アニメタイトルの枕詞について考えてみる。

 
最近のアニメのタイトルって、ベタな名前が減ってきていると思いませんか?
 
ここでいう「ベタ」っていうのは、アニメタイトルの王道のフォーマット、「機動戦士ガンダム」であるとか「美少女戦士セーラームーン」とか「新世紀エヴァンゲリオン」のように、「漢字の造語」+「劇中に登場する固有名前(主人公やロボットの名前など)」という組み合わせのことです。アレですよ、アレ。あのフォーマット。
 
「機動戦士」とか「新世紀」なんて大袈裟な修飾語(?)を付けなくても、「ガンダム」「エヴァンゲリオン」でアニメのタイトルとしては十分であるハズなのに、いってしまえば余分な造語をアタマに付ける。
その造語も単独では意味が通らないんだけど、アタマに置くことで、全体の響きがよくなったり、ある種の情感みたいなものが生まれたりするわけです。
 
あの辺の造語っていうのは、まさに和歌における枕詞のようなものなのだと思うのですよ。
 
 

■ところで、海外ではこういうタイトル、どう訳してるの?

 
本題に入る前に、
海外でも人気のある日本のアニメですが、こういう枕詞みたいな意味の通らない言葉ってどう訳してあるのかしらん? なんて気になって、まずは、wikipediaamazonここなんかで、アメリカ版のタイトルをいくつか調べてみました。
 
機動戦士ガンダム」 → 「Mobile Suit Gundam」
機動警察パトレイバー」 → 「Mobile Police Patlabor」
勇者王ガオガイガー」 →  「The King of Braves GaoGaiGar」
撲殺天使ドクロちゃん」 → 「Bludgeoning Angel Dokuro-chan」
                (棍棒で打ちつける天使ドクロちゃん
機動戦艦ナデシコ」 → 「Martian Successor Nadesico」
               (直訳すると、「火星を継ぐものナデシコ」?)
 
といった具合に、なんとかニュアンスや作風が伝わるように英訳をしている模様です。
変訳にも、海外のアニメスタッフの苦労の跡がうかがえますね^^;*1
 
なかには、
 
天元突破グレンラガン」 → 「Gurren Lagann」
 
のように、枕詞がバッサリとカットになってしまった作品もあるようです。う〜ん、何だか寂しい…シックリこない……。
黒澤明の「用心棒」を「ラストマン・スタンディング」という訳が分からないタイトルにした上に、何故か三船敏郎の役どころがブルース・ウィリスになってたりするアレンジ下手大国アメリ*2ですが、そこは頑張ってくれよ! と応援せずにはいられません。
 

 

■近年のアニメのタイトルを見てみる。

  
で、その日本アニメのお家芸といえる枕詞ですが、今年放送されたアニメでは何だか少なかった気がします。
参考に、今年放送されたアニメの一覧を。
 
Wikipedia:2008年のテレビアニメ
 
「機動戦士」「美少女戦士」といった枕詞がついたアニメは、「天体戦士サンレッド」「絶対可憐チルドレン」、シリーズ誕生以来の伝統を受け継ぐ「機動戦士ガンダム00」くらいですかね。
サンレッド絶チルは、戦隊モノ、特撮ヒーローのパロディー(絶チルはアニメ版だと特にその傾向が顕著です)作品ですので、「敢えて」王道的なタイトルの付け方をしたのでしょう。
今年はマクロスシリーズの新作「マクロスF」が放送されましたが、そういえばマクロスシリーズも、途中から「超時空要塞」って枕詞を外しちゃったんですよね。何でだろ? やっぱり、時代に合わなくなっちゃったんでしょうか…?
あとは玩具の名前が頭に付いちゃっているけれど、キッズアニメの「少年突破バシン」ですか。
 
昨年は、
 

天元突破グレンラガン 」、「魔人探偵脳噛ネウロ」(この二本は、2006年からの放送)、「英國戀物語エマ」、「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」、「月面兎兵器ミーナ」、「機動戦士ガンダム00」(一期)、「鋼鉄神ジーグ」、「獣装機攻ダンクーガノヴァ」、「神曲奏界ポリフォニカ」、「素敵探偵☆ラビリンス」、「賭博黙示録カイジ」、「魔法少女リリカルなのはStrikerS

