"不穏試合"とは何か? - プロレス頭で声優さんのラジオを聴いてみる

 

 
昨年の大晦日。ボクシングにプロレス、総合格闘技とビッグイベントがいくつも行われ、それぞれのリングで様々な戦いが繰り広げられました。
 
素晴らしい試合が幾つもあったのですが、個人的に最も好みで、なおかつ"語りたい欲"みたいなものをビシビシ刺激してくれたのが、プロレス団体であるIGFの大晦日興業「INOKI BOM-BA-YE2012」、そのメインイベントで行われた藤田和之vs.小川直也です。
 
序盤から藤田と小川の攻防は全く噛み合わず、終始、何とも言い様がないぎこちなさに溢れた試合に。試合中にも関わらず激怒する藤田と小川。観客不在のままで進行していく試合は、最後の最後まで歪な展開のまま、レフェリーストップによる消化不良かつ不可解な幕切れ…と、徹頭徹尾、"プロレス"の流儀とマナーに反した内容となりました。
 
"ガチンコ""シュート"あるいは"セメント"。こうした「プロレスらしくないプロレスの試合」…プロレスファンが言うところの所謂"不穏試合"を形容する隠語の数々によって、こうした試合は後々まで語り継がれることになります。今回の藤田vs.小川戦もその真実は、試合を行った二人にしか分からないところではありますが、"不穏な"試合の一つとして語ることができるでしょう。
 
「不穏試合」とは何か? そして、そんな不穏試合を巡る言説に慣れ親しんできたプロレスファンが世の中をどう見ているか? 今回のエントリでは、その辺についてアレやコレやと書いてみたいと思います!
 
 

■プロレスにおける"不穏試合"とは何か?

プロレスは、エンターテインメントであり、戦いでもあるという稀有なスポーツです。しかしながら、そのプロレスの"表現"や"ルール"に反して、時に試合が荒れに荒れることがあります。
 
<北尾光司vs.ジョン・テンタ>

 
前田日明vs.アンドレ・ザ・ジャイアント北尾光司vs.ジョン・テンタ、鈴木実(現:みのる)vs.アポロ菅原田村潔司vs.ゲーリー・オブライト…などなど。その試合内容の特異性故に、今も半ば伝説的に語り継がれている試合も数多くあります。
 
では、こうした"シュート"、"ガチンコ"や"セメント"と呼ばれる試合が全てプロレスの決して超えてはいけない範疇を超えた、無法の試合だったかというと話はそんな単純なものではありません。
 
何故なら、そうした不穏試合の中には、「あたかもプロレスの常軌を逸した喧嘩のように見えるけど、実はキチンとしたプロレスの試合」も存在をしているからです。
 
この辺りの微妙な言い回しやプロレス界の隠語を多用した私の説明で、どれだけニュアンスが伝わるのか不明ですが、まぁ、簡単に分かりやすく例えると「人がボンボン死ぬんだけど、実はアレは全部、作られた虚構の話でして…」という「BLOOD-C」終盤の展開みたいな感じです。…まぁ、「BLOOD-C」の場合は、その後にもっと酷いことになるんですけど。
 
あたかも喧嘩然とした荒れ模様の試合が、実は、プロレス流のストーリーライン、演出の上で行われていた…ということが"プロレス"というスポーツエンターテインメントの世界ではままあります。
 
 

■捻くれまくるプロレスファン

物凄く複雑で屈折した構造ではありますが、そういった複雑怪奇な部分も含めてファンはプロレスというジャンルを楽しんでいるという部分はあると思います。夭逝をされたとあるプロレス批評家は、プロレスを評してこんな名言を残しました。
 
プロレスとは、「底が丸見えの底なし沼」であると。
 
そんな底なし沼に頭の天辺まで浸かってしまったプロレスファンはどうなるか? これは、もうメチャクチャに物の見方がヒネてくるのです。前述の藤田vs.小川戦のような荒れた試合を観た時、ファンベースの間でこんな会話が繰り広げられます。
 
「見ましたか!? 最初の小川の奇襲の後に、藤田の右目が腫れてましたよ〜! きっと、アクシデント的に目に小川の攻撃が入って、そこで藤田が不信感を募らせたんですよ! あそこから、試合がドンドン崩れていったんですよ〜! グフフフ〜!!」
 
「いやいや、最後の藤田のパンチを見ましたか? 全く、打撃に体重が乗ってませんでしたよ〜! アレはガチンコに見せかけたプロレス。次に行われる藤田と小川の再戦の為のプレリュード、前哨戦なんですよ〜! デュフフフ〜!!」
 
「いやいやいや、あの不器用な藤田がですよ!? リングの上で、あんなにナチュラルにキレた言動を出来る訳がないですよ〜! 『デ・ジ・キャラット』の劇場版にゲスト声優として出演した時にも、あんな棒読みの台詞しか言えなかった藤田がですよ!? アレは藤田の本当の怒り。つまりは、あの試合は正真正銘のガチンコ。シュートマッチだったんですよ〜! ウヘヘヘヘ〜!!」
 
こんな感じで、色々と拗らせたプロレスファンは、"不穏試合"を目にすると、斜め上からの目線で、穿って、ひねて、訝しんで、アレコレと勝手な妄想を繰り広げるのです。裏の裏の裏のそのまた裏をかく。その上で試合の"虚実"を見極めようとします。
 
あぁ、なんて汚い光景なんでしょう! なんと醜い精神なんでしょう!!
 
