プロレス、格闘技のリングアナウンサーとアニメ声優さん

 

<プロレスラー名鑑全集1999-2000 20世紀編 (ベースボール・マガジン社) P.43>
 
プロレスや格闘技の興行に欠かせないもの、それがリングアナウンサー。リングの上で選手の名前をコールし、試合のイントロダクションをクリエイトする。それがリングアナウンサーの仕事。リングアナのコールは、入場曲やゴングの音と同様に、試合を盛り上げ興行の流れを作る為の大切な要素の一つだ。
 
さて、そんなリングアナウンサーであるけれど、実は声優さんが数多く活躍をされている場でもある。今回のエントリでは、リングアナの経験がある声優さんについて、ちょっとアレやコレやと!
 
 

UWFインターナショナルでの小野坂昌也さん

リングアナウンサーの経験のある声優さん…ということで、最初にご紹介をしたいのがこの方、小野坂昌也さん。若いアニメファン、或いは、プロレスファンにはちょっと意外な経歴かもしれないけれど、小野坂さんはかつて高田延彦いるプロレス団体、UWFインターナショナルでリングアナを担当していた。
 


 
プロレスラー、プロレスに関わるスタッフを紹介する"オフィシャルブック"的なベースボール・マガジン社のムック本、「プロレスラー写真名鑑」のバックナンバーを紐解いてみれば、そこには若き日の小野坂さんが高田や田村潔司桜庭和志、高坂剛…といった"プロレスラー"達と一緒に紹介をされているのを見ることができる。
 
UWFインターナショナルは、数あるプロレス団体の中でも格闘技志向の強い団体で、高田延彦は後に、ブラジルの格闘家、柔術家である"300戦無敗の男"ヒクソン・グレイシーとの一戦を機に総合格闘技へと突き進むことになるのだが、この時、高田vs.ヒクソン戦を行う為に新たに立ち上げられた格闘技イベントがPRIDE。この時のメインイベントで、高田とヒクソンをリングに呼び込んだリングアナウンサーも実は小野坂昌也さんで、日本の総合格闘技のヒストリーが実は小野坂さんの"声"で始まっていたというのは、今、振り返ってみてもなかなかにおもしろい事実だ。
 


 
初期〜中期の段階では、何故かお笑い芸人の村上ショージさんなんかもリングアナをやっていたPRIDE。興行を積み重ね、総合格闘技人気の高まりと共にブランドが確立をしてくると、フジテレビでのゴールデンでのテレビ放映もスタート。一大ブームを築くことになるのだが、そこで、多くの視聴者の記憶に刻み込まれたのが次に紹介をするこの方の"声"だろう。
 
 

■PRIDEでの太田真一郎さん

黄金期のPRIDEで、リングアナウンサーを務めていた声優さんといえば、太田真一郎さん。PRIDEを放送していたフジテレビで、かつて一世を風靡した人気料理バラエティー番組料理の鉄人でも"顔出し"のリポーター役をやっていた太田さんだけれども、そのナレーター、アナウンサー的な声質と落ち着いた語り口は、PRIDEという空前絶後の国産格闘技イベントでも遺憾なく発揮をされていた。
 


 
ラジオDJ、ナレーターとして活躍をするケイ・グラントさんと二人でPRIDEの興行…そして、PRIDE亡き後のDREAMでリングアナを担当していた太田真一郎さん。体型的にも恰幅が良く、スーツ姿が良く似合う太田さんにとって、リングアナウンサーという職種はまさに打ってつけの仕事。見事なキャスティングだったと言えるだろう。
 
また、PRIDEを彩った"声"といえば、リング外のブースから英語での選手コールを担当していたレニー・ハートさんや、試合前の選手紹介のプロモーション…所謂"煽りV"でナレーションを担当していた立木文彦さんの存在もファンならば強く印象に残っているハズだ。
 
会場内のスクリーンで各選手の煽りVが立木さんのナレーションによって繰り広げられ、スポットライトに照らされたリングの上で太田さんが選手を呼び込む。そして、入場曲が流れる中、レニー・ハートさんがあの強烈な巻き舌で選手の名前をコールする…この見事な声のリレーションシップは、確実にPRIDEというイベントにとって大きなブランディング、イメージングの効果があったように思う。
 
ちなみに、この時期、テレビ朝日で放送されていた特撮ヒーロー番組特捜戦隊デカレンジャーでは、番組中のナレーションを太田真一郎さんが、そして、番組開始前のタイトルコールをレニー・ハートさんが担当するというPRIDEの演出に大きな存在感を発揮していた声優さんの二人の"共演"も実現をしている。
 
 

■HERO'Sでの森田成一さん

小野坂昌也太田真一郎さん、立木文彦さん…といった、声優陣が参加をしていたPRIDE。そのPRIDEの対抗組織でもあったK-1による総合格闘技イベントHERO'Sでリングアナウンサーとして舞台に立っていた声優さんが森田成一さんだ。
 
お笑い芸人や有名俳優をリングアナウンサーに起用するなど、豪華で華やかなイメージをマスに向けてアピールする戦略を積極的に取っていたK-1。そんなK-1が、リングアナとして抜擢をした声優さんが森田さんだった。アニメの中で演じているキャラクター同様に、PRIDEの太田真一郎さんと比べると、より男らしくて熱っぽい声が持ち味の森田さん。PRIDEのライバルだったHERO'Sのポジションを考えると、この辺りのリングアナの声質、キャラクターの対比も一つの味になっていたように思う。
 
HERO'Sという興行自体は、2000年代後半に相次いだ格闘技イベントの再編成、興行形態の変化といった大きな荒波によって、なし崩し的にかつてのライバルだったPRIDE陣営と合併。新しくDREAMとして生まれ変わることになるのだが、あの森田さんの堂々としたリングアナっぷりは、またどこかのリングで再び目にしたいものだな、と思う。
 
 

新日本プロレスでの橘田いずみさん

最後に、これまた意外な人選ではあるけれど、大人気声優アイドルユニット、ミルキィホームズのメンバーで、現在テレビアニメ私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!で主人公にキャスティングをされている橘田いずみさんもリングアナを経験している声優さんの一人だ。
 

 
橘田さんが選手を呼び込むアナウンサ―として上がったリングは、国内最大手のプロレス団体である新日本プロレス新日本プロレスは、毎年5月に福岡でレスリングどんたく」というビッグマッチを行なっているのだが、橘田さんは昨年のレスリングどんたくにて、第一試合と第二試合の選手のコールを担当。リングアナとしてのデビューを果たしている。
 
これは、同年に株式会社ブシロード新日本プロレスのオーナー会社となったことから生まれた"コラボ"の一つで、人気女性声優とプロレス団体による組み合わせは、ブシロードによる新体制となった新しい新日本をアニメファン、プロレスファンに印象付けたトピックの一つであった。この辺りは、総合格闘技ブームの後のプロレス界を象徴する新たな景色の一つと言えるだろう。
 
 

■まとめ

このように、団体専属のスペシャリストに加えて、"リングアナウンサー"という職種には、"声"のスペシャリストである声優さんが起用をされるケースがままある。繰り返しになってしまうけれど、リングアナウンサーという職種、ポジションは格闘技やプロレスの興業をクリエイトする上で決して欠かすことのできない大切なパーツの一つだ。
 
近年では、ブシロード新日本プロレスのように、声優文化と格闘技、プロレス文化がより密に交わるケースも増えてきている。これからも、声優さんの美声がプロレスや格闘技興業の一つの華となる、そんな場面をアニメファン、格闘技ファンという両方の目線から楽しんでいければな、と強く思う。