「のんのんびより」第4話「夏休みがはじまった」が凄かった

 

 
のんのんびより第4話「夏休みがはじまった」が凄かった。
 
既にご覧になっている方ならそのインパクトは十分にご存知かと思いますが、「のんのんびより」というアニメ作品における一つのポイントになるエピソードだったかと思います。本編の魅力とエネルギーを一言で言えば、やはりそれは"エモーショナル"という言葉に集約をされるのかな、と。
 
そんなわけで、今回のエントリでは、この「夏休みがはじまった」についてアレやコレやと。
 
 

■「夏休みがはじまった」の構成の美しさ

「夏休みがはじまった」は、子供時代における"出会い""別れ"を描いたエピソードです。主人公である少女、れんげの元に一つの出会いが訪れ、そして、それは突然に終わりを告げる…そんな彼女の心情を夏の田舎の風景と共にセンチメンタルに描いたストーリー。そして、このエピソードを観てみると、その感傷的な空気を描く、魅せる技術が抜群に上手いことに気付かされます。
 
学校に入学して初めての夏休み。初めての終業式、初めての通知表。れんちょんにとっては、その全てが初めてで特別な夏休み。そして、この「夏休みがはじまった」ではそんな彼女の夏が、"出会い"と"別れ"の舞台として凄く印象的に描かれています。
 

 
例えば、久々となる東京住まいの姉の帰省。もう、ここから夏休みは普段は会えない人に会えるという特別なもの、スペシャルなイベントとして描かれているんですよね。前半パートのこのひかげの帰郷は、彼女が皆の前で都会風を吹かして、結果、失敗をしてしまうというコメディであると同時に、後半のれんちょんの新しい"出会い"の伏線としても機能をしている。
 

 
そして、このコメディパートであるひかげの帰郷の後に紡がれるのが、れんちょんの新しい友達、ほのかとの感傷的なストーリー。この辺りの夏休みというイベントや人物の描き方は、抜群に上手いなと思わされます。全てのパートに無駄がなく、印象的にストーリーが進んでいく。コメディパートである前半とドラマティックな後半のコントラストの美しさも見事です。とにかく、構成の美しさが光るエピソード。
 
 

■「夏休みがはじまった」の画と音

そんな構成力と併せて語っておきたいのが、画や音響による巧みな演出術です。例えば、この「夏休みがはじまった」では、ポージングや背景の反復が強調されて使われています。
 

 
ほのかと出会う前に縁側に寝転がっていたれんちょんと、ほのかとの別れを経て再び縁側で寝転ぶれんちょん。
 

 
そして、ほのかと共に巡った場所を再度、画面に映し出す。だけど、そこには、もう一緒にいた友達の姿はなく…。れんちょんの喪失感をそのまま絵にしたような無人の風景が描かれます。
 
ほのかと出会う"前"と"後"。同じポージングや同じ場所を画面の中に描くことによって、れんちょんとほのかの出会いがより印象的に観る者の心に響く。構成や画の見せ方の巧さというのは、「のんのんびより」が始まってからずっと本作に対して感じていた大きな魅力だったのですが、その一つの頂点、真髄をこのエピソードの中で見せつけられたなというのが率直な感想。
 
そんな巧みな画と同様に、音の使い方も抜群に光りますセミの鳴き声やアコースティックな楽器のアンサンブルによるBGM…等が、この夏のれんちょんの出会いと別れをセンチメンタルに彩る…。特に、れんちょんがほのかとの突然の"お別れ"を告げられるシーンの音の使い方は凄まじい。それまでバック流れていた蝉の鳴き声がフェードアウトし、感傷的なBGMが流れた後、間を置いて再度、蝉の鳴き声が聞こえ始める…。れんちょんのショックが、ここでは音を使って表現をされている。この辺りの音響も凄いセンスだな、と思わされます。
 
 

■「夏休みがはじまった」のクライマックスにおける長回し

と、ここまで拙い語り口ながらも本エピソードの魅力を書き連ねてまいりましたが、そんな私的な感性による理屈よりも如実にこの「夏休みがはじまった」の凄さを物語って余りあるのが、やはりクライマックスの脅威の長回し。これに尽きると思います。
 

 
ゆっくりとしたスピードでズームするカメラを使って、れんげのアップを写したワンカット。れんちょんの呆然とした表情から、瞬きを経て、眼と口が歪み、やがて、その眼から涙がこぼれ落ちる…迄を、アニメでは珍しい尺と速度を用いたタップリとした長回しでカメラは切り取ってみせる。れんちょんの感情と表情の変化を、ゆっくりと…でも、何よりも強烈に表現をした、この長回し。前述した音響の使い方も合わさり、この場面は本当に胸が締め付けられる程のセンチメンタルに溢れています
 
そこで観る側に伝わるのは、凄まじいエモーション
 
何が、こんなにエモーショナルかって、やっぱり、このれんちょんのいじらしさですよね。本エピソードのれんちょんの姿っていうのは「いじらしさ」という言葉に集約をされるのかなぁ、と。独特な感性で周囲や人間関係を捉えているれんちょん…端的に言ってしまえば"ちょっと不思議な娘"なんですが、そんな彼女が見せた子供らしい姿、そして涙ときたら…。
 
そして、そんな彼女の姿を観る者に強いインパクトでもって伝えた長回し。個人的には、その思い切った演出に心の底から「凄い!」「アニメってこんなことも出来るんだ!」と鮮烈な驚きを覚えたものです。「のんのんびより」というアニメが見せてくれた最上級の…とびっきりのエモーション。…本当に素晴らしかったと思います…。
 
 

■まとめ

のんのんびより」は本当におもしろい、凄いアニメだなと思いながら、毎週楽しんでみているんですが、現時点でこの第4話は白眉の出来というか、本当に凄まじいパワーを感じさせてくれました。これで、また全体の3分の1…。コメディ感とエモーションを同時に描いてみせる「のんのんびより」には、自分が長らく"日常系アニメ"に求めていたものが全て詰まっているんですよね、ホントに。
 
 

■おまけ

この第4話を観て、「お祖母ちゃんの家にやってきた少女」「夏休み」「ちょっと変わった娘」そして「エモーション」というモチーフから、連想をしたのが「のんのんびより」と同じく大好きなこのバンドの、やっぱり大好きなこのナンバー。こちらは、少年の少女に対する「小さな恋のメロディー」を描いた歌ですが、この胸と涙腺を直撃するエモーショナルさと風景描写は凄く両者に近しいものを感じますね。
 


 

Started on a summer Sunday,
the pink dress on the setting sun
You were going to grandma's house,
I was too scared to come
 
Silly girl, I'm beggin' you
Tell me all the things I want to hear
Silly girl, I'm in love with you
 
 
始まりはある夏の日曜日
ピンク色のドレスが夕陽に映えていた
君はお祖母ちゃんの家に来ていたんだ
僕は人見知りで君に近付けなかった
 
ちょっと不思議な娘 僕がお願いをすれば
僕が聞きたいことを全部教えてくれた
ちょっと不思議な娘 僕は君に恋をしていたんだ

 
…すんごい適当な訳でゴメンなさい…。英語苦手なもので…。でも、良い歌ですよね、本当に。
 
 
 
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■"萌え"アニメならぬ"エモ"アニメ - エモーショナルなアニメ作品アレコレ
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