こうした"不穏試合""シュートマッチ"を語るファンの言説というものは、恐らくネット上で行われるやりとりの中で最も醜いものだと思います。あと、藤田の「デ・ジ・キャラット」出演は、いい加減許してやれよ、もう!
 
 

■そんなヤツがアニラジ、声ラジを聴いたらどうなるか?

流石にここまで酷くはありませんが、プロレスファンという人種は、多かれ少なかれ世の中の事象に対して「ガチ」か「プロレス」かを妄想、線引きする癖があるように思います。
 
例えば、自分の場合は、プロレス大好き人間であることに加えて声優さん大好き人間でもあるので、アニラジや声ラジをよく聴くんですが、ここでも癖の悪いプロレスファンらしい面倒臭い妄想癖が爆発するんです。
 
毒舌や下ネタを得意とする声優さんのラジオ。小野坂昌也さんや関智一さん、女性声優だと浅野真澄さんなんかが、そういったファイトスタイルを売りにしている声優さんの代表格ですよね。こういった声優さんは、あくまでそのキャラクターの中で、毒やシモといったプロレスで言うところの"ヒール"的なトークを展開しているはずなんですが、時々、明らかに常軌を逸したというか、場の空気がおかしくなる時がある。ゲストトークの時に、不穏な空気が流れ始めたりとかですね。
 
質の悪いプロレスファンとしては、何というかビンビンに"くる"瞬間であります。
 
プロレスの試合中に、明らかに"不穏"な空気が漂いはじめた瞬間のファンの感情の揺れ動き。その刹那の緊張感! 張り詰める空気感! そして、その極限状態を無事に回避した後に訪れる弛緩。期待と不安が入り混じった黒い緊張が、やがて、柔らかな安堵感…でも、それはどこかに僅かの失望が入り混じった…へと変化していくエクスタシーのプロセスを我々、プロレスファンは幾度か経験をしてきました。
 
それと同じエモーションを、前述させていただいた"シューター"的な声優さんは我々に感じさせてくれる。特に、恐れ知らずのバチバチトークで攻めに攻める浅野真澄さんのシュートの強さは声優界イチだと私は思います。プロレスで例えたら、前田日明みたいな感じです。
 
■お笑いコンビよゐこの二人をも翻弄した、声優・小林ゆうの天才っぷり
 
あとは、小林ゆうさんや金田朋子さんみたいな強烈なキャラクターを持った声優さんにも物凄く惹かれます。この人は、どこまでがキャラクターで、どこまでが地なのか? …どこまでがプロレスで、どこからがガチンコなのか!? みたいな境界線が非常に曖昧な声優さん。
で、そんな声優さんに振り回される共演者さんの素の戸惑いとか感情が見える瞬間が昔から凄いツボで…。金田さんに振り回されている時の保村真さんのリアクションとか本当に堪らないんですよ! あぁ〜今のは、完全に素で呆れているな、とか、ここでも面倒臭いプロレス脳によるイマジネーションを刺激されて。
 
最近だと、ロシアン・ギミックを引っさげて若手声優界で際立たった存在感を放っている上坂すみれさんのラジオなんかも大変におもしろいと知り合いにご教授をいただきました。この方もセンスやフィーリングがかなり独特らしく、何というか"プロレス"っぽさを感じさせてくれそうな声優さんだな〜などと勝手に思っています。ソ連人ギミックでWWWFの世界王者にまで上り詰めたイワン・コロフ以来の存在感を感じますね、上坂さんには。
 
 

■声優さんのラジオってプロレスっぽい

声優さんのラジオもエンターテインメントなので、ある程度ストーリーラインがシッカリとした上で言葉のやり取りをしていること。それから、各声優さんのキャラクターやポジション、役回りが他のラジオ番組に比べてもハッキリしていること。以上のような理由から、私はこうしたラジオ番組にプロレスとの共通点を見出しているのですが、そんな中でも時に不穏試合的というか、明らかにストーリーラインを逸脱したような生の言葉や感情が出てくる時がある。そこに、私は強烈な魅力を感じるんです。
 
完全にプロレスにハマりすぎた"コッチ側"にいる人間の勝手な妄想なんですけどね。
 
あと、最後に自分の中で伝説になっている声優さんのラジオでのシュートマッチを。不穏試合にも色々な種類がありますが、これはどちらにも相手を傷つけるつもりとか潰す意思は全くないにも関わらず、たまたま放った一発が相手の急所に入ってしまい、急に場の空気に緊張感が満ち満ちた例。プロレスで言ったら、魅せ技で放ったつもりのソバットが相手の下腹部に入ってしまったとか、ハイキックが不運にも相手の側頭部にクリーンヒットしてしまい、その後の展開が急に固くなる…そんな試合。UWF新日本プロレスが対抗戦をしている時に、ちょいちょい目にした。そんな光景。
 
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