ドラマ版「めしばな刑事タチバナ」がおもしろかった! - 実写化に感じた"ソウル"

 

 
テレビ東京で放映をされていたドラマ版のめしばな刑事タチバナ最終話を視聴。原作漫画のファンであった為に、当初はその内容に漫画版とのギャップと戸惑いを感じることが多かったものの、ドラマ版オリジナルの魅力に気付いて以降は最後まで楽しく観ることができた良いドラマだった。
 
今回のエントリでは、ドラマ「めしばな刑事タチバナ」についてアレやコレやと。
 
 

■キャスティングの魅力

めしばな刑事タチバナ」の魅力の一つがそのキャスティングだろう。
 
主演の佐藤二朗さんを始め、佐藤さん演じるタチバナのライバル(?)である韮沢役に小沢仁志さん、警察署内のメンバーには温水洋一さんに河西智美さんとキャスティングもドラマの内容とマッチをしていたように思う。このメインのメンバーに梅垣義明さん、堀部圭亮さん、螢雪次朗さん、マキタスポーツさん…といった、これまた"味"のある俳優さんがゲストキャラとして登場をする。
 
個性派俳優を主役にレイアウトし、毎週、独自色のある俳優さんをゲストに招く。「タチバナ」と同じく漫画原作であり、同枠で放送をされていたドラマ孤独のグルメでも同手法のキャスティング術が使われていましたが、「タチバナ」も「孤独のグルメ」に負けず劣らず配役がエピソード毎にハマっていた。中でも最終話での内田真礼さんの登場はアニメファン的にも大きなサプライズ。普段は声の演技が中心となる声優さんの表情豊かなお芝居を観ることができたのは非常に新鮮でした。クルクル表情が変わる内田さんのチャーミングさといったら…これは「非公認戦隊アキバレンジャー」もチェックをしなければ…。
 
 

■低コストでありながら魅力的なドラマ作り

また、アレだけおもしろいドラマを作っておきながら、低コストで抑えられているであろう撮影術。そして、取調室という限られたスペースでドラマを展開する密室劇でありながらも、豊かな広がりをみせるドラマ性もピックアップをすべきポイントだろう。
 
撮影は基本的に取調室のワンセットがメインで、そこに加えて飲食店でのロケハン。時に、良い意味でチープなCGが挿入をされる。また、このCGのチープさというのが、B級グルメや大衆向けの大型飲食チェーン店をテーマにした内容に巧いことマッチをしていて、良いアクセントになっているのだ。
 
密室劇が中心の作劇は、恐らく、予算的にもドラマとしてはかなり低めに抑えることができていたのではないかと思う。それでも、食事にまつわるディープさと深い愛情を持った薀蓄話…"めしばな"のおもしろさとそれを糸口に事件を解決していく様というのが非常に魅力的で、ドラマ撮影に用いた物理的なスペース異常にスペクタクル感を視聴者にもたらすことに成功をしていた。限られたスペース、資金であれだけおもしろいものを作れたというのは、ちょっとしたミラクルだ。
 
 

■ドラマでの新しいタチバナ

さて、ここまで実写化のグッドポイントを書き連ねてきたドラマ「めしばな刑事タチバナ」ではあるけれど、原作読者的にはエントリの冒頭に書いたように番組放映スタート時には大きな戸惑いを感じることが多々あった。その最大の理由は、原作漫画に比べると主人公のタチバナが非常に有能な人物として描かれていたこと
 
漫画では、食事の話ばかりをしてほとんど仕事をしていないタチバナ(劇中で起こった事件なんかも大半が未解決の状態で終わる)。めしばなを愛する余り、刑事としての仕事が疎かになっている様がおもしろいのだけれど、ドラマ版のタチバナは原作のコミカルなキャラクターを残しつつも、めしばなで時に容疑者の心を開き、時にアリバイを崩して事件を次々に解決していく。その姿と活躍っぷりは、刑事ドラマの理想的な主人公像そのものだ。ひょうひょうとしつつも、実は切れ者佐藤二朗さん演じる新しいタチバナは…とにかくカッコ良い。
 
このアレンジは、結果的には大成功だったように思う。グルメ漫画としての"味"に加えて、刑事ドラマとしての"味"も加えるには、タチバナのキャラクターの改変は必要不可欠だったのだろう。そうして生まれた新しいタチバナのキャラクターと世界観は、原作読者である自分にも新しい魅力を与えてくれた。
 
原作漫画をドラマ化するにあたり、スタッフが加えたもう一捻り。作り手側のドラマの対する熱い思い…"ソウル"を感じさせてくれた瞬間だ。
 
 

■ドラマ版「めしばな刑事タチバナ」の"ソウル"

最後に、劇中で度々キーワードとして登場をし、クレイジーケンバンドの主題歌でも歌われている"ソウル"という言葉に注目をしてみたい。"ソウル"の意味を辞書で調べてみれば、そこには「霊魂」「魂」「情」「感情」「精神」といった意味に加えて、「中心人物」であるとか「人間」といった人物の代名詞的な意味合いも含まれている。また、アメリカ南部に住むアフリカン・アメリカンの特有の嗜好、行動を指す形容詞的としての意味もあるようで、そこから転じて郷土的な料理や調理法を指す"ソウルフード"という言葉が日本でも一般的になったようだ。
 
こうして言葉の源流を考えてみれば、成る程、「めしばな刑事タチバナ」というドラマは"ソウル"という言葉と非常に相性が良かったのだな、と強く思わされる。取調室の中で繰り広げられる登場人物たちの魂の籠っためしばなは、まさしくソウルフルであり、各地方の食文化…ソウルフードにまで思いを馳せさせるシナリオも巧い。
 
また、ドラマ版の「タチバナ」は人情噺が多いのも特徴で、この辺りも"情"としてのソウルを強く意識したドラマ作りになっていたのかな、と。中でも老刑事のドラマを描いた第10話「東京みやげ一斉捜査」は個人的にも本ドラマのベストエピソード。人間の根幹に関わる"食"と"情"の結びつきの強さ、ドラマの生まれやすさというものを改めて意識させられた話だった。
 
 

■まとめ

様々な"食"にスポットを当てながら、個性豊かなキャステイング、刑事ドラマ、人情噺…と様々なエンターテインメントで魅せてくれたドラマ版「めしばな刑事タチバナ」。原作漫画からのアレンジも、終わってみれば魅力的な味の一つに。
 
来週からは、「孤独のグルメ」の新シリーズが始まりますが、「タチバナ」もこれは是非とも第2シーズンを作っていただきたい。水曜深夜のテレビ東京は、「孤独のグルメ」と「めしばな刑事タチバナ」のローテーションで延々回していただいても一向に構わない。
 
ちなみに、福岡県出身者としては、劇中で度々、福岡の食文化の素晴らしさをピックアップしていただき、"福岡推し"をしてもらったのもありがたかったです「めしばな刑事タチバナ」。