「バカとテストと卍固めとドロップキックと…」 - 「バカテス」に出てきたプロレス技まとめ

 

 
前期のアニメの中でも私が特に好きで、熱を持って見ていたのがバカとテストと召喚獣
シナリオやキャラクター、独特の色彩や演出術…といったアニメを形作る要素が、どれも素敵な作品だったのですが、アニメファンであると同時にプロレスファンでもある自分が、その辺のメインの部分とはちょっと離れたところで楽しんでいたのが、ヒロインの一人である島田美波が使うプロレス技の数々でした。
これが、技に入るモーションがかなり忠実に再現をされていたり、プロレスのツボを心得た描写が多くて、プロレスファンのマニア心をくすぐってくれるんですよね。
 
そんなわけで、劇中で島田さんが明久に見舞った技の数々を、簡単な解説と共にまとめてみました。
 
 

■第1問「バカとクラスと召喚戦争」


ヘッドロック
相手の頭を脇に抱えて締め上げる、プロレスの基本技。
ちゃんと、相手の頭を左脇で抱えるなど、そのプロレスの何たるかを「分かった」こだわりのある描写については、以前のエントリで書いた通りです。

プロレスの基本となるのが、このヘッドロック
ロックアップ(相手と組み合うこと、プロレスの試合序盤における重要な動き)からヘッドロックというのは、プロレスにおいて定番の始まり方ですので、「バカテス」のアニメもこの技で幕を開けるというのは、今観てみると意味深です。
 

卍固め
ご存知「燃える闘魂アントニオ猪木の代名詞的な必殺技。相手の足と首に、自身の足を絡め、相手の腕を極めることで、肩・わき腹・腰など複数箇所を痛めつける技です。
猪木がプロレス界を退いた現在でも、鈴木みのるや、バトラーツ石川雄規といった、猪木のファイトスタイルの影響下にあるレスラーが必殺技として使用しています。
見た目が派手で見栄えが良く、闘いであると同時に、流麗な動きと華麗な技で観客を魅せる要素もある「プロレス」というジャンルを強く体現する技だと言えるでしょう。
 

■逆片エビ固め■
相手の片足を掴んで、背中側に反らせることで背中を痛めつける技。
ヘッドロック同様に、プロレス技の基本中の基本の一つで、試合中の繋ぎとして使用されることが多いのですが、劇中で島田さんが明久の背骨を破壊したように、地味な見た目の割に相手の背中に大ダメージを与え、また気道も圧迫される、非常に危険な技です。
レスラーも若手の内はこの技で先輩レスラーから痛めつけられ、何度もギブアップを奪われることで成長していきます。
 
 

■第2問「ユリとバラと保健体育」


■足四の字固め■
相手の両足を「4」の字のようにロックして掛ける関節技。
英名は「フィギュア・フォー・レッグ・ロック」で、元祖は「魔王」ザ・デストロイヤー。海外では、リック・フレアージャック・ブリスコ、そして日本では「天才」武藤敬司が長年愛用している必殺技として知られています。
古典的な必殺技ですので、そのクラシカルな動きを如何に説得力を持たせて魅せるか、というのが重要なポイントになると思うのですが、「バカテス」では相手の足をとってからのモーションを非常に忠実に再現をしていて、プロレスファンも納得の出来になっていると思います。
 

■ロメロスペシャル■
和名は「吊り天井固め」。これも、今までに紹介してきたモノと同様に関節技ではあるのですが、日本やアメリカのマットではなく、メキシコのプロレスであるルチャ・リブレで生まれた技です。現在、最も有名な使い手は、何と言っても新日本プロレス獣神サンダー・ライガー
ルチャの関節技(ジャベ)は、このロメロスペシャルのように派手で複雑な形のものが多いのですが、ストロング・スタイルの技だけでなく、このようなルチャのスタイルも使いこなせる辺りに、島田さんのプロレスの懐の深さが垣間見えます。
 

■腕ひしぎ逆十字固め■
足で相手の身体を固定し、取った腕の関節を逆方向に曲げることで極める技。
現在では、プロレスというよりはむしろMMA(Mixed martial arts=総合格闘技の決まり手の一つとしてポピュラーになっており、そうしたファイトスタイルをプロレスの世界で行う、新日本プロレス中邑真輔のようなプロレスラーの得意技となっています。
足四の字のようなクラシカルなアメリカン・レスリングやルチャの技なんかもこなしつつ、本気になったら相手の体をいとも簡単に壊すことができるであろう、島田さんの稀代のシューターっぷりが顔を覗かせています。

場外乱闘で、対戦相手に腕ひしぎ逆十字を極める、鈴木みのる
 
 

