TVアニメ「フォトカノ」とアイリッシュ・トラッド・ミュージック

 

 
4月から放送が開始されたテレビアニメフォトカノ。"カメラ"をテーマにしたフェティッシュな目線を全編に散りばめつつも、単なる"ちょっとエッチなラブコメ"に留まらない何とも味のある作品だな、と思う。どことなく90年代終盤〜2000年代初頭の美少女ゲームのアニメ化作品のような趣を感じる(つまりは、ちょっと垢抜けない…今風ではないけど味のある)ノリと手触りは、自分にとって何だか居心地がいいし、ヒロインを演じる20代と30代のジェネレーションが絶妙なバランスでレイアウトをされた女性声優さん達の演技も良い感じだ(特に、室戸先輩役の中原麻衣さん!)。あと、出てくる女の娘が皆、おっぱい大きいし。
 
そんな「フォトカノ」だけど、個人的に特に引っかかりを覚えたのが、そのBGM。そんなわけで、今回のエントリでは「フォトカノ」のBGMについてアレやコレやと!
 
 

■「フォトカノ」とアイリッシュ・トラッド・ミュージック

フォトカノ」の物語を彩るBGM…それを聴いていて、耳を奪われたのがホイッスルやアコーディオンを使用したアイリッシュ・トラッド・ミュージックのメロディーだった。
 


 
個人的に、アイリッシュ音楽と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やっぱりこのバンド。アイルランドの伝統的な音楽に、パブロック、パンクロックの要素を取り入れた偉大なる…そして、愛すべき酔いどれ集団、The PoguesDropkick MurphysFlogging Mollyのような"アイリッシュ・パンク"と呼ばれるアイリッシュ・トラッド・ミュージックのサウンドとスタイルにパンクのスピード感をミクスチャーをさせたバンド群の始祖として、リスペクトをされ続けているバンドである。
 
Vo.のシェイン・マガウアンの超個性的なキャラクターとダミ声によるヤケッパチな歌声…に加えて、アコーディオンバンジョーマンドリンといったアイリッシュ特有の楽器を使ったメロディーが、このバンドの大きな特徴となっているわけだが、こうしたアイリッシュ・ミュージックのエッセンスを作品内に持ち込んだアニメも幾つかある。例えば、安藤真裕監督のアニメ映画ストレンヂア 無皇刃譚」は、そんなアニメの代表格の一つとして真っ先に名前を挙げることができる作品だろう。
 
<ストレンヂア 無皇刃譚 / Trailer>

 
メインテーマで印象的に使用をされたティン・ホイッスルを始め、「ストレンヂア」には様々なアイリッシュ音楽の楽器が使用をされている。アイリッシュ・トラッド・ミュージックは、どこか悲しげな色合いを帯びていて、聴く者の胸に迫ってくるエモーションに満ちているが、本作において、そのサウンドやメロディーは、タイトル通り"異邦人"である主人公のキャラクター性を強調し、何とも言えない異国情緒を劇中に漂わせることに成功をしている。
 
とはいえ、アニメのBGMに使用をされるのは、なかなかに珍しいこれらの楽器とアイリッシュ・トラッド・ミュージックのメロディー。この辺の音楽が好きならば、思わず食指を動かされてしまうポイントである。
 
 

■「フォトカノ」の音楽を手掛けるクリエイターさん達

フォトカノ」では、スタッフクレジットに"音楽"として記述をされている窪田ミナさんによるシンセサイザーサウンドやピアノがBGMの中心となっているが、そこに併せて生楽器によるアイリッシュ・トラッド・ミュージックも使用をされている。
 
Webで調べてみたところ、本作でアイリッシュ・トラッドなBGMの演奏を手掛けているのは、どうやらO'Jizoという日本のバンドのメンバーであるようだ。このバンドで、ティン・ホイッスルやアイリッシュ・フルートといった管楽器を担当している豊田耕三さんと、アコーディオンやブズーキを演奏されている中村大史さん。このお二方が中心となって、「フォトカノ」のアイリッシュ・テイスト溢れる音楽は作られている模様。
 
O'JizoのオフィシャルHPでは、幾つかの音源も提供をされているので、興味があれば是非とも一聴を願いたい。心の琴線にダイレクトに触れれくる、そのエモーショナルなサウンドに、「フォトカノ」というちょっと変わったラブコメアニメを入口として触れてみるのも一興だ。
 
ところで、O'Jizoのメンバーによって演奏をされている「フォトカノ」のBGM。作曲をしているのは、窪田ミナさんご本人であるようだ。OPやBGMでは、透明感溢れるシンセ・サウンドが印象的な作曲術を用いている窪田さんだけど、そこに生楽器をふんだんに使用した…しかも、アイリッシュ・ミュージックをミックスさせた意図は、どこにあるのだろうか?
 
ここからは勝手な想像になるのだけれど、窪田さんには、英国留学とイギリスの音楽シーンでの活動経験があるそうで、その辺りの経験が本作の特徴的な音楽にもリンクをされているのではないだろうか? …なんて私は思うのだ。
窪田さんの曲といえば、個人的にはやはり「ARIA」シリーズの主題歌である牧野由依さんの「ウンディーネ」や「ユーフォリア」「スピラーレ」の印象が自身のリスナー体験、アニメファンとしてのメモリーに強く残っているのだけれど、それらの楽曲で聴くことができるストリングスを多用した汎ヨーロッパ的なサウンドを思うと、アイリッシュの音楽をアニメに持ち込むことは、窪田さんにとっても非常にナチュラルな流れだったのではないだろうか、と。
 
シンセサウンドと生楽器の融合。モダンなアニメ音楽とトラディショナルなアイリッシュ・ミュージックのミクスチャー。「フォトカノ」のBGMは、そのストーリーと同様に、どこか特別なニュアンスを持っていて、妙に惹かれる要素を含んでいる。
 
そんな、ちょっぴりビザールなニュアンスが大爆発をしていた第2話のラストシーンなんて、最高だったものなぁ。高いところから落ちてくる室戸先輩。顔面騎乗を食らう主人公。室戸先輩の弱みを握って、ゆすり(?)にかかる主人公。で、そのバックで流れるアイリッシュ・ミュージック。室戸先輩の堕ちっぷりとアイリッシュ音楽の絶妙な食い合せが最高だった。さながら、室戸先輩は文字通りの"堕ちた天使"だったということか。
 


 
テレビアニメ「フォトカノ」。音楽的にも、油断がならない作品ですね。