ギャグ漫画で新キャラを登場させるタイミングって難しいよね
漫画雑誌は、「週刊少年サンデー」「週刊少年チャンピオン」といったメジャー誌が大好きなんですが、80年代のSF、サブカルの雰囲気が漂う「comicリュウ」も毎月愛読しております。
その中で、山坂健先生の「晴晴劇場」って四コマ漫画があるんですが、それがもう毎号毎号楽しみで。
「晴晴劇場」は、女子高生の学校生活を描いた四コマ漫画で、「あずまんが大王」以降の、何気ない日常の中に存在する笑いを見つけてサルベージする、っていうタイプの漫画なんですけど、トーンを使わず、ペンとインクだけでガリガリ描いてあるタッチと、ちょっと毒ありの鋭いギャグセンスがもろに自分のツボを押してきまして、毎回ゲハゲハ笑わせてもらっています。
で、今回も主人公達のゆるい日常で笑わせてもらおう、と思いながら「リュウ」を買ったんですけど、今月の「晴晴劇場」を見てみたら、新キャラが出てきてて驚きました!
いや、この娘が、今後も漫画に登場するかどうかは、まだ分からないんですけど、ちょっと笑いの方向が今までとは違ったキャラクターだったので、正直ビックリしましたよ。
そこで、思ったんですけど、ギャグ漫画で新しいキャラクターを登場させるのって、実は凄く難しいですよね。
上手くいけば、作品の笑いのレベルを一気に高めることができるけれど、失敗した時は、その反動も大きいというか…。
自分の中で、その難しさや違和感の理由っていうのを考えてみたんですけど、以下のような理由が挙げられるのではないかな、と思うのです。
■登場キャラクターの増加による、笑いのインフレ
ギャグ漫画っていうジャンルの特性上、新キャラっていうのは、ボケキャラとして登場するのがほとんどだと思います。ギャグ漫画で、新しいキャラクターが登場するということは、既存のキャラクターによるボケ、ツッコミのリズムのマンネリ化を防ぐ効果があるわけで、新しいキャラクターには、エキセントリックな言動だとか、身体的な特徴だとかの、既存のボケキャラ以上の笑いの特性が必要になります。
で、そうなった場合どうなるかというと、今までボケ役だったキャラクターが、新しく入ってきた笑い、ギャグの要素に対してツッコミ役に回らざるをえなくなる、という事態が起こってきます。
例えば、僕はジャンプで連載していた「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」が大好きだったんですけど、あの漫画も、レギュラーキャラが増えたことで、最初はボケキャラだったマチャ彦やキャシャリンが、連載が進んで登場人物が増えるに従って、ツッコミ役になっていく、という流れになっていきます。で、僕はそこに凄く違和感を感じてたんですよ。
「ドラゴンボール」辺りのバトル漫画で、強さや戦闘力のインフレがネタにされることがよくありますが、ギャグ漫画の場合は、登場キャラが増えることによって「笑いのインフレ」が起きる危険性があるんですよね。
で、最悪の場合は、本来持っていた笑いの要素がインフレによって通用しなくなっちゃったキャラが漫画から消えちゃうことすらあります。
これも例を挙げれば、「マガジンZ」で連載されていた、コンノトヒロ先生の「ぷぎゅる」というナンセンスな萌え四コマがありまして、
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劇中で「ナチ子」っていうイカのキャラクターが出てくるんですけど、チャンピオンで「侵略!イカ娘」の連載が始まる5年以上前に、「イカ」を笑いの要素に取り入れた、素晴らしいキャラクターだったにも関わらず、「ぷぎゅる」という漫画が、キャラクターの登場するサイクルが比較的早い漫画だったために、あっと言う間に出番が無くなってしまったんです。イカだけに干されてしまった*1、と。そういう極端な例もあります。
この笑いのインフレっていうのは、「ボボボーボ・ボーボボ」が非常に分かりやす例だと思います。
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「ボーボボ」は、「週刊少年ジャンプ」的なバトル漫画のノリを、ギャグ漫画としてやってしまうという作品で、更にキャラクター数が非常に多い漫画なので、そういった笑いのインフレと、バトルものとしての強さのインフレが並行して進行しているんですよ。だから、読んでみると、視覚的にとても分かりやすいんです。
■人間関係の変化
あと、90年代後半に「萌え」の概念が登場してからのギャグ漫画は、さらに難しい!
「苺ましまろ」や「ひだまりスケッチ」といったモダンな萌えギャグ漫画は、多くの場合、主人公を中心とした4、5人のレギュラーキャラを中心に、笑いのローテーションが組めるような構成にしてあります。エピソードによって、各キャラクターにスポットライトが当たるように、上手く作られている。
つまり、ある程度、閉じられた空間、人間関係の中で物語は進んでいくわけです。そして、萌え漫画で描かれる笑いというのは、そうした閉じた人間関係の中での要素によるところが大きいと思います。
では、そうした漫画で、新キャラクターが登場した場合、どうなるか?
