オタクへの畏敬と嘲笑の境界で−テレビ東京「TVチャンピオン」

 

先日、さかなクンのエントリーを書いたんですけど、それ以来さかなクンを生んだ「TVチャンピオン」という番組について色々と考えていまして、その辺りの話を今回は書いていこうと思います。
 
基本、映画と音楽、漫画とアニメの話題が中心の当Blogですが、実は管理人はテレビのバラエティー番組も大好きな人間なので、たまにはテレビの話でも。
 
いや〜、好きだったんですよ、TVチャンピオン
 
相当昔からやっていたイメージがあったんですが、Wikipediaで調べてみたら、1992年4月に放送を開始し、2008年の9月に後続の「TVチャンピオン2」が終了するまで、16年に渡って放送をしていたとのこと。
 
移り変わりの激しいテレビ業界において、これだけ長く続いていたのは凄い!
 
TVチャンピオン」っていったら、90分っていう変則的な放送時間の番組だったけれど、最初期の一時間番組だった頃とかも何となく覚えてるな〜。よっぽど好きだったんですね、自分。
 
 

■「TVチャンピオン」という番組の凄さ

 
何で「TVチャンピオン」という番組が、そこまで大好きだったかというと、毎回毎回「濃い」人たちを見ることができたから。
 
漫画やインスタントラーメン、魚の知識に秀でた人や、和菓子やパンの職人さん、あるいは「汗かき王選手権」*1みたいに何だか良くわからないけど人とは違う凄い人たちが、毎週毎週チャンピオンの座を目指しては競い合っていて、オタクやマニアと呼ばれる人たちに何故か惹かれてしまう僕にとって、「TVチャンピオン」はテレビ朝日で放送されていた「ウッチャンナンチャン炎のチャレンジャー これができたら100万円!!」*2同様、「自分の好きなことに対して、尋常じゃない情熱を持つ人」を見ることができる貴重な番組でした。
 
で、出場する人も一般の人ばかりじゃなくて、ライターさんとか、セミプロみたいな人が沢山出てたのも凄かった。
 
専門筋の人が出た回の放送って何気にガチンコ度が高くて、特撮番組の知識を競う「ヒーロー王選手権」では、当時「フィギュア王」でコラムを連載されていた安斎レオさんが、仮面ライダーの怪人の名前を当てる問題で、間違えてポケモンのキャラクターの名前を答えるという有り得ないイージーミスを犯し(後にコラムで弁明していたけれど、当時相当ポケモンにハマっていたらしい)、プロのライター、フィギュア・プロデューサーにも関わらず一回戦敗退。
それを後日、やはり「フィギュア王」でコラムを連載していた眠田直さんが同誌で批判する、というガチなやり取りがあったりしました。
ちなみに、この時の大会では声優イベントの司会でお馴染みの、ショッカーO野さんも出てたっけか。
 
ラーメン王の石神秀幸さんみたいに、この番組をきっかけに一躍有名ライターの仲間入りをする人なんかもいたので、やっぱり相当な宣伝効果もあったんだと思う。
(90年代半以降、「TVチャンピオンの○○選手権で優勝した達人オススメの!」みたいな宣伝文句が、雑誌なんかで氾濫していた記憶があります)
 
92年とかだと、世間のオタクに対するイメージって、まだ宅八郎だとかその辺止まりだったと思うし、今ではオタク的知識を持つ素人さんや有名人(半田健人さんとか)がテレビに露出するのは普通だけど、そういう人たちに早々とスポットライトをあてていたのは、やっぱり先見の明があった番組だったな、と今になって思うのです。
 
 

■オタクに活躍の場を与える優しさ

TVチャンピオン」って、インターネットが今ほど普及してなかった時代に、オタク体質の人が自分の知識や実力を披露できる数少ない場所だったと思うんですよ。
 
自分の中で凄い名場面があって、何回目かの「漫画通選手権」で、選手がお題に書かれた漫画のキャラクターを描いて、一般の人にキャラクターの名前を当てさせて正解数を競うっていう問題があったんです。
で、出演した選手の一人で、途中までは順調に正解数を重ねていたんだけど、「キン肉マン」のロビンマスクを描く問題で、一般の参加者がだれも答えられない。
知識とは別にバラエティー色の強い問題だったし、もしかしたら、その場にいた人全員が誰もロビンマスクを知らなかったのかもしれない。
だから、そこはパスして次の問題に行けばよかったのに、パスしようとしない、何度も何度もボードにロビンマスクのイラストを書き直すんですよ。
 
で、結局、制限時間が来ちゃって、その選手はそこで脱落しちゃった。
 
レポーターの中村有志さんが、「どうして、パスして次の問題に行かなかったの〜!」って残念そうに尋ねたんだけど、
その問いに対して、その選手泣きそうな顔して、
 

  
「いや〜、俺ロビンマスク大好きなんですよ〜!」
 

 
って言ったんですよ! ロビンマスクが大好きすぎて、固執するあまり、勝負を忘れてしまった、と。
 
この無駄なんだけど、ひたすら熱すぎる情熱!
 
