地域密着型漫画の魅力 - 猪原賽・横島一「くまがヤン」

 
かつて、「週刊少年チャンピオン」で一部読者からの熱狂的支持を受けながらも、惜しくも連載打ち切りとなってしまった漢らしさ満点のバトル漫画「悪徒 -ACT-」
その原作者・作画コンビ、猪原賽横島一の両先生による新作漫画「くまがヤン」が現在発売中の「漫'sプレイボーイ」に掲載されています。
 
私も「悪徒 -ACT-」の打ち切りを未だに無念に思っているファンの一人なので、このお二方のタッグによる漫画を再び読めたというのはなかなかに感慨深いものがありました。しかも、期待以上におもしろかったので思わず嬉しい悲鳴です。
 
本作に付けられたキャッチコピーは「日本一アツい! 記録的"地域限定"ヤンキー漫画誕生!!」
埼玉県熊谷市に暮らす好漢ヤンキー三人組。そのリーダー格である雁狩健吉(かりがりけんきち)、通称「ガリガリ」は赤城乳業氷菓ガリガリくん」を連日大量に買い込み続けます。何故に、彼はそこまで氷菓に情熱を燃やすのか? 果して彼の目的は何なのか?
 

<慢'sプレイボーイ 2009.9.20 (集英社) P.119>
 
男の子の熱い思い入れと、勝手な思い込みと、甘酸っぱい純情がない交ぜになった青春劇に、猪原賽横島一先生のヤンキーフレイバーが加わることで、何ともいえない魅力を持った作品に仕上がっています。
今後、連載(?)の形態がどうなるかは分かりませんが、次も読みたいと思わせてくれる漫画です。ドラリオン」の次は「くまがヤン」だと言っても過言はないでしょう。
 
 

■地域密着型の魅力とは?

前述のように、「くまがヤン」の舞台は、埼玉県熊谷市です。キャッチコピーにも「地域限定」とあるように、物語は熊谷という街の地域性や特性を、非常に上手く作劇に活かしている印象を受けます。
例えば、劇中で主人公たちが喋る方言。
 


作品内の解説によると、「てってぇ」は「スゲェ」という意味だそうです。
 
私は、九州出身で関東地方の方言には全く馴染みがないわけですが、それでもこういう地域独自の言葉というのは見ていて楽しいですし、その言葉を話すキャラクターには好感を持てます。
一方で、実際に熊谷市やその周辺に住んでいる人たちにとっては、こうした劇中の描写というのは、非常に親和性の高い「あるあるネタ」として機能をします。
 
「方言」を大きく作品内に取り込んでいる漫画の一例として、最近私が注目している作品に「週刊少年チャンピオン」で連載中の波打際のむろみさんがあるのですが、この作品では正に私のお国言葉である博多弁が大きく取り上げられています。
また、その描き方というのが妙にこだわっていて、例えば今週号では同じ福岡県の方言でも、博多弁とは異なる北九州地方の方言(=筑後弁)を話す新キャラクターが登場するんですね。
 

<週刊少年マガジン2009年38号 (講談社) P.457>


 
こういう郷土愛に基づいた細かい描写っていうのが、舞台になっているご当地に住んでいる人間から見るとメチャクチャおもしろいんですよ。
もっとも、これなんて福岡県民以外の方にとってのリアリティというのは希薄でしょうが、それでも「方言」や「地域性」によって、登場人物のキャラクターが立ったり、作品内の個性が生まれ、読み手に強い印象を与えます。
 
「くまがヤン」も然りで、主人公のヤンキー三人組が方言を喋ることによってキャラクターの愛嬌が増し、埼玉県が持つ適度な地方性がヤンキー漫画としてのリアリティに貢献をし、日本一暑いという熊谷市の地域性が作品内に独特の熱気と氷菓を巡るストーリーの盛り上げに上手く機能しているように思うのです。
 
舞台となった地域の中にいる人間にとっては身近に、そして外にいる人間はそれが特別な各作品の付加価値になり得る。そして、舞台となる地方の特色が時に作品の個性となる。
 
その辺りが、こういった地域密着型の漫画やアニメのおもしろいところだと思うのです。
 
 

■地域密着型漫画・アニメと聖地巡礼

最近、アニメや漫画で特定の舞台を…それも、各地の地方都市を舞台にした作品が増えているように思います。人気が出た作品の舞台を観光に行く聖地巡礼という言葉も定着しました。
ただ、ああいう作品の舞台になっている地域に行ってみても、ごくごく普通に地方都市の風景が広がっているだけっていう場合が多いんですよね。
らき☆すた」の鷲宮神社のように観光名所になり得るハッキリとしたランドスケープが存在する場合もありますが、大抵の場合は作品内でモデルになった学校にしろ駅にしろ、その地域の方々が極々普通に利用をしている極々普通の光景が広がっているだけです。当然といえば当然ですが。
 

私がこの春、大好きな某アニメ作品に登場した駅を「聖地巡礼」した時の写真です。一見すると、平凡なバスターミナルの風景なわけですが…。
 
ただ、漫画やアニメを通してその地域に触れ、キャラクターや物語によって思い入れができているファンにとっては、その極々当たり前の景色が特別な景色になるのです。
映画やドラマなんかの実写作品にも勿論そういったパワーはあるわけですが、アニメや漫画で一旦作り手の目を通して「絵」に落とし込まれた風景というのは、それをもう一度現実の景色として探し出す、還元するという工程が加わるため、より楽しみや魅力が増すように思うのです。
そして、そういう楽しみっていうのをオマケ要素的に作品内に盛り込み、受け手に届けるという描き方、作り方がここ数年、非常に多くなった気がするのです。で、結果的に生まれたのが「聖地巡礼」ブームなんじゃないかな、なんて。
 
極々当たり前の光景が、ファンにとっては特別な魅力になり得る。平凡なものが、不意に特別な輝きを持ちえるというおもしろさですよね。そういう部分に私たちは思わず惹かれてしまうのではないかな、と。
漫画やアニメに出てくる地方の風景の一番おもしろい部分ってそこだと思いますし、だからこそ「くまがヤン」の「地域密着型のヤンキー漫画」というコンセプト、方向性っていうのは凄く魅力があると思うんですよね。
 
 

■まとめ

自分なりに漫画やアニメで描かれる地方の風景についてダラダラと書いてみましたが、そんな余計なことを考えなくても「くまがヤン」はスカッと楽しめる、爽快な作品に仕上がっています。
 
超人バトルものではないので、「悪徒 -ACT-」で見られた独特の擬音表現やケレン味の数々は抑え気味な気がしますが、それでもガリガリの親友二人のキャラクターや、異様に味のある顔をした敵キャラクターなど「らしさ」はアチコチに出ていて、「悪徒 -ACT-」ファンも十二分に楽しめる作品だと思います。
劇中の描写で特にスゴイと思ったのがコレ。
 


 
「悪徒 -ACT-」でも見られましたが、文字にベクトルを合わせて、音とキャラクターの動きを同時に表現するという手法。こういうのやらせたら、このコンビは抜群に上手いよな〜なんて。
 
 
 
「漫'sプレイボーイ」は初めて購入したのですが(コレが2号目?)、私の好きな「キン肉マン」の番外編とか、カラスヤサトシ先生、石原まこちん先生の漫画もあって、元値は充分に取れたな〜という感じがします。
キン肉マン」は、テリーマンの息子、テリー・ザ・キッドが主役の短編なのですが、テリーマンと因縁深い「あの」超人の2世超人がまさかの登場をしています。こちらも、ファンは必見!