■第3問「食費とデートとスタンガン」


■アイアンクロー■
「鉄の爪」フリッツ・フォン・エリックの必殺技。相手の頭を掴んで締め上げるシンプル極まりない技なのですが、それ故に技を掛けた側の驚異的な握力を観客にアピールすることができます。で、そんな技を男の子相手に掛けることができる島田さんの握力って一体…。
漫画のキン肉マンでこの技を使ったキン肉真弓と委員長の攻防に、観客が「古臭い」とヤジを飛ばすシーンが登場したように、非常に古典的で今では使い手も少ない技となっていますが、元WWEのスーパースターであるブキャナンのように、十分な説得力を持ってこの技を使用しているレスラーもいます。
 

■サソリ固め■
相手の足をクロスさせて片足を腕で固定、そのまま相手の身体を反転させて腰や足を締め上げる、「革命戦士」長州力の必殺技。

全日本プロレスでのタッグマッチで、パートナーの近藤修司とサソリ固めの共演を見せる長州力
また、アメリカマットでも、スティングが「スコーピオン・デス・ロック」の名で、ショーン・マイケルズクリス・ベノワといった名立たるレスラーたちが「シャープ・シューター」の名でフィニッシュ・ホールドとして使用をしています。
これも、アニメでは足四の字固めと同様に、技に「入る」までの動きを描いていて素晴らしかったですね。
 
 

■第4問「愛とスパイスとお弁当」


■ジャーマン・スープレックス
今までは、関節技や締め技ばかりでしたが、このエピソードでは初めて投げ技が登場しています。それが、このジャーマン・スープレックスです。
数あるプロレスの投げ技の中でも一際豪快で、観客を魅了する美しさも併せ持つジャーマン・スープレックス。相手の胴に腕を回してクラッチし、そのままブリッジして投げる技なのですが、背筋力がないとブリッジが崩れてしまったり、また相手を投げる際の角度や高低差を如何に作り出すかなど、使い手のフィジカルの強さや技量が如実に出る技です。
また、この技は投げる際に、足が爪先立ちになる選手と、ベタ足で相手を投げる選手がいるのですが、島田さんはより高低差を作り出すことができる爪先立ちで明久を投げており、また投げた後のブリッジも綺麗な形ができていることから、非常に高いレベルでこの技を使いこなせていることが分かります。
この技をフィニッシュ・ムーブ(必殺技)にしているレスラーも沢山いますが、高山善廣(長身を活かした「エベレスト・ジャーマン」の名で使用)やゲーリー・オブライト、インディーでは大日本のプロレスの関本大介K-DOJO火野裕士といった選手が有名どころでしょうか。
また、スタイナー・ブラザーズリック・スタイナーが開発した、相手を後方に放り投げる「投げっ放しジャーマン」のように、数多くの派生技を生み出しながら、今も進化を続ける技です。
 
 

■第6問「僕とプールと水着の楽園ーーと、」


■グラウンド式卍固め
立った状態ではなく、グラウンドで極める卍固め。主な使い手はエル・サムライ
余りメジャーとは言えない技で、この技を得意とするレスラーも少なく、また、現在では相手の関節を攻めるというよりは、相手の身体の自由を奪いフォールを奪う固め技として使用されることが多いのですが、島田さんは明久の身体を痛めつけるのに使用しており、更にマニア度が増しています。1話で出てきた卍固めをもう一度使うのではなく、変形で用いてくる辺りに、スタッフのこだわりとプロレスLOVEが垣間見えますね。
「バカテス」の劇中でも、一際マニアックで渋い攻防です。
 
 

■第7問「俺と翔子と如月グランドパーク」


■ドロップキック■
両足で相手を蹴る飛び蹴り。技を覚えたり、フィジカルの成長が追いつかない、キャリアの浅い若手レスラーにとっては、この技が唯一華のある技として試合中に使用ができるプロレス技でもあります。
これも、プロレスの基本中の基本となるムーヴですが、打点の高さや姿勢の美しさ、試合の流れの中で放つタイミングなど、レスラーの身体能力やプロレスの技術の判断基準になりえる技です。
このエピソードでは、キグルミを着た状態で、打点の高いドロップキックを華麗なフォームで放つことができる島田さんの驚異的な身体能力を読み解くことができます。
 
 

■第8問「暴走と迷宮と召喚獣補完計画」


■胴締めチョークスリーパー
相手の胴体に足を絡めて固定し、腕で相手の頚動脈や気道を圧迫し、締め上げる技。
こちらも、プロレスというよりは、MMAの世界で一的になっており、藤田和之DRAGON GATEYAMATOなど総合格闘技の心得のある選手が試合で使うことが多いです。

