アニメ版「大正野球娘。」の物語冒頭で、「東京節」が歌われた理由を考える

 
今期から始まったテレビアニメ「大正野球娘。」の第一話「男子がすなるという、あれ」を見ました。
感想を一言で言えば…。
 
いや、もう本当に素晴らしかったです!
 
とにかく素晴らしかった。そして、ビックリしました。
 
というのも、「大正」なんて元号を作品名に掲げているわけですから、私としては当然「大正時代の風俗や風景を、どう作品内で見せてくれるのか?」という部分に期待をして見ていたわけです。
「大正浪漫」なんて言葉があるくらい、この時代には日本人の心を惹きつける特別な魅力があります。
 
西洋文化が一気に流入し、芸術や文化が大いに花開いた時代。そんな「大正」を描いた素晴らしい漫画や映画作品は多数存在します。
例えば、大和和紀先生による少女漫画の傑作「はいからさんが通る」や、幻想的な映像で妖しく艶やかな「大正の美」がスクリーンで繰り広げられる、鈴木清順監督の「大正浪漫三部作」のような映画作品などなど。
 


 
このような古き良き大正浪漫を描いた作品の美しい風景に触れている内に、「大正」という時代は私たちの間で美化され、日本人の美意識の中で特別な存在になっています。それ故に「大正」を漫画やアニメの作品内で描くことは、なかなかにハードルが高い行為であるように思うのです。
 
果して、「大正野球娘。」はその辺りをどうクリアしていくのか? 「大正」の風景をどう描き、どう私たちに届けてくれるのか? 期待と不安が入り混じる中で見た第一話だったのですが…やってくれましたね。彼女たちは、いきなりやってくれましたよ!
 
 

大正野球娘。冒頭で流れた「東京節」と帝都の名物

大正野球娘。」の第一話は、なんと…歌で幕を開けました。
 
両親にセーラー服を買ってもらいはしゃぐ主人公の少女、小梅。そんな彼女が歌う大正時代の流行歌「東京節」■参考動画)に合わせて、歌詞に出てくる帝劇、警視庁、東京駅、浅草…といった帝都・東京の名所が次々に紹介をされていきます。
 


<大正野球娘。第一話「男子がすなるという、あれ」より>
 
また、サビの部分では小梅の背景に大正時代の歴史がテロップで流れ、電車やサーベルを持ったお巡りさんといった如何にも大正時代らしいアイテムが登場するなど、見る人に「大正」という劇中の時代性を強烈にアピールする作りになっているのです。
 
ちなみに、何で私が「東京節」なんて古い歌を知っているかというと、たまたま自分が好きなロックバンドのソウル・フラワー・モノノケ・サミットがアルバムでカヴァーをしていたからです。
アジール・チンドン

アジール・チンドン

ソウル・フラワーのチンドン・スタイルな「東京節」も相当カッコいい(■参考動画)のですが、アニメ版は曲のアレンジと主役の小梅を演じる伊藤かな恵さんの歌声がサビのリフレインにマッチしていて、とても可愛らしい曲に仕上がっています。
 
劇中で小梅が歌っていた「東京節」の歌詞は以下の通りです。(※こちらのHPに掲載されている歌詞を参考にさせていただきました。)
 

東京の中枢は 丸の内
日比谷公園 両議院
粋な構えの 帝劇に
いかめし館は 警視庁
諸官省ズラリ 馬場先門
海上ビルディング 東京駅
ポッポと出る汽車 どこへ行く
ラメチャンタラ ギッチョンチョンで
パイノパイノパイ
パリコとパナナで
フライ フライ フライ
 
東京で繁華な 浅草は
雷門 仲見世 浅草寺
鳩ポッポに豆売る お婆さん
活動 十二階 花屋敷
寿司 おこし 牛 天麩羅
なんだとコンチキショウで お巡りさん
スリに喧嘩に カッパライ
ラメチャンタラ ギッチョンチョンで
パイノパイノパイ
パリコとパナナで
フライ フライ フライ

 
ん〜何と言うかコレ以上、「大正」「帝都」を感じさせてくれる歌もないんじゃないかっていうくらいに、よくできた曲ですよね。ちなみに、2番の一節は原曲だと「スリに乞食にカッパライ…」という歌詞なのですが、アニメでは「スリに喧嘩にカッパライ…」に変更されています。
 
 

■「東京節」で大正時代にタイムスリップ!

アニメが始まってすぐに視聴者にドカンとインパクトを与えたこの演出。個人的におもしろい試みだと思いました。
また、巧みなのが実はコレ、全ては小梅が見ている夢なんですね。夢オチ。
本編とは異なる「夢」の話なので、「大正」を描くのに多少やり過ぎても決して物語は揺るがない。
 
主人公が夢から覚めたところで日常パートが始まり、主人公たちが野球を始めようとする姿が描かれます。
劇中でも、路面電車や洋食屋さん、和装と洋装が折衷した女学生の服装といった、大正時代の風俗が配置されているのですが、冒頭の「『東京節』に合わせての名所巡り」のような詰め込み感はなく、決して過剰な感じはしません。
 
例えば、背景を凄く凝ってみるとか、アイテムやキーワードを作中に散りばめることで、作品の時代性を見る側に伝えるという手法もアリだと思うのですが、「大正野球娘。」はその辺りの描き方は、割かしアッサリしています。
むしろ第一話を見た限りでは、キャラクターの可愛らしさと彼女たちの野球に対するドラマに力を入れて物語を描こうとしているように思うのです。
 
では、物語の中で、どうやって「大正」という時代を描くか?
 
そこで、盛り込まれたのが物語冒頭の「東京節」と「名所巡り」のシークエンスだったと思うのです。
東京節の中で歌われている帝都の名物、大正時代の歴史、洋服やセーラー服、路面電車にサーベルといったモダニズムを象徴するアイテムの数々…。
これらを物語の冒頭に一気に見せることにより、恐らく見る側の意識を「大正浪漫」の時代へと、一気にタイムスリップさせようとしたのです。
夏のあらし!」でも、昭和の歌謡曲を劇中やタイトルに盛り込むことによって、「昭和」という時代性を物語に託していましたが、「大正野球娘。」も同じ試みを行おうとしたのではないでしょうか?
 
おかげで私は、この冒頭の「東京節」一発で一気に物語の中で描かれる「大正時代」にトリップすることができました。
この試みは本当にビックリしましたし、とてもおもしろいと思いましたね。大正を描くのに、「そう、来たか!」と。ちなみに、第一話の脚本とコンテを担当されたのは、本作の監督と構成を務めていらっしゃる池端隆史さん。いきなり、物語の冒頭で「ああいう見せ方」をできる作り手側のセンスを強く感じました。
 
本当に、「大正野球娘。」の第一話の試みは凄かった…いや、ここは劇中での時代性に合わせて「ハイカラだった!」という言葉で、今回の感想を締めたいと思います。
 
 
 
大正野球娘。 (1) (リュウコミックス)

大正野球娘。 (1) (リュウコミックス)

大正野球娘。」は「COMICリュウ」で連載されている漫画版は好きで読んでたんですよ。
で、漫画版のタッチが凄く好みだったのでアニメ版のキャラを見た時は、正直ちょっと引いちゃったんですね(と言っても、アニメ版の方が原作小説の挿絵にはイメージが近いのだけど…)。でも、アニメもとてもおもしろかったので、一先ず安心です(笑)。
漫画版は、割と史実を絡めて描いたりしてるんですよね。その辺も、アニメ版ではどうなるのか楽しみです。「大正野球娘。」は、時代性に注目して見ていきたいですね。