ポップな絵とアヴァンギャルドな音の異色の食べ合わせ - 「ベン・トー」のBGMを味わおう!

 

 
皆さん、秋から始まった新アニメベン・トーをご覧になっていますか?
 
スーパーの半額弁当を巡って死闘を繰り広げる主人公たちの姿を描いた色んな意味で凄いアニメなのですが、本編のぶっ飛んだストーリーや設定に負けず劣らず劇中の音楽も何だか凄いことになっています
 
今回のエントリでは、このアニメのBGMについてアレやコレやと!
 
 

■「ベン・トー」のBGMでドラムを叩いているのは…

先ずは、何も言わずに「ベン・ト―」公式HPの商品情報を見てください。年末にリリースされるというサウンドトラックの詳細が載っているのですが、そこに参加しているミュージシャンというのが、とにかく凄いメンバーなんです。
 
■TVアニメ「ベン・トー」公式サイト | 商品情報
 
中でも、音楽好きな方なら真っ先に目を奪われるのが、この方の名前でしょうね。ドラムの吉田達也
 
吉田達也氏といえば、プログレッシブ・ロックやフリージャズのファンならば、その名を知らぬ者はいない凄腕のドラマー。その長いキャリアの中で様々なユニットやプロジェクトに参加をしているので、その活動の全容を掴むのは極めて困難なのですが、個人的にはやはりハードコアパンク・バンドあぶらだこのメジャー1st.アルバムでドラムを叩いていた人という印象が強いです。
 

<オンリーワンな個性を放ち続ける、"孤高"のバンド、あぶらだこ>
 
あぶらだこは、一応は"ハードコアパンク"というジャンルにカテゴライズをされているバンドだと思うのですが、そうした既存の枠に収まりきれない破壊力と個性を、80年代の結成当初から現在に至るまで持ち続けている非常に稀有なバンドです。
直立不動で歌うVo.の長谷川裕倫氏の「現代詩」と評される不可思議な歌詞世界(曲のタイトルも「ティラノの非苦知」「五百段階右折」「天狗の畦道」…と一般的なハードコアのイメージからは逸脱をしたものばかり!)に、変拍子を多用したバンドサウンドを乗せた凄まじいもの。
 
<あぶらだこ / 冬枯れ花火>

 
インディーズ時代のあぶらだこは、ザ・スターリンのギタリストであるTAMが運営をしていたインディーレーベル「ADKエドッコ)レコード」から作品をリリースしていたのですが、80年代の半ばにメジャーレーベルと契約。そこで、発表されたのが通称「木盤」と呼ばれる傑作アルバムです。
 

<80年代の日本のロック、パンクシーンを代表する名盤「木盤」。ちなみに、あぶらだこのアルバムには、どの作品にも正式なタイトルはありません。ジャケットの写真によって、ファンからは「木盤」「亀盤」「釣り盤」…といった感じで"愛称"されています>
 
インディーズ時代にリリースされた音源の時点で、長谷川氏のヴォーカルスタイルと歌詞世界や、アヴァンなバンドサウンドはある程度確立をされていたのですが、そこで聴くことのできる、あぶらだこの"音"は、まだ一般的な"ハードコアパンク"のスタイル、イメージを残したものでした。しかし、この「木盤」で、あぶらだこサウンドは更なる進化を遂げます。
 
<あぶらだこ / ダーウィンの卵>

 
それまでの"速く、短い"ハードコアパンク(と言っても、もうその時点で十分に変体的だったのですが…)から、変拍子ポリリズムによるビートと不可思議なメロディが錯綜し、聴く者の意識をあらぬ方向へと問答無用で持っていくオンリーワンな"あぶらだこ"のサウンドが誕生をしたのです。
 
そして、その"進化"に大きく貢献をしたのが吉田氏のドラムであることは間違いないでしょう。この「ダーウィンの卵」(個人的に、あぶらだこの数ある名曲の中でも、一番好きなナンバーです!)という曲を聴いてみても分かるように、とにかくドラムの音が素晴らしい。同時代に活躍をしていた日本のハードコアパンクのバンド…所謂"ジャパコア"のバンドとは音の質感とかリズムが完全に異なっちゃってるんですよね。もう、完全に別個の異質なドラム。
 
そして、そんな異形のハードコアパンク・バンドで、これまた異形のドラムを叩いていた吉田達也が参加をしている「ベン・トー」のサントラって何なんだ!? って話なんですよ!
 