そこはバラエティー番組だから、そういう人の情熱を「ネタ」にしちゃう部分も無きにしもあらずだったんだけど、レポーターの中村有志さんの名調子のお陰もあり、そこまで嫌味には感じなかったな。
 
とにかく製作者側も、そういう人たちの情熱や知識に対して、ちょっと呆れつつも、あくまでも「畏敬」の念みたいなものがあったんだと思います。
 
出演者の中には、知識や能力が突出し過ぎている故に、ちょっとバランスがとれていないというか、物凄く変わった人たちも多かったんですけど、そういう人たちに対する視線も優しかったんですよね。
「手先が器用選手権」では、なぜか作務衣姿で、リカちゃん人形を背中にくくりつけた異様な男性選手(名物選手で、何度も同大会に出ていた)がいたし、さかなクンこと宮沢正之さんなんかもそうだと思うし、最初期はフリークス的な要素が強かった「大食い選手権」に出場していた選手みたいに、世の中のオルタナティヴな人たちに対して居場所を与えて、全国区の電波に乗せていたってのが、今考えると懐の深い番組だったな、と。
 
道徳的、社会的影響はひとまず置いておくとして、「大食い選手権」の選手なんて、その後ブームになって、ギャル曽根さんみたいに、文字通り「食える」ようになった人もいますからね。
 
 

■「畏敬」から「嘲り」へ − 「電車男」以降のTVチャンピオン


突出した個性や膨大な知識量の持ち主を視聴者に提供することで人気を保ってきたTVチャンピオンですが、インターネットの普及により、知識のデータベース化(表面上の「知」ならば、ネット上のデータベース化にアクセスすれば、万人が平等に知識を得られるようになった)により、知識量よりは見せ方や、センス、プレゼン能力が重要視されるようになった2000年代以降、TVチャンピオンは番組本来の魅力を急速に失っていったように思います。
 
従来の「○○通選手権」のようなマニアックな知識を競う企画は減っていき、ガーデニング王や、ペットしつけ王など、視覚的にプロフェッショナルの工程が分かりやすい企画が、時々の流行を取り入れながら乱発されていきます。
 
また、アキハバラへの世間の注目が集まり始めたことにより、「オタク」自体がテレビ的にメジャー化。TVチャンピオンの手法は、バラエティー番組として珍しいものではなくなってしまいました。
 
そんな中、放送された企画が、「アキバ王選手権」です。
 
いわゆる「アキバ系」のオタク数名でアキバ文化の知識量を競うという企画だったのですが、参加者は全員ライターや、秋葉原の店舗勤務者といった、従来の「プロ、セミプロレベルの参加者が、プロフェッショナルとしての知識量や技能を競い合う」といった内容とは程遠く、
 
「いかにもオタク然とした素人参加者の奇妙な振る舞いや言動を嘲りの対象とする」
 
という非常に悪趣味なモノに感じられました。
 
番組で扱われる「アキバ的なモノ」も、ゲスト出演した声優さんは、ゴスロリ服を身に纏った清水愛さん、「永遠の17歳井上喜久子さん、番組で紹介されたお店も「@home cafe」のように、極端な例ばかり(もちろん、テレビ的なことを考えると、そうしたモノの方が絵として扱いやすいのでしょうが…)。
 
決勝では、勝ち残ったオタク選手が、彼らのこと(というか、アキバ文化全般を)を「キショい」と嘲笑する女性を、自分好みにコスプレをさせて、その完成度を競う、というオタクから一般社会への間違った侵攻が画面に大写しにされ、見ていて何とも暗澹たる気持ちになるとともに、テレビの世界において「TVチャンピオン」という番組が成すべきことは最早何もないのだ、という現実を突きつけられたのでした。
 
「畏敬」から「嘲笑」へ。
 
番組を支え、最大の魅力となっていたマニアックな知識を、完全に「嘲り」の対象にしてしまったこの瞬間、TVチャンピオンという番組は終わってしまったのだと思います。
 
 

■感動路線の後続番組「チャンピオンズ」

TVチャンピオン終了後、新番組として始まった「チャンピオンズ」。
司会、番組進行に元プロレスラーの高田延彦を起用し、TVチャンピオンの優勝者達が、プロとしての技術を駆使し、様々な人々の手助けを行うという番組へとシフトチェンジしました。
 
見てみると分かるのですが、依頼者のドラマを軸とした「感動」をウリにした番組です。
 
僕は、この路線が良いのか悪いのか分かりません。
もしかしたら、凄く人気が出て、「TVチャンピオン」以上の長寿番組になるかもしれない。
 
ただ、この番組に以前のようなオルタナティヴな才能を持った人が入り込む余地はないように思うのです。
 
 
願わくば…。
 
今、ネットの世界では誰もが気軽に情報の発信者になることができ、データベースにアクセスすれば等しく知識が手に入る時代です。
だからこそ、そんな中から本当に情熱を持った人たちが活躍できる場所、集まれる場所として、「TVチャンピオン」みたいな番組がテレビの世界にあればおもしろいと思うんですけどね。
 
漫画サイトの管理人さんが集まって行う「漫画通選手権」とか凄くおもしろそうじゃないですか?
 
 

*1:汗っかきの人を集め、一番汗をかいた人がチャンピオンという、トンデモない企画

*2:「アニメのキャラクターを100問連続で当てたら百万円」みたいな企画で、素人時代の桃井はるこさんが出てたんだよね〜。