戦隊ヒーローとプリキュアとPRIDE - 総合格闘技イベントPRIDEがニチアサに与えた影響
先日、米国で行われた「Strike Force」のヘビー級トーナメントですが…いや〜エメリヤーエンコ・ヒョードル負けちゃいましたね…。しかも、よりにもよって相手がアントニオ"ペイザォン"シウバ…。
前回のファブリシオ・ヴェウドゥム戦でのタップアウト負けに続いて、今回で2連敗。しかも、戦前には割と余裕で勝てるのではないか? と予想されていた相手だけに、今回の敗北は流石にショックでした…。
ヒョードルって言ったら、アレです。日本の総合格闘技イベント「PRIDE」のトップ・ファイターで、ヘビー級の絶対王者として"60億分の1の男"と呼ばれていた選手です。そんなヒョードルも連敗を喫する時がくるなんて…元PRIDEファンとして非常に複雑な心境です。
そんなわけで、かつてのPRIDEの栄光と熱狂に思いを馳せながら、アニメや特撮の話を書いてみようかと。
え!? PRIDEでアニメや特撮の話? とお思いの方もいらしゃるかもしれませんが、かつてこの国で一大格闘技ブームを巻き起こしたPRIDEは、その当時、各カルチャーに多大な影響を与え、現在でもその爪痕を残していたりするのです。
特に、モロに影響を受けていたのが、テレビ朝日の日曜朝の特撮、アニメ番組、所謂「ニチアサ」枠。今回は、ニチアサとPRIDEの不思議な関係性について当時を思い起こしつつアレやコレやと書いてみたいと思います!
■戦隊ヒーローvs.PRIDE
先ず、「ニチアサとPRIDE」ということで真っ先に思い浮かぶのが、スーパー戦隊シリーズの28作目の作品である「特捜戦隊デカレンジャー」。確か、本作のプロデューサーであるシュレック・ヘドウィック女史がPRIDEの大ファンで、作品内にもいくつかオマージュを盛り込んだ…という作品だったハズです(すいません、この辺は当時の記憶を頼りに書いているので、ちょっと自信がないです。勘違いや思い違いだったら、申し訳ありません…)。
例えば、第26話の「クール・パッション」というエピソードでは、当時PRIDEの人気選手だったヒース・ヒーリングとヴァンダレイ・シウバの名を模した「ビース星人ビーリング」と「バンダレ星人ジーバ」という宇宙人が登場します。
PRIDEの常連出場者で人気ファイターだったヴァンダレイ・シウバとヒース・ヒーリング。そして、その名をパロディとして頂いた宇宙人。
更にこの「クール・パッション」。地下格闘技場での違法賭博の摘発の為に潜入捜査に乗り出したデカレンジャーが、オープンフィンガーグローブを着けて宇宙人と殴り合うというストーリー展開にも、PRIDEからの強い影響が。しかも、相手の宇宙人が薬物によるドーピングをしまくっている、という色んな意味でアルティメットなエピソードでした。いいのか、それは!?
PRIDEの人気選手をパロディに用いただけならともかく、デカレンジャーには戦闘シーンにもPRIDEへのオマージュを捧げたシーンがいくつか存在します。
劇中には、タックルで相手を倒し、強烈なパウンド(総合格闘技で、下になった相手にパンチを打ち落とす打撃)を打ち込むのが武器という怪重機(悪役が乗り込むロボ)"ゴッド・パウンダー"が登場したり、そのゴッド・パウンダーとのデカレンジャーロボとのリマッチではデカレンジャーロボが、総合格闘技の代名詞的な関節技である「腕ひしぎ逆十字固め」で相手の腕を破壊するという驚愕シーンも登場します。
"IQレスラー"桜庭和志ばりの高速低空タックル(サックル)を見舞う巨大ロボと、"柔術マジシャン"アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラばりの腕ひしぎを披露する巨大ロボ。
非常に強く時代性を感じるシークエンスの数々ですが、こういうヒーロー番組でもパロディ、オマージュが出てくる位、当時のPRIDEって人気と勢いがあったんです。また、こういうのがフジテレビじゃなくテレビ朝日でやっていたという事実も今となってはおもしろい。そこは、新日本プロレスじゃないのかよ、「ワールド・プロレスリング」じゃないのかよ!? 的な…。
続く「魔法戦隊マジレンジャー」では「仮面ライダー」との「スーパーヒーロータイム」のタイトルコールにPRIDEで選手の入場コールを担当していたレニー・ハートさんを抜擢(以降、レニー・ハートによるタイトルコールは08年の「炎神戦隊ゴーオンジャー」まで続く定番に)、「轟轟戦隊ボウケンジャー」ではPRIDEのリングアナを務めていた声優の太田真一郎さんをナレーションに起用…と、PRIDEに縁の深い"声"も当時の戦隊ヒーローに彩と個性を加えることになりました。
デカレンジャーからボウケンジャーまでの2005年〜2007年といえば、まさにヒョードルやノゲイラ、ミルコ、五味隆典といった人気選手が至高の戦いをリングの上で見せていた絶頂期から消滅に至るまでのPRIDEにとっての激動の時代。そんな中で、戦隊ヒーローが総合格闘技的な動きをアクションシーンに取り入れたり、人気選手のパロディが行われたり…といったことがニチアサでは行われていたわけです。
■プリキュアvs.PRIDE
UFCを主宰ずるズッファがPRIDEの権利や運営権を買い取り、PRIDEが事実上消滅をした2007年以降、流石に露骨な格闘技系のオマージュやパロディがニチアサに盛り込まれることはなくなりましたが、それでもPRIDE消滅から2年の時を経て、再びPRIDEのDNAを持った作品がニチアサに現れます。そう、それはあたかも、かつてRINGSで活躍をした"関節技の魔術師"ヴォルク・ハンの弟子であるエメリヤーエンコ・ヒョードルが、ハンの引退から数年後に日本の格闘技界を席巻をしたように…。
その作品こそが、戦隊ヒーローと同じく、ニチアサの人気番組であるプリキュアシリーズの第6作目「フレッシュプリキュア!」です!