 

吉田達也のドラムが作り出すアニメサントラの世界

できれば、ここから更に詳しく吉田達也氏のプロジェクト(RUINSとか高円寺百景とか…)であるとか、そのサウンドの特徴を詳しく書いてみたいのですが、残念ながら自分は、あぶらだこの1st.を聴いた後に、GAUZES×O×BOUTO…といったもっとストレートなハードコアパンクのバンドにハマってしまった為、プログレやジャズ、即興演奏の世界で活躍をされている"あぶらだこ"の後の吉田氏のヒストリーなり、プロダクトなりを正直、よく知らないんですね。
「木盤」で衝撃を受けた後に、そこから、RUINSとかを聴いておけば、また知らない世界が色々と見えていたかもしれないんですが…ちょっぴり勿体ないことをしちゃった気がします…。
 
なので、ここからは、そんな吉田氏が参加をした「ベン・トー」のBGMが劇中でどんな効果を挙げているかを自分なりに書いてみたいと思います。
 
本作のサウンドトラックに収録をされているナンバーは、前述の参加ミュージシャンの名前を見ても分かる通り、フリージャズ的なサウンドが中心になっているようです。とは言っても、そこには驚くほどの音の広がりがあります。
例えば、所謂"音響派""ポスト・ロック"的な質感と音の広がりを持ったインスト・ナンバーもあれば、似非アフリカンミュージックのようなメロディとビートもあるし、このメンバーだったら間違いなくこんな音を出すでしょう! な咽び泣くサックスが映える曲もある。
 
勿論、アニメの音楽ということでその辺りを意識して作られている部分もあるのでしょうが、そうは言ってもやはりそこには尖った質感を持った音塊が並んでおり、攻撃性と冒険心に富んだバラエティー豊かな楽曲が揃っているように感じられるんですね。
 
中でも、バトルシーンで流れるBGMのドラミングは凄まじい! これぞ、吉田達也!! アニメとハードコアパンクという違いはあれど、高校生の頃あぶらだこの「木盤」を聴いた時と同等の衝撃を受けましたね。アニメで、こんな音が聴ける。本当に、アニメの音楽って面白いですよね。
 
こうした音楽が劇中にどのような効果を与えているかといえば、やはりその楽曲のバラエティーによって広がる騒々しい、賑々しい、かしましいイメージと、フリージャズが持つ実験的なイメージ。この二つのイメージが「ベン・トー」というアニメ作品にプラスをされているように思うんです。
 
これは、早くサウンドトラックを手に入れて全曲をフルレングスで聴いてみたいところ。年末のサントラのリリースが本当に楽しみです!
 
 

■まとめ

事前情報として、「吉田達也ラノベ原作のアニメに、音楽担当として参加する」と聞いた時は、「吉田達也」と「ベン・トー」っていう二つのサブジェクトの距離感が凄まじ過ぎて、軽く意識が遠のきそうになったのですが、いざ蓋を開けてみればなかなかに音と映像がスイングをしていて…でも、一方で衝突を起こしている部分もあって、それが何とも言えない"味"を生み出していますよね。
 
自分はハードコアパンクとかが好きで、プログレやジャズは門外漢な人間なんで(なので、吉田氏を紹介するのにも出てくるバンド名が、あぶらだことかになっちゃうんですが…)、詳しいことは分からないのですが、多分、吉田達也以外の参加メンバーも、この辺が好きな人には堪らないメンツなんだと思います。フリージャズとか好きな方の解説や感想なんかは、色々と聞いてみたいところではありますね。
 
しかし、アニメの感想を書くのに、「あぶらだこ」なんて名前を出す日が来ようとは…。アニメの音楽って、本当に自由ですよね。
 
<吉田達也 / 吉田達也店長時報Live 20:00>

 
こんなドラムを叩いてる人が、可愛い女の娘が沢山出てくるアニメの音楽を作ってるんだもんなぁ…。
 
 
 
<関連エントリ>
■アニメで流れる○○○っぽいBGM - アニメの音楽パロディについてのアレやコレや