 
といった具合に、リメイク作や続編もありますが、タイトルに「漢字の造語+固有名詞」というテンプレートを用いた作品が、こんなにあります。
 
ちなみに、エヴァンゲリオンの社会的な大ヒットによって、アニメブームの先駆けとなった1995年は、
 

新世紀エヴァンゲリオン」(94年からの放送)、「愛天使伝説ウェディングピーチ」、「黄金勇者ゴルドラン」、「鬼神童子ZENKI」、「恐竜冒険記ジュラトリッパー」、「空想科学世界ガリバーボーイ」、「獣戦士ガルキーバ」、「十二戦支 爆烈エトレンジャー」、「新機動戦記ガンダムW」、「闘魔鬼神伝ONI」、「美少女戦士セーラームーンSuperS

 
といった作品があります。
深夜放送やCS放送などで数多くのアニメが作られる現在とは違い、製作される本数が限られた中で、これだけの作品があるわけですから、相当な割合ですね。
 
 

■アニメタイトルの傾向を考えてみる。

 
こうして見てみると、近年の傾向として「天元突破グレンラガン 」「魔法少女リリカルなのは」のように、王道のロボットアニメや魔法少女もの、特撮作品へのオマージュ、あるいは「天体戦士サンレッド」のように、パロディーの象徴として枕詞を使用するというケースが多いように思います。
 
こうした試みは「グレンラガン」に顕著なように、80、90年代的な空気を作品にまとわせる効果もあるようです。
 
反対に、SFやロボットアニメなど、アニメのモチーフとしては「王道」を扱いながらも、新しい作風を打ち出している作品、例えば「ストライクウィッチーズ」や「鉄のラインバレル」といったアニメでは、こうした様式美的なタイトルの付け方は忌避されているようですね。
 
ストライクウィッチーズ」なんて、もしも90年代に作られていたならば、「機航少女戦記」とか「魔法遊撃隊」とか、あるいは「下半身下着露出少女隊」みたいな、いかにもな枕詞を付けられていたのではないでしょうか? パンツじゃないから恥ずかしくないもん!
 
もちろん、子どもの名前が時代に沿って変遷していくように(「〜子」という名前の女の子が、ある時代を境に減少していく、といった具合に)、アニメや漫画、ラノベといった表現分野におけるタイトル自体も、その時々に応じて流行り廃りがあるんだと思います。
今だと、「みなみけ」、「らき☆すた」、「ぱにぽに」、「かんなぎ」、「かのこん」、「ヒャッコ」みたいに、コメディーは、ひらがな、カタカナ四文字のタイトルが非常に目につきますし、
月姫」以来でしょうか? 「屍姫」、「黒塚」、「喰霊」のように、退魔物、伝奇物は漢字ニ文字のタイトルが好まれているように思います。
 
言葉や語感の良し悪しは、時代に合わせて変化をしていくものだけれど、こうしたところにも時代の流れを感じることができますね。
 
まぁ、タイトルなんてどうでもよくて、中身がおもしろければそれでいいじゃん! という方もいらっしゃるでしょうが、個人的に「機動戦士」みたいな枕詞のセンスは、日本のアニメの伝統芸のようなものだと思っていますから、これから先、なくなって欲しくないですね。
 
「『天元突破』って何だろう?」と若干疑問に思いつつも、その響きに妙に胸が高鳴る「アノ感じ」。
  
あの胸の高鳴りを、これからアニメのファンになる人たちにも是非味わってもらいたいのですよ。
 
 
あ、あと、作品が海外に渡った時に、海外のスタッフが「『天元突破』って何だよ! 訳しづれーよ! Holly S○it!」ってなるのが凄くおもしろいので、その手の枕詞を付ける時は、なるべく小難しい漢字を並べ立てて、かつ独創性に満ちた造語を作っていただきたいと思います。
 
 
 
 

*1:ただタイトルの訳し方にも、色々なバリエーションがあるようで、例えば「陸上防衛隊まおちゃん」はWikipediaでは「Ground Defense Force! Mao-chan」あるいは「Earth Defender! Mao-chan」と英訳されていますが、amazonで英訳版コミックのタイトルを見ると、「Mao-chan」というタイトルになっています。放送される地域や、メディア、輸入元などによってタイトルが変わっているんでしょうか?

*2:洋楽や洋画をムチャクチャに変訳する日本人のセンスよりはマシか…。