当然、今までの人間関係に何らかの影響が出てくるわけです。そして、そうした変化をファンに納得させるのは、とても難しい。
「苺ましまろ」で言えば、千佳、茉莉、伸恵、アナ、美羽の関係の中に誰かが割り込んでくるというのは、ちょっと想像が付きにくいですし、ファンとしても余り歓迎したくはないことではないでしょうか?
それというのも、そうした作品では、密室的な空間、時間の中にキャラクターが存在しているために、そこから生まれるキャラクター同士の甘美な人間関係に、余計なノイズを入れないでくれ!というアレルギー反応が発生するからではないでしょうか。
赤塚不二雄の漫画のように、ゲストキャラがエピソードの度に登場するような古き良きギャグ漫画の傾向は、特定のキャラクターの魅力を掘り下げる萌え漫画では、余り見られないように思います。
萌え漫画では、ストーリーの主軸となる人間関係が重要視されるために、その中に新しいキャラクターを入れ込むことは、とても難しい。
漫画家さんも、凄く神経を使う部分ではないかと思います。
■漫画内の作風、芸風の変化
これが一番ファンとしてきついかもしれない。
新キャラクターの登場によって、今までの作風やギャグの方向性が、ガラリと変化をしてしまう場合です。
本来は飛び道具的に出したゲストキャラが思いのほか受けがよく、そのまま準主役級のキャラクターになってしまった場合なんかに時々こういうことがありますよね。「週刊少年サンデー」のような少年漫画雑誌で連載されているギャグ漫画で、比較的目にすることが多いような気します。
お陰で漫画の人気が出ることもあれば、昔からのファンは結構複雑な思いだったり…。
実は、僕が今回「晴晴劇場」を読んで、まっさきに感じた不安がコレなんですよね〜。いや、今回も充分おもしろかったんですけど、今までとちょっと笑いの方向性が違ってたんだもん。
コレは作者である山坂健先生の笑いのセンスの幅によるトコロが大きいのでしょうから、むしろ「へ〜、こんな笑いもできるんだぁ」みたいな感じで感心するところなんでしょうが、う〜ん……複雑…。
■理想的な新キャラクターの登場方法とは?
以上3つが、自分なりに考えて出した「ギャグ漫画で新キャラを出す難しさ」なんですけど、それを考えると、あずまきよひこ先生は、その辺り本当に上手く考えて、新しいキャラクターを出しているな、と思うのです。例えば、「あずまんが大王」で初期のレギュラーメンバーの中に途中から参加してくる神楽というキャラクターがいますが、彼女は「進級」という漫画内での具体的な時間経過と共にレギュラー化(と同時に、かおりんはレギュラー落ち)を果たすんですよね。
この具体的な時間経過っていうのがあるおかげで、その登場に説得力を持たせ、従来の人間関係に余り違和感を感じさせることなく、スンナリ入ることができたと思うんですよ。
また、「あずまんが大王」の名物キャラである、ちよ父もやはりよく考えられていて、本来の時間、空間から開放された場所(榊さんと大坂の夢の中)で登場するんですよね。
なんせ、夢、妄想の中の登場人物(?)なので、劇中でのキャラクターの人間関係に影響を与えることもなければ、ノイズや軋轢を派生させることもない。
また、ちよ父といえば、デヴィッド・リンチの映画ばりに、延々とドラッグのバッド・トリップを映像で見せられているようなアニメ版のインパクトが絶大ですが、ああいう笑いっていうのは、それまでの「あずまんが大王」の作風では絶対できなかったと思うんです。
が、これまた夢の中の話で、本来のストーリーの筋とは離れた位置から笑いをとれるため、思い切りシュールでナンセンスなことができた。
結果的に、ちよ父の登場って、「あずまんが大王」の芸風を大きく広げたにも関わらず、従来のファンも、そのそのギャグセンスのふり幅の大きさを、スムーズに受け入れることができたと思うんです。
また、現在連載中の「よつばと!」では、登場人物達の人間関係に、広く幅を持たせるように描いているように感じます。そして、主人公に非常に素直で快活な少女をもってきたことによって、新キャラが登場しても、スムーズにコミュニケーションができるようになっています。
みうらのような主人公にとっての「友達の友達」が、スンナリとストーリーに入ってこれるところが、「とつばと!」というギャグ漫画の凄いところだと個人的に思っています。
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う〜ん、こうして考えてみると、漫画における笑いの場合って、舞台劇なんかと比べて自由度が高いぶん、ただ単におもしろさや笑いのセンスだけじゃなくて、その他に様々な要素についての思慮が必要なようですね。
毎回毎回、おもしろいギャグ漫画を描いてる漫画家さんのセンスと努力には、本当に頭が下がります。
*1:なんか、ギャグ漫画について色々語っていますが、僕自身の笑いのレベルなんてこんなもんです。