スリーパーをフィニッシャーとしている、DRAGON GATEのYAMATO。
ちなみに、この技は自分の肩がマットに着いた状態で、相手の身体が上になってしまうために、技を掛けている間はカウントを取られてしまいます。
実際に、2004年の10.9両国国技館での新日本プロレスの興行で行われたIWGPヘビー級選手権で、当時王者だった藤田和之がこの技を仕掛けた際にそのまま3カウントを取られ、挑戦者の佐々木健介に敗れるという不透明決着に終わり、観客が暴動寸前になったことがあります。
そんなプロレスのセオリーを無視した技を掛けにいくなんて、この時の島田さんは、よっぽど腹に据えかねるものがあったのでしょう。
 

フランケンシュタイナー
投げっぱなしジャーマンの使い手であったリック・スタイナーの弟であるプロレスラー、スコット・スタイナーが開発したプロレス技。
相手に飛びついて首を両足で挟みこみ、身体を反転させた反動で相手の後頭部をマットに叩きつける荒業です。
メキシコ発祥のウラカン・ラナを改良して完成した技で、現在では混同して使われることも多いのですが、本来のウラカン・ラナが相手の身体を丸め込んで3カウントを奪う技であったのに対して、フランケンシュタイナーは相手の頭部にダメージを与えるという違いがあります。
ここで、島田さんが見せているのは、オリジナルのスコット・スタイナーのスタイルに準じた正調のフランケンシュタイナー混同しやすい類型技との違いも、キッチリと描き分けられているのが素晴らしいです。
 
 

■第10問「模試と怪盗とラブレター」


■逆エビ固め■
相手の両足を脇に挟んで、反り上げることで背中を痛めつける技。1話に出てきた逆片エビ固めが片足だったのに対し、こちらは両足を持って技を極めます。
卍固めとグラウンド式卍固めの違いもそうですが、同型の技は使っても、決して同じ技を持ってこない辺りに、こだわりが見えますね。
これも、プロレスの基本中の基本の一つで、主に若手の試合で見られる技なのですが、逆片エビ固めと同様に、地味な見た目の割には非常に危険な技で、WWEクリス・ジェリコの「ウォール・オブ・ジェリコ」のように、更に急角度で極めることによって文字通りの「必殺技」として使用しているレスラーもいます。

必殺の逆エビ固め(=ウォール・オブ・ジェリコ)を仕掛ける、クリス・ジェリコ
 

■アルゼンチン・バックブリーカー
相手を担ぎ上げ、腕で相手の腿と顎を固定し、相手の身体を弓なりに反らすことで、背中に大ダメージを与え、気道を圧迫する技。
漫画やアニメの世界だと「キン肉マン」で、ロビンマスクが使っていたタワーブリッジですね。
パワーファイター系のレスラーが得意とする技で、新日本プロレスの「野人」中西学や、プロレスリング・ノア井上雅央といったレスラーの必殺技としてポピュラーになっています。中西の場合は、ここから相手の身体を旋回させつつ、マットに叩きつける「ヘラクレス・カッター」を開発するなど、ここから派生した技もあります。
 
 

■第13問「バカとテストと召喚獣


■レッグスプレッド■
今までも、散々マニアックなプロレス技や描写があった「バカテス」ですが、最終回で出てきた一番マニアな技がコレです。相手の足をフックして、両足を思い切り広げ、股関節や足の腱を痛めつけるレッグスプレッド(股裂き)!
モダンなプロレスの試合では余り目にする機会もなくなった渋い技を、最終回の晴れ舞台に持ってくる思い切りの良さが凄いです。
かつて、リングスでヴォルク・ハンがこれに近い状態で相手の足をロックして自由を奪った上で、そこからアキレス腱固めや膝十字固めといった足関節に持っていくのを得意としていましたが、そのリングスの流れを継ぐMMAイベントZSTの大会において、小谷直之選手がこの技で相手を秒殺し、総合格闘技の世界でもその実践性と破壊力を証明した技でもあります。

MMAイベントで、レッグスプレッドで相手を秒殺する小谷直之。島田さんとは、足のフックの形状が違いますが、同型の技です。
 
 

■まとめ

こんな感じで、既に製作が決定しているという第二期が始まるまでの備忘録として、一覧を自分なりに作ってみました。
こうして見ると、ストロングスタイルの力強い技やシュードな関節技・締め技を中心にしつつも、アメリカンスタイルやルチャの技も取り入れる、島田さんのプロレスの引き出しと、ズバ抜けた身体能力の高さが印象に残りますね。
第二期では、一体どんな技が出てくるのか、今から楽しみです!
 
 
 
<関連URL>
■「バカとテストと足四の字固め」 - バカテスのプロレス技を用いた演出術について