四コマ漫画の個性について、色々と考えてみる。

 
四コマ漫画って凄いな、と思うのです。
 
漫画の中でも、割と原始的なモノにも関わらず、これだけ多種多様な漫画雑誌や単行本が溢れ、様々な価値観の下、漫画の表現の幅が広がっている時代にも関わらず、未だに漫画の一ジャンルとして、確かな地位を築いているのが凄いし、
更に、90年代の「あずまんが大王」の登場以降、「萌え四コマ」という形で、新たに独自の進化を遂げていったというのも、凄い!
 
あの四コマという空間には、「限られた空間の中に、多種の表現を取り入れ、有限の中に無限を作り出す」という、茶室であるとか、日本庭園であるとか、その辺りの日本人的な感性を感じる…といったら、大袈裟ですが(たぶん、源流は欧米の新聞漫画だろうし)、四つのコマという、漫画としては小さな表現のフィールドの中に、いわゆる「起・承・転・結」という漫画の最も大事な要素が詰まっているというのも、なんとも深い話です。
 
ところで、最近漫画好きの間で、美少女漫画家の海野螢先生の漫画におけるコマ割りが凄い! っていうのが話題になっていて、僕も元のエントリーを興味深く読ませていただいたんですけど、四コマって限られた空間の中で勝負をしているせいか、こうした「コマ割りを楽しむ」みたいな漫画のおもしろさからは、離れた位置にありますよね。
 
四コマ漫画は中身に、笑いや萌え、ナンセンスなギャグや不条理、政治風刺やブラック・ユーモアといった、漫画としての表現を自由自在に持ち込むことはできても、「コマが四つ」という制約があるため、デザインだとかの外見のおもしろさを追求するには向いていないジャンルです。
 
漫画雑誌の新人作家募集の要項とか見てみても、四コマの募集は「タイトルの枠は何センチ、コマの大きさは何センチ」みたいに、キッチリとスタイルが決められていることが多いですもんね。
 
<結城一心 結城心一 / ちろちゃん>

 
こんな感じで、決められたスタイル、枠組みの中でネタを展開していくのが、四コマ漫画という表現分野の特徴だと思うんですけど、それでも、各作家さんによって、特徴や個性はやっぱり出てくるわけで……。
今手元に一迅社の「まんがパレット」12月号があるんですけど、その辺りに注目して見てみると、結構興味深いものが見えてきます。

 
 

■タイトルの付け方

まず、作家さんによって、個性の違いがハッキリ出てくるのが、タイトルの付け方ですよね。
 
1.四つのコマとは別に枠があり、その中にタイトル

<珠月まや / ニャンコとカイザー>
 
2.周囲に枠がなく、タイトルのみ

<神堂あらし / すもも☆あんみつ>
 
3.タイトルなし

<麿神映一郎 / 氷室の天地>
 
一番スタンダードなのは、1.のパターンでしょうか?
四コマ漫画の中には、タイトルも含めてオチになるような場合もありますので、作品によっては、タイトルはいわば5コマ目のコマと言っても過言ではないくらい重要だったりします。
 
少し変則的なのが、2.のパターンで、タイトルに枠線がないぶん、漫画のコマを大きく描くことができます。
画力で勝負している作家さんは、このパターンを使用している場合が多い気がします。
 
3.のパターンだと、一本一本にタイトルが付いていないせいで、また見せ方が変わってきます。一本毎にオチをつけながらも、全体を一つのテーマやイベントで区切って、ストーリーものの漫画のような見せ方をしている作品に、このパターンは多いようです。
 
で、よく見てみると、タイトルの文字のフォントって、掲載紙が同じでも作品によってバラバラなんですね。
 

 
僕は、基本メンド臭がりで、タイトルは飛ばして読むことが多いので、注意して見てみて初めて、気が付きましたよ。
 
 

■枠線

コマを囲む枠線も、作家さんによって色々で、
 
細めの枠線

<桜太助 / 毛玉日和>
 
太い枠線

<あどべんちゃら / ドリーム百合姉>
 
手書きの枠線

<内村かなめ / もっと!委員長>
 
こうしてみると、枠線の太さって、結構個性が出ますよね。
枠線の引き方も、アナログかデジタル(もしくは、四コマ専用の原稿用紙とか)のどちらを選択するかによって、大きく印象が変わってくるようです。
この辺は、もう作者さんのセンスとか、好き嫌いの違いによるものですよね。
 
タイトルの付け方、フォントや枠線の書き方など。
これらの組合せによって、同じ型式で描かれているはずの四コマに様々なバリエーションが生まれ、絵柄やギャグセンスとは別の階層で、作者の個性が出るようです。
 
四コマっていうフォーマットは一緒でも、作品毎に印象が異なって見えるのは、こうした細かな差異によるものなのでしょう。
 
 

■変則的なコマの使い方

「萌え四コマ」っていうのは、キャラクターの魅力が、そのまま作品の魅力になったりするわけで、キャラクター(大抵の場合、美少女)を制約の中で、如何に見せるか? というのは、新聞四コマのような従来の四コマになかった価値観だと思います。
 
そこから生まれたのが、2つのコマをブチ抜いて、キャラクターを大きく見せるというやり方です。
 

<一葵さやか / コスちゅ!>
 
こうした変則的なコマ使いも、90年代以降の新しい四コマの特徴ではないかな、と。
で、こういう変則的なコマの使い方が一番上手いのは、現在「月刊少年マガジンZ」で、「ここなつ!」を連載中の女流漫画家、真伊東先生ではないかな、と個人的に思っています。
 

<真伊東 / ここなつ!>
 
真伊東先生が描く四コマ漫画の特徴は、見ての通り四つのコマの大きさがバラバラなことです。
 
 

 
また、枠線をはみ出してキャラクターを大きく描くことが多いのも特徴。
こうした突出した個性は、単行本化されている「ぱペット・レボリューション」や「ひるまサン。」といった作品でも見ることができます。
ひるまサン。 (バンブー・コミックス)

ひるまサン。 (バンブー・コミックス)

 
いや〜、僕は真伊東先生の四コマが大好きで。
 
マガジンZで初めて「ぱペット・レボリューション」を読んだ時に、その四コマ漫画と、ストーリー漫画の垣根を越えたような作風と斬新な表現方法に、
 
「コレは凄い! これからの四コマは、こうなっていくに違いない!」
 
って思ってたんですけど、その後出てきた四コマ誌(「きらら」「パレット」)では、こうした表現方法は見ることができなかったんですよね…。
やはりマガジンZで、新しいタイプの四コマを連載していたコンノトヒロ先生は、シュールでナンセンスなギャグ表現とは反対に、四つのコマの使い方は、比較的正攻法だったし…。
 
とはいえ、こういう表現も「アリ」と思わせてくれる、シンプルでありながらも、奥深い四コマ漫画というジャンルが僕は大好きですね。
 
 

■四コマは、やはり奥が深い!

今回、改めて色々な四コマ漫画を見て思ったのは、同じフォーマットの中でも、やっぱり作者の個性によって、ハッキリとした違いが出てくるんだな、ということ。
繰り返しになってしまいますが、やはり、四コマ漫画というジャンルは奥が深いです!