「もってけ!セーラーふく」は、最高のミクスチャーロックだった
以前、拙BLOGでアニメの音楽とミクスチャーロックについてのアレやコレやを書かせていただいたんですが、そのエントリに非常に興味深いコメントをいただきました。
何でも、音楽雑誌の「DTM MAGAZINE」で神前暁さんと畑亜貴さんの対談企画が掲載されたことがあり、そこで神前さんが自身の代表作である「もってけ!セーラーふく」へのミクスチャーロックからの影響について発言をされていたとのこと。
何、それ! 凄く、おもしろそう! ということで、早速バックナンバーを手に入れました!
件の対談が掲載されているのは、「DTM MAGAZINE」の2007年12月号。神前さんと畑さんの対談は「アニソン作詞 - 作曲家の冒険」と銘打たれ、カラー4ページに渡って特集をされています。内容は、自身の代表作を中心に、アニメ音楽や自身の音楽体験、或いは録音について…など、なかなかに濃密な4パージ。実際に読んでみたら予想以上に興味深い発言が数多く載っていましたので、今回のエントリでは「もってけ!セーラーふく」と「ミクスチャーロック」にテーマをフォーカスして記事の内容を引用しつつ、ちょっとアレやコレやと語ってみたいと思います!
■「もってけ!セーラーふく」に影響を与えた日本のミクスチャーバンド
アニソン版のミクスチャーロックとも言える「らき☆すた」OP曲の「もってけ!セーラーふく」。この曲にまつわるエピソードの中で、作曲を担当した神前暁氏の口からあるバンド名が出てきています。デモの時点では、YKZという、すごいハードなミクスチャー系バンドがいるんですが、そんなイメージで、とにかく「トラックをカッコよく作ろう、メロは入れてもひねろう」という感じだったので、畑さんの歌詞を聴いてまさかこうくるとは! と驚きました。
このくだりっていうのが、まさに前述の拙エントリのコメント欄でクリティカルに指摘をいただいた部分なんですが、いや〜何ていうか神前さんの口から「YKZ」というバンド名が、しかも、「もってけ!セーラーふく」のルーツとして出てきた時点で私はもう大満足ですよ!
YKZといえば、日本のラウドミュージック・シーンで"ミクスチャーロック"というスタイルが登場し、そして大ブームを巻き起こした、その創世記〜成熟期を支えたバンド。
神前さんはインタビューの中で、「すごいハードなミクスチャー系バンド」と表現をされていますが、このバンドのおもしろさと目指していた音の方向性は「ハード」という言葉を跳び越えたトコロにあると思っています。いや、音の方は確かにすごいハードっちゃハードなんですが、他のミクスチャー系のバンドとは、ちょっと音のニュアンスが異なる。
例えば、同時期に活動をし、そしてミクスチャーブームの熱狂を作り上げた山嵐やマイナーリーグ、あるいはLimp BizkitやLinkin Parkのような"ニューメタル"と呼ばれた海外バンドの多くが、「メタリックで重いギターリフ、低音を重視したドラムとベースによるバンドサウンドにラップを乗せる」という方法論でヒップホップとロック・ミュージックのクロスオーヴァーを行っていたのに対し、YKZはまた違う方法論でもってミクスチャーロックにアプローチを行っていた。
YKZの真骨頂といえば、やはりこのファンキーなスラップベースとマシンガンのような早口ラップ、そしてホーンセクション!
ベコンベコンと金属質かつアッパーに跳ねるベースの音と、言葉の意味よりはリズム感とスピードを意識したラップを、更にホーンの音が盛り立てる。大きいステージでのライブだと、このホーンの音も生音で再現をしていたんですよね、YKZ。この金管楽器の生み出すパワフルなサウンドは、同時期のミクスチャーバンドにはないエッセンスだった*1。
他にも、メジャーデビュー盤では、ニューヨークのヒップホップユニット、THE BEATNUTSと共演*2していたりもしますし、YKZはどちらかというとファンクやヒップホップ寄りのミクスチャーロックのバンドだったと思うんですよね。
そんなYKZのバンドサウンドと神前さんの発言を念頭に入れて、「もってけ!セーラー服」を聴き返してみると…。
<「らき☆すた」OP / もってけ!セーラーふく>
跳ねるようなスラップベース、超早口かつハイテンションなラップ、それをデコレーションするかのように高らかに鳴り響く生音のホーンセクション…と、成る程! コレは確かにYKZ的なミクスチャーロック!
