「夏のあらし!〜春夏冬中〜」における昭和歌謡の引用と、新房昭之監督とテクノポップ

 

 
毎週楽しませてもらっているテレビアニメ夏のあらし!。タイトルに「〜春夏冬中〜」が付いた二期も、一期に引き続き、賑やかなBGMと昭和歌謡のヒットナンバーが見ている人を楽しませてくれますが、一期に比べるとその傾向にはちょっと変化があったように思うんですよね。
 
今回は、その辺りについてちょっと感想文を書いてみます。
 
 

■サブタイトルにおける昭和歌謡曲の引用

夏のあらし!」では、毎回、ジャケットのパロディイラストと共に、サブタイトルで昭和の歌謡曲の曲名が引用され、アニメに出演をされている声優さんによる昭和歌謡のカバー曲が劇中歌として使用されています。
こうした「歌」を使った劇中での演出の数々は、劇中の賑々しい雰囲気と、昭和チックなイメージを盛り上げてくれます。
 
ところで、これらの楽曲は一体どのような傾向で選ばれているのでしょうか? ちょっと気になったので、サブタイトルに使用された楽曲アーティスト名や発売日などのデータを、自分なりに調べてまとめてみました*1
 
夏のあらし!(第一期)
1. プレイバックPart2 山口百恵 1978年(昭和53年)
2. 少女A 中森明菜 1982年(昭和57年)
3. 守ってあげたい 松任谷由実 1989(平成元年)
4. 想い出がいっぱい H2O 1983年(昭和58年)
5. 秘密の花園 松田聖子 1983年(昭和58年)
6. 恋におちて 小林明子 1985年(昭和60年)
7. 他人の関係 金井克子 1973年(昭和48年)
8. 勝手にしやがれ 沢田研二 1977年(昭和52年)
9. HERO 甲斐バンド 1978年(昭和53年)
10. 異邦人 久保田早紀 1979年(昭和54年)
11. 世界は二人のために 佐良直美 1967年(昭和42年)
12. 時の流れに身をまかせ テレサ・テン 1986年(昭和61年)
13. プレイバックPart1 山口百恵 1978年(昭和53年)
 
夏のあらし! 〜春夏冬中〜(第二期)
1. 夏休み 吉田拓郎 1971年(昭和46年)
2. ギャランドゥ 西城秀樹 1983年(昭和58年)
3. 時をかける少女 原田知世 1983年(昭和58年)
4. みずいろの雨 八神純子 1978年(昭和53年)
5. Romanticが止まらない C-C-B 1985年(昭和60年
6. ギザギザハートの子守唄 チェッカーズ 1983年(昭和58年)
7. 天城越え 石川さゆり 1986年(昭和61年)
8. コンピューターおばあちゃん 坂本龍一 1981年(昭和56年)
9. 淋しい熱帯魚 Wink 1989年(平成元年)
10. 昭和ブルース 天知茂 1973年(昭和48年)
 
夏のあらし!」に使用されている楽曲って70年代の曲が多く使われている印象があったのですが、こうして改めて見てみると80年代の楽曲も多いことが分かりますね。中には年号が平成に変わってから発売された曲も入っていたりして、漠然と「昭和歌謡」というカテゴリーで括っていた楽曲の年代が、思っていた以上にバラバラであることに気付かされます。
 
と、まぁ「『夏のあらし!』で引用されている楽曲は、思った以上に年代や音楽ジャンルのバラエティに富んでいました。おもしろかったです」という結論でもって、このエントリを終わらせても良いのですが、それだけだとちょっと物足りないので、次に自分なりの音楽的視点で持って「夏のあらし!」における音楽の傾向を、ひいては新房作品における音楽について、拙いながらも考えていきたいと思います。
 
 

■「夏のあらし! 〜春夏冬中〜」とテクノポップ

第一期では、サブタイトルや劇中歌として引用されている楽曲は、歌謡曲フォークソング、ニュー・ミュージックと呼ばれている楽曲群が中心となっていました。更にOP曲には、暗黒ファンク歌謡バンド、面影ラッキーホールを起用し、EDで白石涼子さんが歌う「キラリフタリ」もそういった流れを意識した歌謡曲チックな曲調の声優ソングとなっていました。
引用元の楽曲にしても、主題歌にしても生音主体の歌謡曲でもって、「夏のあらし!」というアニメの作品世界を固めていたような印象を受けるのです。
 
ところが、これが続編の「夏のあらし! 〜春夏冬中〜」では、ちょっとイメージが変わってきます。
 
ED曲には、前期の「キラリフタリ」の印象とは随分異なるピコピコした打ち込みによる「乙女の順序」が使われ、そのアニメーションにも、ファミコンのドット絵調でロール・プレイング・ゲームの登場人物にアレンジされたキャラクターが使われています。
 

 
また、サブタイトルにおける楽曲の引用に関しても、従来の生音主体の歌謡曲ではなく、コンピューターおばあちゃんC-C-Bの「Romanticが止まらないWinkの「淋しい熱帯魚のように、それまでのポップ・ミュージックとは異なる打ち込みやエレクトリック・ドラムをサウンドの主体にした、80年代の新しいタイプの流行歌のタイトルが顔を出してきます。
 


