とか言葉にしようとしてBLOGなんかも続けているわけですから。
 
だから、自分の好きなもの、好きな気持ちっていうのは、やっぱり信じるべきだと思うんです。冷笑とか嘲笑って、やっぱりダメ。そこに逃げ込んで、自分がファンであることを諦めちゃうのは、凄く勿体ない。自分はそう思っています。
 
 

■まとめ

愚にもつかない独り言を長々と語ってしまいましたが…まぁ、一言で言って、自分の好きだったモノに対して、裏切られたと思うような、気持ちが冷めるような瞬間っていうのがあったとしても、それが本当に好きだったら心配するな! ファンであることを止めるな! っていう暑苦しい思いなんですよね。
 
最悪やったり、最低やったりなものを観たとしても、大丈夫なんだと。そういう熱き気持ちっていうのを、あの日、金網の中で憔悴しきった表情で勝ち名乗りを受けたプロレスラーの顔と、今、リングの上でチャンピオンとして堂々と闘い、観客から期待と声援を受けているプロレスラーの誇らしい顔を頭の中で見比べてみて…凄くピュアに思うんです。