思えば、YKZはアニメ「R.O.D」のOPでもファンキーでアッパーなインストナンバーをやっていた。インディーズのラウドミュージックシーンから出てきたミクスチャーロックのバンドが、アニメの主題歌にタイアップをされるという事例をかなり早い時期に成し遂げたバンドでもあるんです。
<「R.O.D -THE TV-」OP / R.O.D>
そういう文脈を踏まえてみれば、YKZのエッセンスを持った音楽がアニメ畑から出てきても全く不自然ではない。「もってけ!セーラー服」のミクスチャーロックをクリエイトする際に、神前さんの頭にあったバンドはYKZ。あの曲の衝撃から5年後に、ようやくミクスチャーロックのヒストリーとアニメソングのヒストリーが繋がった。
■神前サウンドにミクスチャーされる畑亜貴の歌詞世界
そんな神前さん作曲に乗っかるのが、畑亜貴さんによる独特の歌詞世界。音と言葉。アニメ作曲とアニメ作詞というそれぞれの才能のミクスチャーが生み出すパワーとグルーヴが、あの「もってけ!セーラーふく」という名曲を生み出したことが、この対談でのお二人のやり取りを見ているとよく分かります。―神前さんのデモ音源では、歌はどうなっていたんでしょう。
畑:神前さんがハナモゲラ語というか「にゃーにゃーにゃんにゃ!」って歌ったラップが入ってました。オケに混じるとメロディ聴き取れないんで、神前さんのラップだけのトラックももらって。
神前:シュールですよね、ラップだから音程も何もないような感じの。
畑:まだ、持ってますよ、アレ(笑)。で、もともと私には「日本語のラップってどうなのよ?」という先入観があったんですけど、でもそれを「女の子が」「大勢で」歌うっていうのは凄くいいなと思いました。私はエンヤとかすごい好きで、いろんなところにコーラスを入れたり、何回も歌を重ねたりしているのが大好きなんですよ。
神前:まぁ、歌詞は本当に完璧でしたね。最初に聴いた時は、ちょっと畑さんはおかしいんじゃないかと…いや、そんなことはないんですけど(笑)。
「もってけ!セーラーふく」を構成する音楽的キーワードの中で、YKZとエンヤという全く音が異なる2組のアーティストの名前が出てくるのが如何にもおもしろい!
この後に続く、お二方の音楽遍歴であるとか、影響を受けたアーティストの名前なんかを見てみても、非常に幅の広い音楽、アーティスト、そして音楽を形作る方法論からの影響下にあることが分かります。そんなお二方の豊富な音楽体験と才能が非常に幸福な形で交わり、生み出された楽曲が「もってけ!セーラーふく」。
YKZのような激しいミクスチャーサウンドを目指していた神前さんの楽曲に、畑さんの歌詞世界が交わり、そこに「女の子が大勢で」ラップをするというコンセプトがガッチリとハマった。いわば、神前暁と畑亜貴という作曲者と作詞家のミクスチャー。「もってけ!セーラーふく」は、最高のミクスチャーロックだった。
■まとめ
今回は極々一部の内容をピックアップさせていただきましたが、この対談、本当におもしろくて興味深い発言が色々と行われていますので、神前さんと畑さん、あるいは「らき☆すた」ファンの皆さんは、是非ともチェックをしてみてください! いや、本当にこの情報をいただいた方には感謝です!!この対談がきっかけになって、最近、自分が学生時代に聴いていたミクスチャーロックを引っ張り出してアレやコレやと聴いているんですが、当時は、まだ若干の距離感があった「ロック」や「パンク」「メタル」と「ヒップホップ」や「ファンク」「レゲエ」が交錯し、そして、新しい"音"を作り出す流れというのが、非常にクリエイティヴかつ刺激に満ち満ちていて、自分の中でリバイバルヒットを巻き起こしています。そういう刺激をアニメソングの世界でやってくれたのが、「もってけ!セーラーふく」で、5年経ってもこういう発見がまた出てくるのが凄い! 何というか…音楽って、アニメって、やっぱりおもしろいですね!
そんなわけで、ここ最近の自分の中でのヘビロテナンバーを貼って、このエントリの締めにしたいと思います! ワープ! ワープ! ワープ! ココロ・ワープ!!
*1:他だと、BACK DROP BOMBがサックスを効果的にバンドサウンドに使用していた位でしょうか?
*2:この時の音源がヒップホップの名曲をメタルやロックのバンドがカヴァーした「LOUD ROCKS」という企画盤に収録をされているんですが、このアルバムもミクスチャーロックのマテリアルとして凄い名盤なんで興味のある方は是非ご一聴ください!