「フレッシュプリキュア!」のどこに、PRIDEとの関連性が!? とお思いでしょうが、実は本作の音楽を担当しているのはPRIDEのテーマを作曲した高梨康治氏、その人なのです。
<高梨康治 / PRIDE MAIN THEME>
アニメファンには「NARUTO」の音楽を手掛けた〜という形容詞の方がピッタリとくるのかもしれませんが、高梨康治氏といえば格闘技ファンにとってこのPRIDEの「ダッダッダダッ!!」というテーマを作った人。
この勇壮で熱いテーマをバックにファイターが次々に登場するオープニングのカッコ良かったこと、カッコ良かったこと!
男の中の男たちよ! 出てこいやぁ〜!!(by高田統括本部長)
PRIDE亡き後、UFCに渡ったミルコ・クロコップがこの曲に乗せて入場をしたというエピソードを聞いた時は泣きました…。
このテーマ曲を聴けば分かる通り、高梨康治氏がクリエイトする音楽の最大の特徴は、和太鼓のようなアタック感、ビート感の強い低音と、その上に乗っかる勇壮な泣きのメロディーではないかと思います。
リスナーの緊迫感と興奮を高める、この作曲術は「フレッシュプリキュア!」でも実に印象的に使用されていました。
高梨氏のプリキュアシリーズでの仕事は、フレッシュの後の「ハートキャッチプリキュア!」「スイートプリキュア♪」と現在進行形で続いていくことになるわけですが、高梨氏が手掛けるBGMは、それまでのプリキュアシリーズでの音楽とは明らかに印象が異なります。
その作曲術の特徴とメロディーの特性が如実に出るのがバトルシーンでの音楽。もう、モロにPRIDEみたいな音楽が流れるんですよ。つまり、低音と泣きのメロが聴いた「ダッダッダダッ!」的な音楽。自分なんて、一番最初にフレッシュを観た時に、戦うシーンで流れる音楽が、まんまPRIDEのオープニングなんじゃないかと思いましたからね。ナキワメーケの代わりに、"死神落下傘"セルゲイ・ハリトーノフが出てきて、セーム・シュルトをボコボコにするんじゃないかと思いましたから。
高梨氏が手掛けるプリキュア最新作「スイートプリキュア♪」でも、その特徴的な音楽は健在ですので、プリキュアファンの方はその辺りに注目して見てみても面白いと思います!
■まとめ
"60億分の1の男"のショッキングな敗戦につられて、PRIDEとニチアサの不思議な関連性をツラツラと。改めて考えると、テレ朝のしかも子ども向けのプライムタイムで放送をしている番組に、フジテレビの格闘技中継が影響を与えたというのも奇妙な話ですが、プリキュアの様に、今もそのエッセンスが確かに残っている番組があるのは、格闘技ファンとして何とも嬉しいトコロ。ちなみに、自分はPRIDEファイターの中では、ムリーロ・ブスタマンチが一番好きでした。今は亡くなってしまったPRIDEですが、何かこういう思い出はずっと残していきたいですね。万感の…思いを込めて……。
<関連エントリ>
■アニメや漫画のバトルロイヤルを考える - たまには卑怯な主人公がいてもいいじゃない!
<関連URL>
■狼からの伝言!アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ&エメリヤーエンコ・ヒョードル&ヴォルク・ハンの巻(さよならテリー・ザ・キッド)