自分なりの岡田麿里論みたいなものと、異色の岡田作品としての「スケッチブック〜full color'S〜」

 

 
先日、ニコニコ動画で行われたとらドラ!の一挙放送を観ました。
 
アニメ自体は、本放送の時点で全話を観ていた為、途中途中で退席しながらの、やや集中力の欠けた一斉視聴となりましたが、それでも改めて強く感じたのは本作のシリーズ構成、脚本家である岡田麿里さんによるシナリオのパワーです。そして、この機会に、前々から思っていた、自分なりの岡田麿里論みたいなものを書き留めておきたくなったので、その辺りについて触れつつ…岡田作品の中でも自分が愛して止まない「スケッチブック〜full color'S〜」という作品についてアレやコレやと書いてみたいと思います。
 
 

■私が思う、岡田麿里脚本の特徴

とらドラ!あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。のような岡田麿里さんの脚本作品の最大の特徴として、「強い緊張感のある人間関係」が挙げられると私は思っています。「とらドラ!」では、高校生の複雑な恋愛模様が、「あの花」では、幼い頃に事故で友人を失ったことで、心に傷を抱えた登場人物たちの姿が作品内で描かれているわけですが、その描写というのは非常にストレートなものです。
 
時には、罵り合いや殴り合いすらも描かれ、ディスコミュニケーションを抱えた登場人物たちがフルコンタクトで互いの心身をぶつけ合い、そして、そこから人間関係の再生が行われる…というのが、「とらドラ!」や「あの花」のストーリーの主軸であり、ドラマになっている。人間関係のコンフリクト(衝突)をドラマの中に持ち込むことに躊躇がない、その思い切りの良さこそが岡田脚本の特徴であり、ある面での最大の魅力と言えるのではないでしょうか。そして、そういったキャラクター同志の関係性がもたらす緊張感こそが、これらの作品のファンにあの熱狂を生み出させたのではないかと思います。
 
こうした作品がアニメファンに受け入れられ、大ヒット作となる…そして、そこから「泣けた」とか「感動した」といった感想が現在に至るまでに数多く語られているというのは、非常に興味深い現象だと思っています。そこから、今のアニメファンが求めているフィーリングが見えてくるからです。
 
激しい感情や切迫感を伴った登場人物達の人間関係、或いは"死"のような悲劇性のあるドラマ…といった、ある意味で非常に直接的でストレートな"表現"を劇中で用いる岡田さんの脚本が、今のアニメファンに支持されているというのは、やはり時代性であるとかファンの感性を切り出す一つのシンボルになりえると私は思います。
 
 

■異色の岡田作品としての「スケッチブック〜full color'S〜」

一方で、岡田さんがシリーズ構成、全話脚本を手掛けたアニメ作品の中でも、「とらドラ!」や「あの花」とはまた違った魅力と雰囲気を持った過去作も存在します。それが、冒頭で名前を挙げさせていただいた「スケッチブック〜full color'S〜」です。
 

 
このアニメには、悲劇であるとか、あるいは、前述したような強い緊張感のある人間関係といった要素は皆無です。そこにあるのは、高校の美術部員達が過ごすひたすらに穏やかで優しい日常と、そんな日々の中から生まれる深い抒情性。本作は、岡田さんが手掛けたアニメの中でも異色の作品だと私は思っています。
 
過去に、カルチャー誌「PLANET」岡田麿里さんの特集が組まれ、ロングインタビューが掲載をされたことがあるのですが、そこでも「スケッチブック〜full color'S〜」については、ほとんど…というか、全く言及がなされていませんでした。インタビューの中で頻繁にピックアップをされていたのは、やはり「とらドラ!」。世間一般で求められている岡田麿里像みたいなものと「スケッチブック〜full color'S〜」の距離感、ズレみたいなものを端的に表現するエピソードです。
 
このように岡田作品の中でも、余りクローズアップをされる機会の少ない「スケッチブック〜full color'S〜」ではありますが、本作のファンとしては是非とも未見の方にオススメをしたくなる強い魅力を持った作品でもあります。特に、「とらドラ!」や「あの花」での岡田麿里さんの仕事に惹かれた方には観ていただきたい。何故ならそこには、他の岡田作品とは異なる表現方法でもって描かれる、胸を打つような抒情性が存在をしているからです。
 
緊張感や切迫感は皆無ですが、しかし、そこには深い深いエモーションがある…それこそが、この「スケッチブック〜full color'S〜」という作品の大きな魅力の一つです。そして、そのエモーションというのは、現在確立をされている"岡田麿里"のイメージとは異なる新鮮な驚きを与えてくれると思います。
 
勿論、アニメは脚本家一人で作るものではありません。監督もいれば、原作だって存在しています。「とらドラ!」と「スケッチブック〜full color'S〜」という作品の間に存在をしている"差"は、脚本のディティール云々よりも、監督である長井龍雪さんと平池芳正さんの作風の違い、原作者の作風の違いに依るところが大きいのかもしれません。
しかしながら、本作で描かれる静かで、しかし深みを持った抒情性は、岡田さんの過去の仕事の一つとして、或いはその作家性を探るのに、もっと注目をされても良いと思います。
 
 

岡田麿里作品に見る共通のテーマ

とはいえ、「スケッチブック〜full color'S〜」には、「とらドラ!」や「あの花」のような、大多数のアニメファンに岡田作品の代表作、大ヒット作と認識をされている作品群との共通項、一貫したテーマも見出せます。
 
それは、登場人物の"成長"です。
 
所謂"日常系""空気系"四コマ漫画にカテゴライズされている原作漫画の「スケッチブック」をアニメ化する際に加えられたオリジナルのエッセンスが、最終話で描かれた主人公の"成長"です。ネタバレになってしまうので、そのデティールを解説するようなヤボなマネはここではしませんが、「スケッチブック〜full color'S〜」はそのラストで、主人公である少女、梶原空の小さな…でも、確かで力強い"成長"が描かれ、豊かな余韻と多幸感を残してドラマは幕を閉じます。
 
それが、高校生同士の恋愛ドラマであれ、幼い頃に失った友人が幽霊となって帰ってくるファンタジーであれ、温泉旅館を舞台にした群像劇であれ…あるいは、美術部員達が送る高校生活であれ…岡田作品のドラマ性の軸であり、メインに据えられているのは登場人物の"成長"であり、その表現方法に幅こそあれど、その物語は一貫した成長物語、ビルドゥングス・ロマンなのだと私は思っています。 
 
 

■まとめ

完全に好みの話になってしまうのですが、私は「とらドラ!」や「あの花」といった作品を面白い、凄い作品だと思いつつも、個人的には「スケッチブック〜full color'S〜」のエモーションにこそ強烈に惹かれてしまいます。そして、本作を…こうしたアニメ作品の脚本も書ける岡田さんの魅力も、もっと沢山の人に知っていただければ…と心から願って止みません。