「にゃんこい!」の舞台は一体どこなのか? ラブコメの舞台装置としてのロケーション

 

 
いよいよにゃんこい!」の最終回が近づいてきてしまいました…。
もう、本当に大好きなアニメなので、ひたすら寂しいんですけど、とにかく3ヶ月間このアニメに最高に楽しませてもらったファンの一人として、最大限の「ありがとう」という気持ちを込めてアニメ版の一先ずの区切りを迎えたいと思います。
 
ところで、「にゃんこい!」を見ている間、ずっと気になっていた謎が一つあります。それは、「『にゃんこい!』の舞台って一体どこなの?」という非常に素朴な疑問です。というのが、「にゃんこい!」の街や背景の描き方って、結構特殊なように思うのです。
 
 

■「にゃんこい!」の舞台はどこなのか?

にゃんこい!」の舞台は果してどこなのか?
その地域性を特定するヒントになりそうな背景やロケーションは劇中でいくつか登場しますが、中でもアニメの中で描かれる頻度が高く、また「にゃんこい!」の世界観の中でランドスケープ的に扱われているのが、主人公たちが暮らす常盤町の商店街「サンロード」です。
 

 
そして、この「サンロード」という商店街は、名称や見た目のイメージから吉祥寺にある「サンロード商店街」をモデルにしていると思われます。ですから、にゃんこい!」の舞台は東京というのが先ず一つ候補として挙げられると思います。
実際、アニメの11話「フレンズ」では、こんな台詞も登場します。
 

「何だ、シロガネーゼか〜。都心は全く油断ならねぇぜ。
ハハハハッ、『シロガネーゼ』って今、言わねぇか」

 
以上のことから「にゃんこい!」の舞台は東京、しかも都心部ではなく都下の武蔵野、多摩地区周辺の地域ではないかと考えることができます。
 
ところが、一方で6話の「ミルク&ビター&シュガー&スパイス」で描かれた背景には、こんな道路標識が登場していたりもするのです。
 

 
ハッキリと「国道3号」という文字が読み取れます。国道3号とは、福岡県から鹿児島県までを縦断する九州の道路です。
東京と九州。道路標識のように、地域性を特定するアイテムが唐突に登場した理由は分からないのですが、ここで出てきた「国道3号」というキーワードと、今まで「にゃんこい!」が劇中で描いてきた地域性を象徴するようなモチーフとの間には、些かの食い違いが生じています。
 
 

■ラブコメの舞台装置としての「常盤町

これは、「にゃんこい!」というアニメ作品の奇妙なところなのですが、こうしたロケーションの混在は劇中でしばしば顔を出します。
この他にも、4話の「四角関係の刻(タイムズ・スクウェア)」に出てきた「常盤台遊園地」は、山梨県の「富士急ハイランドがモデルになっているようですし、
 

 
9話の「ガールズ・イン・ザ・ウォーター」に登場した「TOKIWA Hawaiians」は、福島県の「スパリゾートハワイアンズをモデルにして描かれているようで、益々その地域性は混沌としていきます。
 

 
こうした描写を見てみると、恐らく「にゃんこい!」というアニメは、実際にあるいくつかのロケーションを参考にしながら、そのイメージやキーワードをコラージュして物語の舞台を、「常盤町」というフィクションの街を作っているのはないかと考えられます。
 
よくよく考えてみれば、「にゃんこい!」の舞台となっている常磐台町は不思議な街です。
 
商店街があって、お寺や公園があって、住宅地と学校があって…という街の地域性が描かれる一方で、遊園地やスパリゾートなど、大規模なレジャー施設が並行して描かれていたりもします。
こうした街の描き方にリアリズムは希薄ですが、それ故にアニメのストーリーやキャラクターに制約を設けることなく、自由自在に動かすことができます。前述したような地域性の特定となるようなキーワードやロケーションの劇中での混在も、こうした物語の自由度を再現した結果と考えれば、何となく合点がいきます。
 
つまり、「にゃんこい!」に登場する常磐町は、学校や商店街のような主人公たちの生活空間として存在していると同時に、遊園地や大規模なプールなどのデートスポット的なロケーションをも併せ持つ、「ラブコメ」の舞台装置として最大限に活かせる街として描かれているのではないかと思うのです。
 
 

■ギャルゲーっぽい「にゃんこい!」の舞台

ここからは、余談になるのですが、ネットでの「にゃんこい!」に関する感想や考察を見ていて目に入るのが、このアニメが「ギャルゲーっぽい」という意見です。
 
恐らくは、一人の男性主人公の周囲に、複数のヒロインが存在しているという物語の構造や、大川茂伸さんとkeyの「リトルバスターズ!」の音楽を手掛けた三輪学(Manack)さんのお二人による打ち込み主体のBGMなどから、そういったイメージが連想されるのでしょう。そして、それに加えて、このエントリで書いてきたような劇中のロケーションの特性も「ギャルゲー」の的な要素を大いに喚起しているのではないかと思います。
 
例えば、恋愛シュミレーションゲームでは、その物語において背景が、学校と家とデートスポットしか描かれないということがよくあります。そして学校に行くことでヒロインとの遭遇イベントが起こり、遊園地や映画館のようなデートスポットに行くと何かしらの恋愛イベントが発生してヒロインとの仲が進展する。
 
ギャルゲーの中で描かれる背景やロケーションが重要視するのは、その地域のリアリズムではなく、恋愛を盛り立てる、ヒロインを可愛らしく楽しく見せるための舞台としての役割です。こうしたギャルゲー特有のゲームシステムに基づいた背景の描かれ方と「にゃんこい!」における街の描き方には非常に近しいものを私は感じます。
 
そして、この辺りも「ギャルゲーっぽい」っぽいという意見や感想に繋がっているのではないかと思うのです。
 
 

■まとめ

近年のアニメでは、舞台となるロケーションを実在の街や地域から選定し、設定や取材をキチンと行うことで徹底してリアリズムを追求する傾向が流行となっているように思います。ファンが、アニメ作品の舞台となった地域に観光に出掛ける「聖地巡礼」のようなイベントも、アニメファンの間ではすかり定番となりました。そして、その写実性が正確であればあるほど、優れたアニメ作品、良い背景といった評価にも繋がっているように思います。
 
勿論、そうした写実性に、アニメ作品の評価の判断基準を求めることは間違いではないと思うのですが、「にゃんこい!」のようにリアリズムや整合性をある程度無視して、自由に物語に登場する街や背景を構成していくという作り方も非常に魅力的だと思うのです。
実際、「にゃんこい!」の作劇の軽快なスピード感や、コメディのテンポの良さには、背景の自由度の高さや、ロケーションの豊富さが大きく貢献をしているように思います。
 
…とはいえ、街の中心に大きな商店街があって、遊園地があって、大規模なリゾート施設があって…なんて街が本当にあったとしたら…まぁ、学生は退屈しないでしょうね(笑)。
にゃんこい!」というアニメに流れるチアフルな空気観も、こういったところから来ていたりするのかなと思います。
 
 
 
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