 
個人的にコレは「〜春夏冬中〜」の中で、本編の内容とは別の次元で引っ掛かりを覚えたところでした。
EDの打ち込み主体による「乙女の順序」にしてもそうだし、昭和の歌謡曲の中でも、「コンピューターおばあちゃん」や「Romanticが止まらない」のような、所謂テクノポップエレポップと呼ばれる音楽を、「夏のあらし!」というアニメ作品に持ち込むことは前期で徹底してやってきた昭和歌謡の引用との間で、些かデティールが異なっているのではないかと思ったのです。
 
 

■「夏のあらし!春夏冬中〜」と80年代

それを踏まえた上で、公式HPの新房監督のインタビューを読んでみると、非常に興味深いものがあります。
 
■「夏のあらし! 〜春夏冬中〜」箱舟へようこそ! - 新房監督インタビュー
 
短いながらも、「夏のあらし!」と歌謡曲について色々と述べられているのですが、このインタビューを読んでみると、二期の「〜春夏冬中〜」では意識をして80年代の歌謡曲を作品内に取り込んでいることが分かります。
 
もっとも、前述の通り一期の時点でも、80年代の歌謡曲は作品内に引用されていたわけですが、

――第二期となる『夏のあらし!春夏冬中〜』では、80年代の歌謡曲がメインになると聞いています。
 
新房 その方が、アニメを見てくれている人がもっと喜んでくれるかもしれないな、と思ったからです。
僕自身、YMO関連のテクノ歌謡とかは当時チェックしていたし、スターボーの『STARBOW 1』の紙ジャケ再発とか買いましたからね(笑)。

 
といった発言の中で、YMO関連のテクノ歌謡スターボー*2というキーワードを引き合いに出している辺りを見てみると、ここで言われている「80年代の歌謡曲」とは、テクノポップ、エレポップのような楽曲を限定的にイメージして指しているのではないかと思われます。
 
 

新房昭之監督の作品とテクノポップ

そうやって考えてみると、新房監督が手掛けたアニメ作品って、テクノポップとの繋がりが強いものが多いんですよね。
新房作品とテクノポップ…ということで、誰もが真っ先に思い浮かべるのがまりあ†ほりっくのEDテーマ君に、胸キュン。でしょう。
 
<天の妃少女合唱団 / 君に、胸キュン。>

 
君に、胸キュン。」は、イエロー・マジック・オーケストラが、その活動の末期にテクノポップテクノ歌謡志向を極端に推し進めて作った楽曲であり、「まりあ†ほりっく」では、それがソックリそのままカヴァーされていました。更に、この曲のCDジャケットは、YMOによるオリジナル曲のEPレコードをパロディにした作りになっており、YMOへのリスペクトが伝わる作りになっています。
 

 
また、YMOのジャケット・パロディといえば、ひだまりスケッチのラジオCDでも、YMOの名作アルバム「Solid State Survivor」のパロディが行われています。
 

 
他にも、ぱにぽにだっしゅ!では「少女Q」のようにストレートにテクノポップ志向な楽曲が使われていたり、月詠 -MOON PHASE-では、フランスのDJ、Dimitri From ParisがOPを担当し、テクノポップバンド、パール兄弟のメンバーだったさえサエキけんぞうが作詞家として劇中歌に携わっていたりします。
 
これらは、デザイナーさんであるとか、音響監督さんであるとか、新房アニメに関わっている他のスタッフさんの意匠なのかもしれませんが、新房作品の音楽やパロディの元ネタにおいて、こうしたテクノポップ的なイメージが度々顔を覗かせるというのは、個人的に非常に興味深いものがあります。
 
多作なアニメ監督さんなので、こうしたテクノポップ、エレポップのイメージがない作品もありますが、それでも「夏のあらし!」の「コンピューターおばあちゃん」や「まりあ†ほりっく」の「君に、胸キュン。」のような点を線で繋いでいくと、そこからは新房監督の音楽的嗜好が垣間見えてくるように思います。
 
 

■まとめ

新房作品における、こうしたテクノポップのイメージを繋いでいくと、「夏のあらし!春夏冬中〜」の中で急に打ち込みの曲が使われたり、昭和のテクノ歌謡が引用されたり…といった、一期からの変化にも納得がいきます。
 
今でこそ、Perfume中田ヤスタカの登場によって再発見がされた感のあるテクノポップですが、それまでは割と音楽史的にも見過ごされてきたジャンルというか、割と「過去の恥ずかしい遺物」みたいな理不尽な扱いを受けることも多かったんですよね。
 
個人的にテクノポップは大好きな音楽ジャンルなので、今後も新房監督の作品を形作っていくであろうテクノポップ的な音楽要素をに注目をしつつ、新房作品を追いかけていこうと思います。
 
 
 
<関連エントリ>
■アニメ作品における映画音楽のパロディについて - 「夏のあらし!」と「サスペリア」
 
<関連URL>
■「まりあ†ほりっく」のEDが「君に、胸キュン」であることの意義〜ひねくれソングとひねくれボーイ&ガール〜(たまごまごごはん)
 

*1:コンピューターおばあちゃん」と「昭和ブルース」は、本当はオリジナルのアーティストがいるのですが、知名度的にはコチラの方かな、ということで坂本龍一(「コンピューターおばあちゃん」の編曲を担当)と天知茂(ドラマの主題歌で「昭和ブルース」をカバーしヒットさせる)のバージョンをクレジットしました。

*2:80年代を代表するカルト・テクノポップ・アイドル。宇宙服のような衣装を着て、地球外からやって来た性別不明の宇宙人という設定だった。YMO細野晴臣が作曲したデビュー曲「ハートブレイク太陽族」は80年台のテクノポップを代表する名(迷)曲!