"アメプロ"的な視点で観てみる「ウィッチクラフトワークス」

 

 
1月から放送をスタートした水島努監督の最新作ウィッチクラフトワークス。現代的な舞台に魔法使いが登場をするファンタジックな世界観をミックスさせたアニメで、学園モノに魔法による能力バトルをクロスオーヴァーさせた展開が楽しい。見た目も内面も絶妙に"濃い"キャラクターが多数登場をするのも魅力の一つか。
 
さて、そんな「ウィッチクラフトワークス」だけど、原作未読の人間でアニメでこの作品に初めて触れた自分が驚いたのが「主人公が物凄く強く、圧倒的に敵が弱いこと」だった。第一話を観て、王道のバトルもの的なアニメかと思いきや、主人公の火々里さんが割りとアッサリと敵キャラのたんぽぽを一蹴。で、ラストに仲間を引き連れて主人公たちの学校に転校をしてくるたんぽぽだけど、第二話の冒頭でこれまたアッサリと敗北。
 
余りにも呆気無くヤラれるたんぽぽ達の存在に、思わず脱力をしてしまった自分だけれど、これは本作のメインは魔法を使った超能力バトルではなく、主人公とヒロインのファンタジックなラブロマンスだから…という解釈で良いのだろうか? とはいえ、如何にも雰囲気タップリに登場をしておきながらビックリする位、弱い塔の魔女5人組の存在感はやっぱり特異だ。キャラソンがエンディングに起用される等、製作者側からも"推し"を受けている印象のある塔の魔女5人組。敵ではあるものの、何だか憎めない存在だ。
 
で、今回のエントリでは、本作に対してちょっと斜めから…というか、プロレスファンとしてちょっと穿った視点から、塔の魔女5人組を中心にアレやコレやと語ってみたい。
 
 

■ビックリする位弱い塔の魔女達

冒頭に書いたように、本作に敵キャラとして登場をしている塔の魔女達は弱い。物凄く弱い。いや、弱いというか、主人公である火々里さんが余りにも強過ぎるのだ。
 

 
一対一で歯が立たないどころか、第二話では一対五のハンディキャップマッチでも火々里さんに秒殺をされる始末。その後、デパートの中で、別の塔の魔女が3人掛かりで戦いを挑むも、やはり圧倒をされて瞬殺をされている。
 
"異能力バトルもの"という視点で本作を観た時に、この敵キャラの驚異的なまでの弱さはやはり目を惹く。そして、そういった視点で観てしまうと、ちょっとこのアニメに対して物足りなさを感じてしまう人もいるかもしれない。それが"ライバル"と呼ばれる様な親密さを併せ持ったキャラクターだろうと、或いは、極悪人だろうと、主人公の反対側に立っているキャラクターは強大であればある程、"燃える"ものだからだ。
 
ただ、ここで自分なんかはちょっとプロレス的な視点をこの作品の中に持ち込んでみたい。それもアメリカのプロレス…所謂"アメプロ"と呼ばれるジャンルにおける視点と考え方を。
 
 

■アメプロにおける"ジョバー"という仕事

アメプロには、俗に"ジョバー"と呼ばれるポジションにいるレスラーがいる。直訳すると"仕事人"という意味になるこのレスリングビジネス界の俗語。一言で言ってしまえば、"負け役""引き立て役"のレスラーのことだ。
 
彼らは、団体のスター選手を輝かせる為に、或いは、凶悪なヒールレスラーの凶暴性を引き立てる為に、自信のプライドや身体を投げ打って"仕事"に徹する。要は、相手に徹底的にヤラレまくるのだ。具体的に彼らが、どういう試合を行うかは以下の動画なんかを観ていただければ分かりやすいと思う。
 
WWE / Top 10 WWE Jobbers>

 
相手の技をひたすら受けに受け、ボコボコにされるジョバーのレスラー達。ようやく反撃の糸口を掴んで必殺技を放つもほとんど相手に効かない(大抵は、相手に受け止められ絶望的な表情を浮かべながら、そのままぶん投げられてしまうのが"お約束"だ)し、時には一対二とか一対三のハンディキャップマッチなんかでも負けてしまう。
 
では、彼らが弱いから、勝てないからといってダメダメなレスラーなのかというと決してそうではない。これがアメプロのおもしろいところで、大抵の場合、こうした"ジョバー"はテクニックのある実力派のレスラーが務める場合が多いのだ。彼らは、試合運びが巧みで、また、抜群に受け身も上手い。相手の技を食らって綺麗に倒れることができるので、対戦相手や技が物凄く強そうに見える。能ある鷹は何とやらではないけれど、真の実力を隠し、レスリングファンの為、団体の為に我が身を投げ出して"負け役"に殉じてみせるのが"ジョバー"の生き方だ。
 
試合を盛り上げる為ならばどんなに無様な姿を晒しても耐えるし、相手を輝かせる為ならばどんなに危険な技を受けることも厭わない。ある意味では、究極の自己犠牲の精神とも言える"ジョバー"という生き方。彼らがいないと、レスリングビジネスや興行は決して成り立たないのだ。
 
 

■塔の魔女達の見事なジョバーっぷり

さて、"ジョバー"について簡単に説明をしたところで、話を元に戻して「ウィッチクラフトワークス」の話だ。この物語の中で、塔の魔女達の圧倒的な弱さについてアメプロの演出術的な見方を加えたらどうなるか…? そうすると、彼女たちがビックリする位、見事に"ジョバー"の役割をこなしていることに気付くのである。
 

 
火々里さんの圧倒的な強さを引き立てる為に、自分達は身を投げ打って"負け"てみせる。彼女たちがいるから、火々里さんは強く見えるし、露悪的な言動をする塔の魔女達がいるからこそ、火々里さんの"ベビーフェイス"としての存在感もより輝いて見える。確かに、火々里さんは強い。ただ、アメプロファンからの目線で言うならば、その強さはたんぽぽ達の弱さがあってこその強さなのだ。かつて、WCWで連戦連勝を重ねていた"超人類"ビル・ゴールドバーグか、はたまたWWE時代のブロック・レスナーか…。自分でも穿った見方だなとは思うけれど、「ウィッチクラフトワークス」は「塔の魔女が火々里さんを引き立てる為に、甘んじて負けている」というアメプロ視点で観てみると抜群におもしろい。たんぽぽ達は、本当にジョバーとしての仕事を完璧にこなしている
 
ちなみに、ジョバーのレスラーはレスリングファンに愛される。彼らの奉仕の精神の上に試合や興行が成り立っていることを中級以上のマニア層は皆、知っているからだ。塔の魔女5人組のあの何とも憎めない独特の存在感にも通じる話だな、と思う。