「ドキドキ!プリキュア」第一話冒頭のコラコラ問答と橋本真也

 

 
「あ〜コレはプロレスファンとして絶対にスルーは出来ないな」と思ったドキドキ!プリキュア第一話のとあるシークエンス。冒頭の男の子同士の喧嘩のシーン。
 
アニメの感想というよりは、完全にプロレスファン目線からの感想ではありますが、ちょっとアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

■「ドキドキ!プリキュア」のコラコラ問答

「なにコラ、タココラ!」
 
「何がコラだ、タココラ!!」

 
ドキドキ!プリキュア」第一話で、男の子同士が喧嘩をするシーン。その台詞をピックアップしてみれば、あぁ、コレはプロレス史に残る伝説の名(迷)シーン、橋本真也長州力コラコラ問答のオマージュじゃないかと。
 
コラコラ問答」とは何か?
 
物凄く簡単にいえば、それは橋本真也長州力という二人のプロレスラーによって繰り広げられた口喧嘩のことだ。時は、2003年、場所は橋本真也率いるプロレス団体、ZERO-ONEの道場。橋本が東京スポーツ誌上のインタビューで、長州力(と長州のプロレス団体「WJプロレス」)を挑発。これが、橋本vs.長州、ZERO-ONEvs.WJというプロレスラー、団体同士の抗争の着火点となり、記者会見中の橋本の元に、長州が単身乗り込んでくる。
道場に詰めかけた報道陣の間に緊張が走る。元々、橋本と長州は根深い因縁を持つ犬猿の仲。まさに、一触即発だ。そして、そんな二人によって展開されたのが件の「コラコラ問答」だ。
 
このやり取りというのが、プロレスラーらしい本当に痺れる言語感覚というか…とにかく、インパクト大で何とも魅力のある言葉の交錯なのである。ここで、全文を書き起こしてみよう。
 

長州: 何がやりたいんだ、紙面飾ってコラァ! 何がやりたいのか、ハッキリ言ってやれコラ! 噛み付きたいのか、噛み付きたくないのか、どっちなんだコラ! どっちなんだ、コラァ!!
 
橋本: …何が、コラじゃ、おっさんコラァ! バカヤロー!
 
長州: 何コラ、タココラ!
 
橋本: なんやコラ!
 
長州: 紙面を飾るなって言ってんだ、コラァ!
 
橋本: お前が言ったんだろ、コノヤロー!
 
長州: 言ったのはテメェだろうが、コラァ! 何コラ!
 
橋本: いつでもやってやるぞ! コラァ! お前、死にてえんだろ、コノヤロー!
 
長州: お前、言ったなコラ!
 
橋本: おう、言ったぞ!
 
長州: 吐いた言葉飲み込むなよ、お前!
 
橋本: それはお前もじゃ、コラ! 舐めてんなよ、コノヤロー!
 
長州: よし、分かった。…お前、今日言った言葉、飲み込むなよ。そんな吐いて…分かったな。ホントだぞ、ホントだぞ。なぁ、噛み付くんなら、シッカリ噛み付いてこいよコラ。なぁ…中途半端に言った、言わないじゃないぞお前。分かったなコラ…分かったな。
 
橋本: …お前に分かったな言われる筋合いはないんじゃコラ!
 
長州: 噛み付くんだな、コラ!
 
橋本: おっさん、舐めんなよコノヤロー!

 
…こうやって振り返ってみても、やはり圧巻である。
 
何が凄いって、大の大人二人がこんな子どもの喧嘩みたいな舌戦を本気でやっているというのが凄い。パワーや迫力といったプロレスラーとしての"格"は超一流でも、極端にマイクパフォーマンスが下手だった橋本と長州。「コラ」と「コノヤロー」「バカヤロー」という語彙力の無いプロレスラーの二大常套句がほとんどを占めるこのトラッシュトークは、"団体対抗戦"へと至る戦いのプレリュードでありながら、何とも言えない"味"と"おかしさ"を秘めている
 
「コラ」と凄んできた長州に対して、「何が、コラじゃ、おっさんコラァ!」と返す橋本も凄いし、テンションが上がりすぎて、ひたすら同じフレーズを繰り返し始める長州も凄い。「紙面を飾るなって言ってんだ」「お前が言ったんだろ」「言ったのはテメェだろうが」の辺りなんて、今になって見返しても完全に文脈がメチャクチャで意味不明である。
 
橋本と長州というプロレスラーの不器用さがモロに出た…だからこそ、愛すべき魂と言葉の交錯は、プロレスファンにとっても思い深いフレーズとして未だにプロレス史に残り続けている。
 
 

■今も記憶に残る、語り継がれる"破壊王"の姿

そんな「コラコラ問答」を繰り広げた橋本真也長州力という二人の偉大なるプロレスラー。長州は、未だに現役でプロレスを続けており、リングの上でその存在感を放ち続けているが、残念ながら橋本真也は既に亡くなってしまった。
 
そのパワーと体重をストレートに活かした打撃、そして"トンパチ"なキャラクターでプロレスファンから破壊王というアダ名で親しまれた橋本真也
 
圧倒的に強くて、でも、肝心なところで負けることも多かった破壊王。底抜けにバカでスケベで明るくて、でも、小川直也という巨大な敵に幾度も煮え湯を飲まされ、師匠であるアントニオ猪木との確執から晩年は苦悩のプロレス人生を送った破壊王。試合は抜群におもしろいのに、マイクパフォーマンスは下手だった破壊王。心からプロレスを愛し、でも、プロレスラー人生の途中で志半ばにしてこの世を去った破壊王
 
コラコラ問答」は、そんなアンビバレンツな顔を持った"破壊王"橋本真也というプロレスラーの魅力が最大限に顕現をした名場面の一つだ。
 
ドキドキ!プリキュア」で、「コラコラ問答」が引用をされた経緯はサッパリ分からない。プロデューサーがプロレスファンだったのか、脚本家さんが破壊王ファンだったのか、それとも声優さんのアドリブだったのか…そのルーツを現時点で知る術はないけれど、破壊王亡き後に、その言葉がこうして後世に残り続けているのは、かつてその試合を観てプロレスに夢中になったファンの一人として非常に嬉しく思う。
 
そういえば、破壊王といえば、少し前に、プレイステーション3のCMにその言葉が使われたこともあった。
 
<橋本真也 / 時はきた!>

 
アントニオ猪木とのタッグマッチを前にして気持ちが昂ぶる中、アナウンサーにマイクを向けられ「時はきた!」と時代錯誤な大見得を切るも、その直後に「…それだけだ」と一気にトーンダウン。思わず、タッグパートナーの蝶野正洋が失笑をする、というこれまた破壊王史に残る名(迷)場面である。
 
橋本がこの世を去って、随分と時が経つ。その言葉を引用したアニメを観たり、ゲームを買ったりしている子どもたちは、現役時代の破壊王の姿を知らない子がほとんどだろう。
 
それでも、愛すべきプロレスラー橋本真也が生前に残した言葉やプロレスラーとしての生き様は様々なメディア、表現の中で生き続けている。これからも、この稀代のプロレスラーの姿が…多くの人々の記憶の中で残り続け、そして語り継がれていくことを強く望む。