「のうりん」の悪意の無さと優しいキャラクター、優しい世界観

 

 
今回のエントリでは、テレビアニメのうりんを観ていて思ったことについてアレやコレやと!
 
 

■「のうりん」のお下劣さと、その一方での悪意の無さ


 
大沼心監督の新作アニメ「のうりん」。シモネタ、エロネタとパロディをてんこ盛りにした作品で、そのシモ方面に関するパワーと破壊力たるや、あらゆるエンターテインメント、ショービジネスの中でも最も下品な作品の一つであろう90年代後半の"アティチュード期"におけるWWFに一時期ハマり、相当に"下品慣れ"をしていることを自負していた自分でも余りの下らなさに思わず吹き出してしまう程。
 
毎週毎週、巨乳の女子レスラーが下着剥ぎマッチをやったり、団体の代表がレスラーに睨まれて観客とテレビカメラの前で失禁をしたり、日々、惚れた腫れたの下世話な愛憎劇を展開していたり…と、やりたい放題をやっていた一時期のWWF並にハチャメチャをやっている「のうりん」。アラフォー女教師のM字開脚に女体盛り、ヒロイン同士による泥レス、キノコをまんま男性器に見立ててのコメディ展開、或いは、ヨーグルトを精液のメタファーにしての演出…などなど、いやぁ、これは本当にしょーもないしドギツイ! こういう"下品"や"お下劣"に免疫がない人間なら怒り出してしまいそうなハードコアなギャグが次々に繰り広げられます。…いや、自分はこんなん大好きですが。
 
そんなどーしょーもない(でも好きだ)笑いのオンパレードな「のうりん」ですが、個人的に凄く好みなポイントがありまして、それっていうのは今のところ"悪人"と呼べるようなキャラクターが一人も出てきていないこと。主人公である耕作や林檎に対して悪意を持った人間が一人も出てこないところなんです。
 
そういう意味ではのうりん」は、凄く優しい作品で、同じく大沼心監督作、ラノベ原作のコメディアニメであるバカとテストと召喚獣よりも自分は好き。「バカテス」はバトルものの要素もあった作品だったので主人公たちの魅力、能力の引き立て役として登場をする類型的な悪役キャラ(OVAの学園祭回での不良とか)の存在がどうにも気になっていたもので…。だから、そういう単純な"悪"の存在が皆無で、ひたすらお馬鹿なコメディに徹している「のうりん」の性善説的な世界観(勿論、この後のストーリー展開次第では、そういう善悪とかの対比が行われたりもあるのかもですが…)っていうのは凄く居心地が良く感じられる。
 
そんなわけで、件のシモネタに関してもある種のピュアさがあるというか、子どもが「チンチン」とか「おっぱい」とかやたらと口にしたりする、そういう無邪気さみたいなものすら感じられる。シモとエロが跋扈をする世界ではあるんですが、不快さは意外と少ないんですよね。
 
 

■優しいキャラクターと優しい世界観

キャラクターのレイアウトだけじゃなく、「のうりん」という作品はストーリー展開においてもそういう優しさが徹底しているというか、悪意のなさが貫かれている気がします。自分がそれを強く意識させられたのが第6話の「萌(めぐみ)の錬金術師」というエピソードで、これ、主人公たちが無精卵(作中での表現は「ゴムをつけたときの卵」…酷いなぁ…)を萌え商法で販売をして大儲けをするというエピソードなんですが、劇中でその商売の規模が加速度的に肥大をし続けていく様が描かれていくんです。それで、コメディ作品なんでオチとしては調子に乗った主人公たちが最後の最後に大失敗をして破綻が来て終わるんだろうな…っていう結末が見えるじゃないですか。そういう話だと。
 

 
その肝心のオチの部分なんですが、まぁ、大筋としては前述したような展開になるんですが、件の萌え卵に関しては大成功をしたままで終わるんですよ。で、そこで一部の人間だけが次により過激な萌えビジネスに乗り出そうとしてそれは頓挫をする…というラストで。だから、途中までの皆が自分たちの作った卵を一生懸命売ろうとして力を合わせて頑張る姿っていうのは、ちゃんと報われたままで終わるんです。そこに関しては大成功で、問題はその次だったねっていう…そういう締めなんです。
 
しかも、その失敗をする儲け話を持ちかけたフィクサー的な人物であるマネー金上も、ちゃんとキャラクターとして魅力があるというかカッコ良く描かれているし、話のオチとしては商売が失敗して終わるというものではあるんですが、誰も損をしない描き方がされているんです。この辺のバランス感覚、自分は素直に凄いなぁとこのエピソードを観ていて感心しました。
 
だから、基本的に皆が皆、優しいんですよね。「のうりん」のキャラクターって(四天農が落ち込んだ林檎を励ます為に耕作達の前に集うシーンとか凄い好き)。そもそも「のうりん」の登場人物はバカと変態ばかりですが、そんな人達が凄く楽しそうにしている世界という、その作品世界の根底の部分からして優しい。しかも、そういったキャラクターを巧く使って、農業の現況とか「もやしもん」よろしく農作物や酪農に関するトリビアルな知識であるとか、或いは萌えビジネスの本質であるとか…を真摯に描いていたりもする、そんなストーリー描写の上手さもある。
 
あれだけ、ドギツイシモネタ、エロネタをやりつつも、それでも不愉快な感じが余りしないのは、やっぱり、そういう優しさだったりとか真摯さ、上手さがあるからではないかと思うんです。原作未読ながらも、アニメでここまでのエピソードに触れた、そんな「のうりん」初心者である自分は、この作品に対してそんなことを思います。